第19話 薬師マークの店

 王国第二の都市ウォルテミスは、アルとレネオの想像を遥かに越える大きさだった。


 町を取り囲む崖のように高い壁は、バロスビーの何倍もある。

 巨人族でも住んでいるのかと思わせるほど、入り口の門も非常に大きい。


「なんだよなんだよ! でけえぜでけえぜ!」

 スケールの大きさに、アルの興奮が止まらない。


「アル、恥ずかしいから大声出さないでね」

 レネオはそうアルに注意するが、自分でも気持ちの高ぶりを感じていた。


 中に足を踏み入れると、道幅の広さも圧倒的だった。

 町の中にも関わらず馬車での移動は普通なようで、アル達の眼前を横切る馬車の往来が激しく、それでも円滑に通れるような広さで道は作られていた。

 道の両脇に馬車が止まっているが、その間を何の問題もなく馬車がすれ違うことができている。


「町の中でも馬車が必要なほど広いみたいだね……」

 さすがのレネオも絶句している。


「こんなたくさん、いったいどこから湧いてきてるんだろうな」

 この町だけでどれ程の人が住んでいるのか、アルには想像ができなかった。


 歩いている人は皆、競うように急いで歩いていた。

 多様な人達がいるのはバロスビーと変わらないはずだが、あちらのように文化の匂いは感じず、当然ザレア村のようにのどかな雰囲気もない。


「とりあえずコール草を渡しに行こっか」

 レネオは立ち止まっててもしようがない、まずは用事を済まそうと提案した。


「ああ、そうだな。でも、北エリアの第二地区だっけ? どうやって行けばいいんだ?」

「コール草を渡すまではクエストだから、探索スキルを使えば目的地が分かるんじゃないかな?」


「そうなのか!?」

 アルは慌てて地図を出し探索スキルを使うと、自分の位置と目的地が表示された。


「出たね! ここは北門にあたるみたい。北エリアはこの辺一帯みたいだし、すぐ見つかりそうだね」

 レネオは地図を覗き込みながら言った。


「じゃあ、まずは行ってみるか」

 アルがそう言うと、二人は地図を確認しながら薬師マークの店を目指した。


 アル達はしばらく歩いていると不安になってきた。

 薬師くすしマークの店と言うからには、薬屋か道具屋なんだろうと思っていたのだが、ウォルテミスの町は店が溢れるように並んでいた。


 すでに薬屋も道具屋も何軒も通ってきたので、本当に目的の店は分かるのか、自信がなくなってくる。


「こんなに似たような店があっても意味なくねえか?」

 別に迷惑を掛けられたわけではないのだが、アルは愚痴っぽく漏らした。


「選ぶ方は、どこが良いのか分からなくなりそうだね。さっきも、武器屋の向かいが武器屋だったし」

「だよな! せめて剣だけ売ってる店と、斧だけ売ってる店だったらさ、まだ選べるんだけどな。さっきのはどっちに入ればいいのか全然分からん!」

 なぜかアルの言葉が熱気を帯びている。


「最初は色々行って見てみないと分からないけど、慣れてきたら馴染みのお店を見つけるのがいいかもね」

「馴染みの店か……、それいいな」

 レネオの言葉に何か大人びた雰囲気を感じ、アルは嬉しそうに答えた。


 それから少しすると、意外にもマークのお店はすぐに見つけることができた。

 店の看板に『薬屋マーク』と必要以上に大きく書いてある。


「字がデカ過ぎだな」

「字がデカ過ぎだね」

 自己主張が強い薬屋だなと思いながら、二人は看板を見上げていた。


「やあ君たち、お客さんかい?」

 一人の男がアル達に声を掛けてきた。

 薬屋から現れた細身の男は、大きくマークと書かれたエプロンをし、マークと書かれた帽子を被っている。

 年齢は三十ちょっとぐらいに、アル達には見えた。


 こいつがマークだな。

 この人がマークだね。

 二人はすぐに彼が薬師マークだと思った。


「はじめまして。コール草を届けに来ました」

 レネオは軽く頭を下げると、バックパックからコール草を取り出した。


「おお、そっか、コール草を届けてくれたのか! 俺がマークだ! まあ入って入って!」

 マークは手招きをすると、店の中に入っていってしまった。


 アル達は一瞬目を合わせ、仕方なく薬屋マークに足を向けた。


「まあ座って」

 店内に入ると、マークは椅子を勧めてから、大きな盛皿のようなものを持って来た。


「この上に乗っけてもらえるかな?」

 マークにそう言われると、レネオはコール草をそれに乗せた。


「どれどれ……。ふむふむ……。これはなかなか……」

 マークはコール草を観察しながら一人で呟くと、

「うん、問題ない! ありがとうな!」

 と納得した様子で言った。


「それなら良かったです! では僕らはこれで」

 レネオは立ち上がり、愛想笑いをして言った。


「時間かけて悪かったね。コール草は上手く採取しないと、すぐ物が悪くなるんだ。綺麗に取ってくれて助かったよ!」

 マークはそう言いながら、エプロンの小袋から瓶を一つ取り出した。


「ほい、お礼だ」

「え? すみません、僕たち報酬は銀貨にしたので……」

 レネオは思わず受け取ってしまったが、すぐに返そうとする。


「いやいや、これは報酬じゃなくてホントにお礼だ。HP回復ポーション一個だけどな。報酬はギルドで受け取ってくれ」

 マークは首を振りながらそう言った。


 断るのも失礼だし、二人にとっても助かる話なので、レネオはチラっとだけアルの表情を見て、そのまま受け取ることにした。


「ありがとうございます。せっかくなのでいただきます」

「悪いなおっちゃん」

 二人は礼を言うと、

「気にすんな、お互い様だ。あと、俺はおっちゃんじゃなくマークだ、よろしくな!」

 とマークは機嫌が良さそうに言った。


 アル達はマークの店から出ると、パーティステータス画面を開き、クエスト名の文字が青くなっているのを確認した。

「青文字になってればオッケーだったよな。よしよし」

 アルは満足した様子で言い、また画面を閉じた。


「次は冒険者ギルドだね。これで最初のクエストクリアだ」

 レネオも満足したように言う。


 それから二人は冒険者ギルドを探しに、大通りへ戻っていった。

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