第21話 戦士デニスとの出会い

 アルとレネオは、知らない人に話しかけるのは意外と勇気がいることだと感じながら、冒険者の恰好をした人を探した。


 最初に話しかけたのは、魔法使いに見えたローブの男だ。

 フードを深く被っていたので話しかけるまで気付かなかったが、肌は青白く目つきの悪い男で、話しかけた瞬間にアルは後悔をした。


「口の利き方も知らないガキが! 聖職者と冒険者の違いも分からないのか!」

 その男は話しかけてきたアルに怒鳴ると、立ち止まることなく去っていった。


「す、すみません」

 隣にいたレネオはもう聞こえてないだろうとは思いながら、一応謝罪した。


「こえー、なんだよ今の!」

 気の強いアルも、知らない人に怒鳴られて少し怖気おじけづいた。


「言葉遣いが気に入らなかったのかな? 今度は僕が話しかけようか?」

「なんだよそれ。大丈夫だって」

「そう? じゃあ次もお願いね」


 男が言っていたように、聖職者と冒険者の違いなんて分からないので、次は戦士を探すことにした。


「あの人はどう?」

 レネオが大通りの反対側を歩く戦士を見つけ、声を出した。


「あれは絶対冒険者だ!」

 アルが答えると、二人で戦士を追いかけた。


 多くの馬車が行きかう大通りを、アル達はタイミングを計りながら渡り、戦士を見失わないよう駆け寄った。


「すみません! ちょっと……ハアハア、聞いても……ハアハア、いいっすか?」

 やっとの思いで戦士に追いつくと、アルは息を切らしながら話しかけた。


 すっかり疲労していた二人は、走って追いついたのはいいが、息がなかなか整わなかった。


「お? なんだお前ら? どうした?」

 人柄の良さそうな戦士が振り向くと、だいぶ疲れ果てている若い二人を見て、立ち止まった。


 戦士の装備はデザインに統一性がないので、兵士ではなく冒険者のように見えた。

 雰囲気もどことなくブライアンを思い出させるのは、冒険者としての経験が現れているのではないだろうか、とアル達は感じた。


「大丈夫か? 待ってやるから少し休め」

 戦士にしては優しい顔をしているその男は、見ず知らずの若者二人に微笑みながら言った。


 アル達は両手を膝について肩で息をしながら、少しその場で休憩をした。


「で、俺に何の用だ?」

 二人が落ち着いたのを見計らって、戦士が聞いてきた。


「ちょっと道を教えてほしくて。冒険者ギルドがどこにあるか聞いていいっすか?」

 アルは上体を起こすと、戦士を見てアルなりの敬語で尋ねた。


 近くで見ると、戦士はアルよりも一回り大きく体格が良かった。

 表情が柔らかいので、顔だけ見れば戦士という雰囲気ではないが、鍛え抜かれた戦士の体つきをしている。


「なんだお前ら。この町は初めてか? 冒険者みたいだけど」


「はい。三日前に隣のバロスビーで冒険者登録をして、今日ウォルテミスに来ました」

 レネオが答えた。


「若そうだとは思ったけど、ど新人だったか! 登録したばっかってことは、レベルは10台だよな?」

「ああ、まだレベル10っす」

 アルがそう言うと、戦士は少し考えてから答えた。


「そうなると北エリアの冒険者ギルドだよな……。ずいぶん行ってないからなぁ……」

 戦士の話によると、ウォルテミスには冒険者ギルドが、北エリア、中央エリア、南エリアの三か所あるとのことだった。


 それぞれは紹介してくれるクエストの適正レベルに違いがあり、北エリアの冒険者ギルドは主にレベル10~20程度の冒険者が利用している。

 アル達二人は、当分北エリアの世話になりそうだ。


「レベル10ってことは、冒険者学園にも行かずに、いきなり冒険者登録したってことだよな?」

 戦士が二人に少し興味を持ち訊いた。


「はい。僕らはザレア村の出身で、冒険者学園は近くにないですし、通うお金もありません。村にたまたま元冒険者の先生が来てくれたので、レベル10になることはできました」

 レネオは、冒険者学園にも行かず、冒険者パーティの見習いにもならず、二人で始めた経緯を、慣れたように説明した。


「なるほどな。見習いにもならずにレベル10から正式な冒険者を始めるのは、結構きついぞ。もちろん同じようなやつもたまにいるが、半分ぐらいは挫折して辞めていってるな」

「そうなんすか!? でも俺ら田舎もんは、普通がどういうのか分からねえし、自分たち出来ることをやってくしかないから。そもそもなりたくてなったんだ!」

 普通じゃなかろうが厳しかろうが、ずっと目指してきた冒険者になれたのだ。アルはまったく挫折する気がしなかった。


 アルの言葉に、戦士は笑顔を見せ、

「そっか。別に俺が言うようなことじゃないが、自分たちを過信せず、お前が言うように出来ることからやっていけよ。慣れるまではとくにな。んじゃ、二人とも頑張れよ!」

 と二人に握手を求めた。


「俺の名はデニス。戦士デニスだ。中央エリアの冒険者ギルドで活動してるから、いつかお前らが来るようなことになったら、一緒に冒険しようぜ!」

 戦士デニスは別れ際にそう名乗って去っていった。


「なんか、良い人そうな冒険者だったな」

 アルがそう言うと、

「うん。ちょっと道を聞いただけだったけど、話せてよかった」

 レネオは感想を返した。


 二人は戦士デニスから聞いた道を辿り、北エリアの冒険者ギルドを目指した。

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