第29話 ダンジョン挑戦②

 二戦目もすぐにやってきた。

 通路を抜け大きめの部屋に入ると、ゴブリンが四匹待ち構えていた。


「広がっているから、スリープは二匹までかも」

「じゃあ左の二匹を頼む!」


 アル達は、倒す敵の優先順位を決めることにした。

 盾を持っている相手は後回しで、攻撃力が高そうな相手を早めに。そうすることで戦闘時間を長引かせず、ダメージを最小限に抑えられると考えた。


 四匹のうち、向かって右側二匹が盾を持ち、左側二匹が盾なし。一番左が両手で剣を構えている。

 アルは左から順に倒していくと判断した。


 フレイムアローも惜しみなく早めに使うことにしていた。

 二回目の使用を視野に入れ、インターバルを考えると早めに一回目を使っていた方が良いと考えたのだ。


 二人の目論見通り、左のゴブリンから順番に退治することで、ゴブリン四匹相手でも勝利することはできたのだが、それでもダメージは想定以上に受けていた。


「今回はポーションを使うはめになっちまったな……」

「仕方ないよ。赤くなったらポーション使うって決めておかないと危険だからね」


 ポーションは戦闘中でも即HPが回復する。

 回復職がいないアル達にとっては、高価であっても危険を感じたら使うしかなかった。


 アルはポーションを使っていたが、結局戦闘後はHPが半分以下まで減っていて、今回も薬草で回復を待ってから出発することになった。



 三戦目は通路での遭遇だった。

 ゴブリンが五匹、これまでで最大の数を相手にしたが、幸い最初のスリープで四匹を眠らせることができたので、ポーションを使うことなく全滅させることができた。


「わりい、レネオ……」

 アルは傷を負ったレネオを心配そうに見た。


「大丈夫、一発喰らっただけだから」

 レネオは痛みを堪えながら笑顔で答えた。


 途中で目覚めた一匹がレネオを攻撃していたのだ。

 フォローに入るアルの反応が少し遅れ、一撃だけレネオがダメージを受けた。


「ねえアル。今回はここまでにしようか。薬草をこんなに使うとは思ってなかったし、MPもあと一戦分ぐらいしかないかも」

「そうだな……。一度出直してくるか……」

 レネオの提案に、アルは悔しそうに賛同した。


 二人の目的地は地下三階。

 まだ地下一階でしかなく、あとどれだけ戦う必要があるか分からなかった。

 こんな状態で続行するのは難しいと、アルでも感じていた。


「念のため、お互い薬草を使ってから戻ろう」

 レネオは薬草使いながら、アルにも使うよううながした。


 アル達はHPの回復を待ち、来た道を戻り始めた。



 途中、分かれ道はなかった。

 通路は何度か折れ曲がっていたが、道なりにまっすぐ歩いてきた。

 二戦目の大きな部屋も、他に出入り口があったように見えない。


「お、おい……。どうなってんだよ……」

 一戦目を戦った近くまで辿り着くと、ゴブリン達とまた遭遇した。


「アル、考えてる余裕はないよ」

「分かってるっ!!」

 アルはレネオにそう返事しながら、剣を抜いて駆け出した。


 四戦目はゴブリン三匹。

 慣れたおかげで、一戦目より苦戦せずに倒すことができたが、薬草を使わずに済むまでには至らず、レネオのMPも尽きた。


 それから五戦目はなく、二人はなんとかダンジョンから出ることができた。



「はあ……。マジ疲れた……。あれがダンジョンか……」

 部屋に戻ると、アルがそう言いながらベッドへ転がり込んだ。


「うん、きつかったね。それに……、帰りにもいるとは思わなかった」

 レネオも荷物を置きベッドへ寝ころんだ。


「だよな! 全部倒して進んだはずなのに、なんでまたいるんだ?」

「分からない。もしかしたら気付かなかった道があったのかも」


「んんー。そんなのなかったと思うんだけどなあ」

「僕もそう思うけど、ゴブリンがいたのは事実だし。何にしても、帰りも遭遇するのを計算して進まないといけないね」


 二人は地下三階の祭壇の間まで行けばいいと思っていた。

 しかしレネオの言う通り帰りの戦いも考える必要が出てきたので、このクエストの難易度の高さを強く感じた。



 翌日は休養と準備に時間を使い、アル達がダンジョンへ再び向かったのは二日後だった。

 薬草やポーションだけではなく、松明も多めに準備した。少しでもMP節約のため、ライトは使わず松明だけで進むことにした。


「さあ、今度こそクリアするぞ!」

 二人は気合を入れなおし、二度目のウォルテミスダンジョンに挑んでいった。


 地下一階の最初の部屋に行くと、いきなり前方に気配を感じた。

 一瞬、いきなりの遭遇戦かと思ったが、相手が光を照らしながら歩いているので、すぐにモンスターじゃないと分かった。


「やあ。あんたらはこれからかい?」

 先頭を歩いている男が声を掛けてきた。


 どうやら他の冒険者パーティのようだ。

 戦士系の装備をしているものが二人、魔法使いが一人、僧侶が一人、あと一人は隣人のスパーノに似た服装なのでシーフなのかもしれない。


「ああ。これから地下三階まで行くところだ」

 アルが答えた。


「そうか。俺らは帰りさ。二人だけなんてやるね。まあ頑張って」

 彼らはそのままダンジョンの出口に向かって階段を上っていった。


「ねえねえ、今の子たち二人だけ?」

「僧侶もなしで三階って無謀じゃな」

「弱そうに見えたけど、レベルが高いのかもよ」


 彼らの声は筒抜けだった。


「そっか、他の冒険者も来てるんだね」

 レネオがそう呟くように言った。


 前回はたまたま会うことがなかったが、ウォルテミス周辺にダンジョンがそんなにあるわけではない。

 ダンジョン内で他の冒険者と出会うのは普通のことなのだと二人は思った。


 気を取り直し、アル達はダンジョン内を進んだ。


 地下一階での戦闘は、どれもゴブリン三匹から五匹。

 ゴブリン以外のモンスターに会うことはなかったし、それより多くも少なくもない。


 一度目と違い、二人は薬草やポーションも、MPも節約しながら戦闘を勝利していった。

 そして地下二階へと続く階段を見つけることができた。


「ここまででゴブリンとの戦いは六回。一昨日に比べたら楽に勝てるようにはなったけど……」

 レネオは杖を頭にあてながら、少し考えこんだ。


「レネオ、考える必要はねえ。今回も撤退だ」

「アル……」


 二人とも分かっていた。

 一戦一戦はそれほど苦戦しないようにはなったが、薬草を使わないわけにはいかない、魔法も使わないわけにはいかない。

 どう考えても地下三階まで行けるとは思えなかった。


「MP回復のポーションは高価で手がでないから持ってないし、あと一回スリープを使ったらMPは半分になるから、この辺で引き返さないとダメだよね……」


 アルとレネオは、一回目の挑戦ですでに分かってはいたが、ここへきてクエストを諦めることを認めた。


「ジャンのおっちゃんのとこに戻るか……」

 二人はクエスト放棄を報告するため、冒険者ギルドへ戻ることを決めた。

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