第14話 冒険者ギルド①
冒険者ギルドは町の中心部あたりで見付けることができた。
ブライアンに冒険者ギルドのマークを見せてもらったことがあるが、そのマークが大きな看板に書いてある。
四階建ての建物は周囲より一回りは大きく、中央にある両開きの扉は開いたままだ。
出入りしている人たちは冒険者のような恰好をしているので、間違いないだろう。
「ついに来たな」
アルは看板を見上げながら言った。
「うん。ここから出るとき、僕たちは冒険者だね」
レネオは少し興奮気味に言う。
二人は無言で拳を合わせると、並んで中に入っていった。
入り口をくぐると、一階は一つの大広間になっていて、正面には受付のようなものが、それぞれ仕切りで区画され並んでいた。
左右を見ると、テーブルや椅子がいくつも置いてあり、何かを待つように冒険者たちが座っている。
「こんなに広いのにずいぶん明るいな」
アルが天井を見回して言った。
「ライトの魔法だよ。僕もライトの魔法で明かりを点けることができるでしょ?」
レネオが答える。
「ライトの魔法? 誰かがずっと魔法を使ってるってことか?」
「いや、たぶん魔動力だと思うよ。魔法使いが魔法を使わなくても、魔動力を使って生活魔法を発動させる装置があるんだよね。装置は高価だし魔動力をどう供給するかが大きな問題だけど、もしかしたら世界中の生活を大きく変えるものになるかもって言われてるんだ」
レネオは得意げに説明をする。
「うっ。また何か難しい話になったな……」
アルは頭を掻きながら、
「要するに、たいまつもないのにずっと明るく光る装置ってやつなんだな!」
と自分なりの解釈をまとめた。
「魔動力を知らないって、冒険者ギルドに来たのは初めてかしら?」
二人の会話を聞いていた女性が、近寄りながら話しかけてきた。
アル達より年上に見えたその女性は、姿勢の良い歩き方と凛とした話し方で、今まで出会ったことのない大人の雰囲気を二人へ感じさせた。
着ている服の胸に冒険者ギルドのマークが付いているので、ここの関係者であることが分かる。
「はい。僕たちは冒険者登録をするために来ました」
レネオが答えると、
「まあ、この時期に珍しいわね」
と笑顔で女性は言った。
二人はそれを見て思わずドキッとした。
ザレア村には若い女性はいなかった。年齢が一番近いと言えば、五歳年下の女の子が二人。
女性として意識するような相手と話したのは、二人ともこれが初めてだ。
「じゃあ二人はどこかのパーティの見習いに?」
「いえ、二人で始めようと思ってます。見習いになった方が堅実だと聞いているんですが、二人だけで始めてみたくて」
レネオの言い方は、静かだったが強い意志を感じさせた。
「ああ、俺たち二人の夢だからな!」
アルも強く言ったが、女性と目が合うと思わず目を逸らした。
「フフッ。今どき面白い子たちね。それともそういうのが今どきっぽいのかしら」
女性は頬に手を充て少し考えてから続けた。
「そうだ、じゃあ私が受付してあげる!」
女性はちょうど食事をとろうとしていた所だったが、二人の新人を気に入って提案してきた。
「ホントですか!? ありがとうございます! アルもいいよね?」
そう言ってレネオはアルを見ると、なんか目が泳いでいたが、賛成しているのは分かった。
「早速受け付けするから、一番右の窓口の前に来てくれるかしら」
女性は一番端の無人の場所を指差した。
各窓口には受付担当と思われる人がいて、それぞれ冒険者と話している。
アル達が言われた場所まで行くと、受付台の反対側に裏から回った先ほどの女性が現れた。
「ようこそ冒険者ギルドへ!」
落ち着いた優しい声で、女性は改めて二人を歓迎した。そしてアルとレネオを見て、
「まずは一人ずつ登録作業だけど、どちらからやる?」
と二人に尋ねる。
「俺! 俺がやる!」
アルが手を上げながら前に乗り出した。
「あら、おとなしいのかと思ったら、元気な子なのね」
女性は微笑む。
アルは女性に気後れしたせいか、さっきから女性とレネオの会話に入れないでいたのだが、何事も戦士が先頭に立ってやるべきだという、変な思いから率先して声をあげた。
「いいわ。じゃあレベル確認から始めるから、これに手を置いて」
女性は受付台の端にあった水晶を正面に動かすと、アルに言った。
アルは言われるがままに右手を水晶の上に乗せると、目の前にステータス画面が表示された。
いつもと違い表示されたのは五つの項目だけだった。
名前 アル
年齢 15歳
レベル 10
種族 人間
職業 村人
「アル君て言うのね。15歳でレベル10って、本当にギリギリなのね」
「え!? 見えるのか!?」
アルは女性の言葉に驚いた。
この世界に住む人々は、自分のステータス画面を見ることができる。
手をかざしながらステータス画面が出るよう思うだけで目の前に現れるが、他人には見えておらず、本人だけ確認できるのだ。
「ウフ、驚いた? これはね、五つの項目だけだけど、他人にも見えるようにすることができる水晶なの」
「そうなんだ! すげえ!!」
アルは知らないアイテムを見ながら、嬉しそうに答えた。
「次は職業ね。選択できる職業が出るから、登録したい職業を左手で触って」
女性がそう言うと、『戦士』『格闘家』『弓使い』と文字が表示された。
「もちろん戦士だ!」
アルはそう言いながら『戦士』に触れると、職業欄が変化した。
名前 アル
年齢 15歳
レベル 10
種族 人間
職業 戦士
「うわっ、戦士になった!」
「はい。これで登録は完了よ。水晶から離していいわ。自分のステータスを出して、基礎パラメータも見てごらんなさい」
女性に言われとアルはいつものようにステータス画面を表示し基礎パラメータを確認する。
筋力 :133(+15)
生命力:130(+15)
知力 :83
精神力:101
敏捷性:98
器用さ:107
「おっ? 筋力と生命力が何か増えてるし、後ろにカッコしてなんか付いてる!」
「それは職業補正の分よ。職業に合った補正値が上乗せされるんだけど、戦士だったら筋力と生命力が、魔法使いや僧侶になれば知力と精神力が補正されるわ」
「おーしっ! これで戦士になったぜ! レネオ、俺、戦士になったぞ!」
アルは全身で喜びを表現しながら、少し後ろに立っているレネオを見た。
「ずるいよアルっ。僕も僕も! お姉さん、僕も登録お願いします!」
アルの登録を見ていたレネオは、気持ちを抑えきれず、女性に言われる前に水晶に手を乗せた。
「慌てなくても大丈夫よ。逃げたりしないから」
女性は肘をついて手に顎を乗せ、楽しそうにレネオに言った。
レネオもアルと同じように、レベル確認と職業の登録を行い、魔法使いになることができた。
喜んでいるアルとレネオを見ていた女性は、
「さあ、これで二人とも冒険者よ。冒険者の世界へようこそ!」
と、二人の新人冒険者を祝福してくれた。
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