第17話 魔法屋
レネオは魔法屋に来ていた。
魔法屋には、魔法使いが魔法を習得するための魔法書、魔法使い用の装備品、魔法使い以外でも魔法を発動できるスクロールなどが売られていた。
「なるほどなるほど、キミはブライアン君の弟子になるんじゃね」
ブライアンからの手紙を受け取った魔法屋の老人は、一通り読み終わるとレネオにそう言った。
「お爺さんはブライアン先生のお知り合いなんですか?」
「おお、そうじゃそうじゃ。ブライアン君が若い頃、たまにお店に来ておった。あれも弟子を持つような年齢になっておったか」
老人は懐かしそうに言う。
「そうだったんですね。ブライアン先生は六年ほど前、冒険者を引退してから僕らのザレア村にやってきました」
レネオは、幼馴染のアルと一緒に冒険者を目指してきたことを話した。
「ほお、それでその若さで冒険者になったのじゃな。偉いのぉ」
「いえ。冒険者と言っても、さきほどなったばかりで、一つもクエストをクリアしてないですし」
レネオは謙遜をするが、孫のような歳の新人魔法使いを老人は
「ところで、手紙には何て書いてあったのですか?」
レネオは話題を切り替えた。
「ん? 手紙かえ? キミは教え子だから、魔法書の一つでも譲ってあげてくれと書いておるのお」
「はは。先生もずいぶん図々しいお願いを手紙に書くんですねぇ……」
レネオはなんだか自分が恥ずかしい気持ちになってきた。
(ってことはアルの方も、同じように鍛冶屋へのお願いが書かれてるのかも)
レネオはそう気づくと、これがブライアンの最後の心遣いだと感じ嬉しくなってきた。
「まあよい。魔法書の一つでも譲ってあげるとするかのお。スキルは何の属性を上げてるんじゃ? 魔法は何が使えるのじゃ?」
「え? いいんですか!? 火属性のスキルレベルが6で、無属性が5です。使える魔法は、フレイムアローとライトとキャリーです!」
レネオは目を輝かせながら答えた。
「ふむ、三つか。レベル10なりたてなら使えるのはそんなとこかの。戦闘中に使えるのは一つじゃな」
老人は立ち上がると、魔法書の棚に向かった。
「戦闘でも役に立つのがいいのお」
レネオはまるで玩具を親に選んでもらっているように、胸を高鳴らせながら老人が魔法書を選ぶ姿を見ていた。
「スリープか。これにしようかの」
老人はゆっくりした動作で、棚から魔法書を一冊手に取った。そして軽く吹いて
「ほれ。相手を眠らせる魔法じゃ。あっちに契約の魔法陣もあるぞ」
と顔を店の端へ向けながら、魔法書をレネオに差し出した。
「ありがとうございます!」
レネオは魔法書を受け取り頭を下げると、契約の魔法陣に駆け付けた。
魔法使いが魔法を習得するには、魔法屋で売っている魔法書と契約の魔法陣が必要である。
契約の魔法陣は、魔法使いならだれでもその場で生成できるし、魔法屋ならどこも併設していて、魔法書を買ったその場で習得できるようになっている。
レネオは契約の魔法陣の上に立ち、契約の儀式を開始した。
魔法陣が白く光りだすと、手に持っていた魔法書が勝手に開き、めくれだした。
そして最後のページまでめくれると、魔法書は消え魔法陣の光もなくなった。
「お爺さん、ありがとうございました!」
レネオはスリープを習得したことを確かめると、改めて老人にお礼を言った。
「ほっほ、よいよい。――よっこらせ」
老人は座っていた元の椅子に戻ると、
「せっかくじゃ、お店の中でも見ていきなさい」
とレネオに提案した。
「はい!」
レネオはできればそうしたいと思っていたところなので、素早く返事をした。
店内を見て回ると、意外と装備品が多いことにレネオは驚いていた。
魔法使いなんて装備は杖とローブに決まっている。大して選択肢なんてないと思っていた。
ところが想像以上に品数が揃っており、とくにローブが多いことに声が出てしまった。
「ローブってこんなに種類があるもんなんですね……」
「なんじゃ? ローブは譲ったりはせんぞ?」
「いえ、そんなんじゃないです」
レネオは苦笑いをした。
「冗談じゃよ。ローブは魔法使いにとって、それなりに重要じゃぞ。他の職に比べHPも防御力も低いからの。せめて各属性の耐性は高くしておかんと」
レネオは納得した。
売っているローブの説明書きには、『火高 水中 風無 地小』などと書いてある。
各属性に対しての耐性が書いてあったのだ。
「なるほど。勉強になります」
レネオは、デザインも案外凝ってるなと思いながら、裏地が赤く模様があるわりに表地は黒く地味なローブを手に取った。どう見ても機能的に意味の無さそうな飾りがいくつも付いている。
どれもこれもレネオの興味をひき、いつか手に入れたい高級ローブを見てレネオは楽しんでいた。
あとの棚は、スクロール、魔法薬、アクセサリー、置物のような物もあり、レネオは満足な時間を過ごした。
「お爺さん、お世話になりました!」
そろそろアルと合流しなければいけない時間だった。楽しい時間はあっという間だ。
レネオは老人が座っているカウンター付近に戻ると、丁寧に頭を下げた。
「ほっほ。また来るがよい、わしが生きてるうちにのお」
「はい! また来ますので、それまで元気でいてください!」
レネオはもう一度頭を下げると、老人の笑顔を背中に感じながら魔法屋を離れた。
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