第30話 パーティメンバーの募集

「パーティメンバーを増やすしかないか」

 クエスト放棄の報告後、アルがクスノキ亭への帰り道でそう言った。


「アル、いいの?」

 レネオがアルの表情を確認しながら訊いた。


 二人だけでやっていこうと、強くこだわっていたのはアルの方だった。

 レネオもそれは賛成していたが、別に二人じゃなきゃ嫌だというほどでもなかった。


「やっぱ、あのクエストをクリアできないようじゃ、冒険者になったことにはならねえと思うんだ。だけど、もう一つレベルが上がったところで、結局無理な気がするしな……」


「そうだね。あと前線が一人、回復が一人、最低でもそれがいないとあんな連戦は続けられないと思う」


「レネオもそう思うか。――――よし! そうと決まればギルドに戻るぞ! ジャンのおっちゃんに、どうやってメンバー探せばいいか相談してみようぜ!」

 アルが吹っ切れたように言うと、来た道を引き返していった。


「アル、待ってよ」

 レネオは慌ててアルを追いかけながら、

「もう受付時間終わってると思うよ」

 と付け加えた。


 空はすでに暗くなり、辺りのお店も閉まっていた。

 冒険者ギルドは朝早くから受付が開いているが、夜はあまり遅くまでやってない。


「あ、そうだよな。明日にするか」

 アルは急に立ち止まると、またクスノキ亭へ足を向けた。


「ハハ。アルはせっかちだね」

「いや、少しでも早く、またダンジョンに行きたいしな」


 クエストは失敗したが、光明が見えた気がして、二人は軽い足取りで帰路についた。



 次の日、アル達は朝一で冒険者ギルドに顔を出した。


「そうか、それはいい考えだな!」

 パーティメンバーを増やしたい話をすると、ジャンは嬉しそうにそう言った。


「だろ! で、どうやったら探せるんだ? 酒場とかで声を掛けたりするのか?」

「まあそれでもいいが、パーティメンバー募集の掲示板を利用するのがいいだろうな」

「パーティメンバー募集の掲示板?」


 ジャンの説明では、受付から見て右側の壁にあるのが、パーティメンバー募集の掲示板とのことだった。

 実施するクエスト、希望するメンバー、募集者が表示されている。


 普段のパーティでクリアできないクエストをやる時に追加で探したり、ソロ同士が集まって臨時パーティを作ったり、複数のパーティで挑戦する共同クエストの募集もあるようだ。


「今回のおまえらみたいに、あと二人欲しい時なんかにピッタリだろ」


 アルとレネオは、そういえば文字が光ってる壁が何なのか、ずっと知らないでいた。

 ジャンと話せば事足りていたので、気にも止めてなかったし、パーティメンバー募集掲示板なら関係もなかった。


「あれはそういうやつだったんだな! やってみようぜ!」

「では是非あの掲示板に、募集を出してもらっていいですか?」


 二人が依頼すると、ジャンは操作画面を出した。

 「この前のウォルテミスダンジョン探索の募集でいいんだな? 前衛系が一人と回復系が一人、と」


 いくつか画面を操作した後、ジャンは画面を消して、

「これで募集中になったぜ。ひよっこ二人とダンジョン探索だから、簡単には見つからんかもな」

 と言った。


「おっちゃん助かるぜ」

「ま、気長に待つことだな。朝来た時に応募があったら教えてやる。なかったらいつも通りのクエストでもやるんだな」


「分かりました。とりあえず今日は一日で出来そうな簡単なやつ探してもらえますか?」


 アル達は当日分のクエストを受けると、掲示板で自分達の募集を探してみた。


「おっ、あれだぜ」

 アルがすぐに見つけた。



 募集者   :戦士アル(レベル11)

        魔法使いレネオ(レベル11)

 クエスト  :ウォルテミスダンジョン探索(ランクE)

 希望メンバー:前衛系(1名)

        回復系(1名)



「こういう風に出るんだね」

 他の募集も見てみると、アル達とレベル差があるのが目についた。


 北エリアの冒険者ギルドは低レベル層向けではあったが、それでも募集しているのはレベル15以上しか見当たらない。

 こういうのを見ると、まだまだ先は長いなと二人は感じていた。


「ま、冒険者になって一年も経ってねえんだし、こんなもんだろ」

 アルはそう言いながら、自分たちの位置を確認し、強くなってやるという決意を改めて思い出した。



 翌日も朝一で冒険者ギルドに訪れたが、応募はないぜとジャンに言われた。

 仕方なく普段通りのクエストを見繕みつくろってもらい、二人で出かけることにした。


 その翌日も、さらに翌日も、パーティメンバーの応募はなく、今まで通りのクエストをして過ごすことになった。


「なあ、おっちゃん。メンバー探すのってこんな待つもんなのか?」

 アルは辛抱できない様子で、ジャンに訊いてみた。


「慌てるな。こういうのはタイミングもある。パーティ応募は早ければ一日の時もあるが、見つけるのに一カ月かかるときもあるからな。あまり気にせずいつもの生活に戻ることだな」


 ジャンが言うには、やはりレベルの低さが応募のない原因になっているようだ。

 パーティを組んでダンジョンに挑戦するというのは、命の危険が伴う行為だ。命を預ける仲間と言っていいパーティメンバーを、簡単に決められるようなものではないのだという。


 アルとレネオは元の生活を続けながら、長い目でパーティメンバーの応募を待つことにした。

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