第22話 クエスト完了報告

 北エリアの冒険者ギルドに着いてみると、想像していたより小さな建物だった。


「なんか思ったより小さいな。バロスビーの方が全然デカいじゃん」

 別に大きければいいってわけではないが、アルは素直に思ったことを口にした。


「ウォルテミスには冒険者ギルドが三つあるってことだし、一つずつは小さいのかもね。――じゃあ入ろうか」

 レネオは入り口に向かった。


 ここの冒険者ギルドも、魔動力があちこちに使われていた。

 入り口には近づくと自動で開閉する扉、照明は当然のようにライト、壁には光る文字が映し出されているが、あれも魔動力によるものだ。


「受付け、どれも並んでるみたいだね」

 レネオは、正面にある受付が三つしかなく、どれも冒険者たちが並んで待っている姿が目に入り、そう言った。


「この前の半分以下しかないな」

 アルはバロスビーの受付の数と比較した。


 二人は仕方なく、並んでいる人数が一番少ない真ん中の列の後ろについた。

 どの列も並んでいるのは若い冒険者ばかりだった。戦士デニスの説明通りここは低レベル層が集まっているようだ。


「俺たちと同年代の冒険者もいっぱいいるんだな」

 アルは周りの光景を見て、同じ夢を持つ仲間のような、切磋琢磨するライバルのような、いろいろ入り混じった感覚を同業者に抱いていた。


 それから二人は、受付の順番が回ってくるまで、それなりに待たされることになった。

 受付に相談しながらクエストを探しているので、一組一組に時間が掛かっている。


「坊主たち、お前らの番だぜ!」

 受付をやっている、声の大きい中年男性がアル達に声を掛けた。


「あ、ああ」

 アルはバロスビーで受付をしてくれた女性を思い出しながら、残念な気持ちで声の主に近づいた。


「お前ら見ねえ顔だな。今日は何の用だ?」

 近づいてみると、その男性はさほど大きな体格ではないのに、どこから声を出しているのか、左右の受付の声をかき消すほどの大声で話しかけてくる。

 バロスビーで受付をしてくれた女性と似たような服を着ているので、二人は何だか悔しかった。


「クエストの報告に来ました」

 レネオが答えると、

「おお、そうか。じゃあリーダーのほうが、そこに手を置きな」

 男性は受付台上にある模様を指差した。


 アルが言われたとおり手を置くと、模様が光りだした。


「ふむ。たしかに完了してるな。どれ、ちょっと待ってな」

 男性は別の模様を触りクエスト状況一覧の画面を表示させると、そう言って受付の奥に入っていった。


 見た目とは違い軽快な足取りで奥に行った男性は、すぐに受付に戻って、

「これが報酬な」

 と、銀貨五枚を台の上に置いた。


「おおぉぉぉっ、初めての報酬だぜ!」

 アルが嬉しそうに手に取って、レネオに渡した。


 自分たちで稼いだお金のせいか、レネオは銀貨がいつもより重い気がしながら布袋に入れた。


「ありがとうございます!」

 レネオは男性に頭を下げた。


「なあに言ってんだ。自分たちで稼いだ金だ、礼を言う必要はねえぜ!」

 男性は黄ばんだ歯を見せながら笑った。


「あとは何かあるか? お前ら新人だろ? 俺は受付やってるジャンって言うが、何でも相談に乗るぞ」

「あ、なら聞いていいですか?」


 アルとレネオはジャンと名乗った受付の男性に、自分たちがレベル10でこの町に来たばかりだということを説明し、今後について相談してみた。


 クエストについては、戦闘系を中心に受けるよう男性に助言された。まずはレベル上げをしないことには、話にならないという。

 ただし、報酬は低くても当分は危険を冒さず、レベルに合った相手を選ぶよう強く言われた。適正レベルのクエストがないときは、無理に選ばず戦闘が発生しないクエストをするようにと付け加えてきた。


 さっそく紹介してくれたのは、ウルフ退治のクエストだった。

 ウルフは攻撃的な獣だが、モンスターではないので、たとえ新人でも冒険者が遅れをとるようなことはまずない。


「いいかお前ら。少しでも弱い敵を少しで多く倒すことにこだわるんだぞ」

 男性の言葉に、それじゃなんだか冒険者っぽくないなと感じながらも、戦士デニスにも似たようなこと言われたのを思い出し、二人は素直に頷いた。


 それから男性は、長期滞在に向いている安宿やすやどを教えてくれた。稼ぎの少ない低レベル冒険者を、積極的に受け入れてくれる宿屋だそうだ。

 この冒険者ギルドからもそんなに離れておらず、道具屋や薬屋など冒険者向きの店が近くに揃っているので、環境としては言うことない。


「町の外で野宿するよりマシだろ?」

 この提案はアル達にはありがたかった。これほど大きな町で、どうやって宿屋を選べばいいのか考えられなかった。


 最後に男性は、ウォルテミスのことを教えてくれた。

 町の中は基本的に治安がいいが、貴族街になっている町の東側と、北エリアの北西あたりにあるスラム地域には、近づかない方がいいようだ。


「迷い込んだだけでも、生きて帰れるか分からねえぜ」

 ある意味モンスター生息エリアより怖いかもなと男性は笑ったが、アル達は聞いてるだけで緊張した。


 だいたい聞きたいことを聞き終えると、

「おっちゃん、色々ありがとうな!」

「助かりました」

 アルとレネオは男性にそう言って、並んでる人たちを待たせてしまったなと感じながら、冒険者ギルドから出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る