第28話 ダンジョン挑戦①

 ウォルテミスダンジョンの入口は、タオスの森の中にあった。

 扉があるわけではなく、石で作られた入口には結界が張ってあり、それによりモンスターが中から出ることを防ぐと共に、関係ないものの立ち入りを禁止している。


「許可を受けてないと、入口の結界は通れないみたいだね。クエストを受領すると通れるようになるみたい」

 レネオは結界を素通りできることを、手で確認しながら言った。


「先生の話でよくダンジョンって言葉が出てたから、なんか冒険の定番って勝手に思ってたんだけど、ダンジョンてなんだっけ?」

 今更ながら、アルはダンジョンをよく知らなかったのでレネオに訊いてみた。


「ダンジョンは簡単に言うと地下遺跡だね。遥か昔、まだ世界に魔王と呼ばれる方がいた時代に作られたと言われてるようだけど、誰が何の為に作ったのかは分かってないみたい。世界中のあちこちに存在していて、今はどれもモンスター生息エリアになってるんだよね」


「地下遺跡か、なんかワクワクしてくんな!」

「うん! やっぱり冒険って言えばダンジョンだからね。モンスターが現れる代わりに、普通では手に入らないようなアイテムを見つけることができるし」


「よっしゃ! 俄然やる気が出てきたな!!」

 アルが自分の掌に拳を打ち、音を鳴らした。


「はは、こういうの何か久しぶりだね」

 アルの様子に、レネオも楽しくなってきた。


 ここのところ、楽しいと思うことが正直少なくなっていた。

 戦闘系のクエストは同じような内容しかなく、後は冒険とは言えないようなお手伝いばかり。

 生活とはそういうものなのかもしれないが、夢を描いて旅立った若いアルとレネオには、だんだん退屈が優っていった。


「じゃあ松明はアルが持ってね」

 レネオは松明に火を点けアルに渡した。


「ライトの魔法は控えるんだったな」

 アルは松明を受け取ると、盾だけ構えてダンジョンの中へ入っていった。


 中は入口からすぐのところで降りる階段になっていて、地上からの光はあっという間に届かなくなった。

 ダンジョン内に明かりがあるわけではないので、アルが持つ松明だけが辺りを照らす。


 地下一階に降り立つと、広間のようなところに出た。

 遺跡というだけあって、作られてから長い時間の経過を感じさせる、手入れのされていない石造りの大部屋だ。


「中は思ったより寒いんだな」

 アルが呟くと、その声が響き渡る。


 アルは松明で左右にも光をあて周辺を確認した。

「何にもなさそうだ」


 石に囲まれた広い部屋には何もなく、正面には4、5人なら並んで歩けるような幅の通路が続いていた。


「このまま進むぞ」

「うん」

 二人は慎重に通路を進んでいった。


「アル、待って!」

 少し歩くと、レネオが小さい声で素早く言った。


「どうした?」

 アルは足を止め、緊張した声で訊いた。


「何か聞こえた気がする」

 レネオが物音を立てないよう耳を澄ませる。

 アルも松明の光が届かない暗闇の向こうへ意識を向けた。


 ――――――何かいる。


 二人ともそう確信した。

 数カ月ぶりの緊張感が全身を駆け抜けた。


「ライト!!」

 レネオがライトの呪文を唱えると、杖の先が光り、松明の数倍の広さを照らした。


 すると通路の先に、緑色の肌をもち醜悪な姿をした人間型の生き物が三匹いるのを見つけた。

 大きさは人間の子供ぐらいで、三匹とも手に武器を持っている。


 アル達はそれがゴブリンだとすぐに理解した。

 突然の光に三匹とも手を上げまぶししそうにしているのを、アルは見逃すことなく攻撃に入った。


「レネオ、先に頼む!」

 アルはそう叫びながら松明を投げつけ、剣を抜いて走り出した。


 その声を聞くと同時に、レネオがスリープの呪文を唱えると、二匹のゴブリンが膝をついた。


「うおおおぉぉぉっ!!」

 アルはスリープの効かなかったゴブリンに向かって剣を突き刺した。


 ザクッ


 アルの手に、肉ではない感触が伝わってきた。

 刺さったのはゴブリンの持つ木製の盾だった。


「こっ、こいつっ!」

 アルはすぐに引き抜き、再度ゴブリンに斬りかかるが、それも盾で防がれた。


 ゴブリンも棍棒で攻撃してくるが、アルはしっかり盾で受け止めた。

 強くも早くもない攻撃だったが、アルの攻撃もうまく防がれる。


 アルは必要以上に手間取ってる自覚はあったものの、少しずつ攻撃を当て、相手を鈍らせていった。


「アル! 横のヤツが!」

 レネオが後方から大声を出した。


 アルはすぐに反応し、視線を横に向けると、スリープが効いていたはずのゴブリンが大型ナイフで攻撃をしてきた。


「なっ!? もう動けるのか!」

 アルの肩にナイフが刺さる。


「てぇっ、くっそぉぉっ!」

 アルはそう叫びながら、盾で叩きつけゴブリンから離れた。


 想定よりスリープの効いてる時間が短かった。

 普段相手をしてるウルフなどと比べると、モンスターは耐性が違うようだ。


「まだ動かない一匹は今のうちにやるよ!」

 三匹を同時にアルが相手するのは難しいと判断し、レネオはうずくまっているゴブリンへフレイムアローを唱えた。


 アルはそのゴブリンが炎に包まれているのを確認しながら、二匹を同時に相手した。

 盾持ちの方は後回しにし、攻撃受けるのを覚悟でナイフ持ちのゴブリンを集中的に攻め立てる。


 なんとかナイフ持ちを倒した頃には、アルもだいぶ血を流していた。


「盾のやつは僕が!」

 見かねたレネオは、再びフレイムアローを唱え、残りの一匹にとどめを刺した。


「ふう。なんとかフレイムアローのインターバルが間に合ったね」

 最後の一匹が消えるのを確認し、レネオがホッとした表情を見せる。


 魔法を使うとMPを消費するが、一度使うと、もう一度使えるようになるまでにはインターバルと呼ばれる待ち時間が発生する。

 好きなだけ連射できるわけではなかった。


「ああ、思ったよりダメージ受けてたから、助かったぜ……」

 アルは剣を鞘に入れると、荷物から薬草を取り出した。


「アル、名前が黄色くなってるよ」

 レネオがパーティステータス画面を見ながら伝えた。


「そうか、あれで半分以上減ってたか」

 アルはそう言って、ステータス画面を確認した。


 HP  50/128

 MP  71/71


「残り50だ。黄色までいったのは久しぶりだな」

 HPは本人しか見えないが、パーティメンバーはパーティステータス画面の名前の色で、残りHPの目安がつくようになっていた。

 半分以上減ると黄色くなり、さらに半分になると赤くなる。


「とりあえず薬草二つ分の回復をしてから出発しよう」


 二人はゴブリン戦の振り返りをしながら、アルのHP回復を待った。

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