第24話 新人冒険者の現実

 次の日は朝からウルフ退治に出掛けた。

 北門を出て、バロスビー方面の街道から西へ外れた地域に、ウルフの群れが住み着くようになったとの話だった。


 物探しではないので探索スキルは使えなかったが、依頼に書いてあった地域へ行くと、すぐにウルフの群れに出くわした。


 相手は五匹。

 一匹一匹は確かに弱いものの、一匹と戦っている間に他のウルフに攻撃される。

 アルが前に出て戦い、レネオが魔法で援護をして戦うも、戦闘が終わる頃には二人ともそれなりにダメージを受けてしまった。


「ハア……ハア……、相手がこれだけいると、結構きついな。HPどれだけ残ったんだか」

 アルはステータス画面を確認した。


 HP  32/109

 MP  57/57


「なんだよ、半分以下まで減ってるじゃん……」

 ここまでHPが減ったことは今までに一度もなかった。初めての複数相手に苦戦し、アルは命をかけて戦っていることを肌で感じた。


 クエストの依頼内容はウルフを10匹退治すること。

 まだ半分しか達成してないが、二人は薬草でHPを回復させると、もう一戦という気分にはならず、町へ戻ることにした。


「ギルドの受付の人、冒険者がウルフなんかに負けるようなことはないって言ってたけど、10匹いたら危なかったね」

 部屋に戻ってからのレネオの言葉に、アルはその通りだと思った。


 ダメージを受けたのは自分だけではない。

 ウルフを何度かとり逃がし、レネオも攻撃を受けていた。


 敵を引きつけ魔法使いへの攻撃を防ぐことは、戦士として最も大事な役割だとアルは思っていた。

 今日はなんとか勝てたが、アルには反省することが多い戦いになった。


「レネオ、今日は悪かったな。ウルフを倒すことばかりに気をとられて、そっちにも敵が行っちまった」

「大丈夫だよ。僕たちは始めたばかりなんだし、少しずつ工夫していけばいいさ!」

 レネオは落ち込んでいるアルに気を使い、次また頑張ろうと肩を叩いて励ました。


 翌日、アル達は再度ウルフ退治に向かった。

 今回現れたのは六匹。


 アルは前日と違い、倒すことより逃がさないことを心掛けて戦った。

 目の前の敵だけではなく、常に六匹全てを意識して戦う。

 ウルフがレネオに向くと、そいつを狙って攻撃。その間に他のウルフも自分に向いているか意識する。


 アルだけで全ての相手をする形になるが、レネオが守りを考えずに攻撃だけ意識すれば良くなったので、結果的に前日よりダメージが少なく全滅させることができた。


「戦いは、ステータスの数字だけが全てじゃないってことだな」

「うん。数字には表れない強さも必要ってことを、思い知らされたね」

 レネオが薬草を取り出し、アルに渡した。


「何にしても、これで今回もクエストクリアだな!」

「今回は報酬が銀貨三枚だから、昨日と今日の薬草代で赤字だけどね」

「それを言うなよ」


 二人は軽口をたたきながら、レベルが上がっているわけではなくても、何回かの実戦で自分たちの成長を意識することができ喜んでいた。



 翌日からもクエスト生活が続いた。

 冒険者ギルドでクエストを受け、クリアしたら報酬を貰う、その繰り返しだ。


 受付男性と相談しながら、可能な限り戦闘系のクエストをやっていったが、レベル10の二人組に適当なクエストが、いつもあったわけではなかった。

 仕方なく掃除や落とし物探しなど、冒険者らしくない依頼を受けるときもあった。


 生活はぎりぎりで、お金を貯めるようなことはできずにいた。

 HP回復の薬草代と、宿代など日々の生活費を稼ぐのがやっとで、たまにマークがアル達を指名して採取クエストを依頼してくれるのが、だいぶ助けになっていた。


「掃除のクエストを冒険者ギルドが受けるのおかしくないか? 掃除屋に頼めばいいじゃん!」

 アルが掃除に嫌気がさして、受付にそう食って掛かったことがあった。


 しかし受付は、冒険者ギルドが存在していくには、住んでいる人たちに受け容れてもらってこそなんだ、と二人に説明した。

 それに、掃除のように町の人たちの助けになることを、積極的に請け負っていきたいという、冒険者ギルド創設者の意向が引き継がれてきてもいた。


 冒険者ギルドが創設されたのは数百年も前なので、創設者の意向がいまだに活きているのが凄いなと、レネオは横で思っていた。


 その後もアルとレネオは、なるべく戦闘系のクエストをこなし、たまに採取、たまに掃除や落とし物探し、ときには酒場の手伝いなどもやりながら、自分たちの思い描いていたものと違う冒険者生活を送っていった。

 二人にとって地味な生活が続いたのだった。

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