第12話 モーブルからバロスビー

 モーブルを出発して六日が経っていた。

 次の町バロスビーまで歩くと六日ほど掛かると聞いていたアルとレネオは、道中をかなりの急ぎ足で歩いてきたが、途中で余分な時間を取られたため、六日目の昼過ぎになっても到着していなかった。


 相変わらず自然豊かで平穏なのはいいことなのだが、景色に代わり映えはなく、いい加減歩くのに飽きてきていた。


「やっぱ六日分の食料を用意しとけば良かったかなぁ」

 モーブルを出るときの元気は見る影もなく、アルがだるそうに漏らした。


「仕方ないよ。六日間も保存食ってわけにいかないからね。ただ、釣りがあんなに手間取るとは思わなかったけど……」

 アルのすぐ後ろを歩きながらレネオは答えた。


 アル達は結局三日分の食料を買い込んでモーブルを出発した。

 残り食事の調達は、川での釣りや森での狩りも想定していたが、人の往来が多い道なので、すれ違う行商人から買えばいいと思っていた。


 ところが運悪く六日目まで行商人とすれ違うことはなく、調達できたのは偶然会ったザレア村の人に果物を少し分けて貰えたぐらいだった。

 おかげで昼間は釣りに費やす時間が長くなり、二人とも釣りのスキルレベルが5から6に上がる始末だ。


「なあ。もしかして馬車で行ったほうが安かったんじゃねえの?」

 馬車だとバロスビーへは三日で着く。アルは何だか無駄な時間を過ごしてる気がした。お金の計算なんて出来ないのだが、疲労で愚痴のように言っていた。


 代金を支払えば馬車に乗せてもらうことも、馬車を借りることもできた。

 出費は増えるが、その分必要な食料は半分で済むし、早くクエストを受けることで早く稼げることになる。

 三日で稼げる金額によっては、馬車を利用した方が得だったかもしれない。


「アル……、聞かなかったことにしとくよ……」

 レネオはちょっと計算すると、思い付かなかったことにした。


「それに、僕らは初めての旅なんだし、これから新人冒険者になる身だからね。馬車なんて使わず自分たちの足で歩かないと」


「まあ、たしかにな。こんなに歩くのも最初だけだろ? 当分ウォルテミスの町を中心にクエストをやるから、そんなに歩くこともなさそうだし」


「うん、今だけ今だけ」

 アルもレネオも自分に言い聞かせた。


 そうこうしてると、二人が歩いている横を、馬車が追い抜いていく。

 これで追い抜かれたのは何台目だろうか。


 今さら乗せてもらおうとは思わないが、気力もぎりぎりになってきた。レネオは杖をつきながら必死にアルの後を歩いた。


「アル、よくそんな重いもの持ったまま歩けるね」

 レネオは、アルの腰にある剣と、左腕に装備した盾を見ながら言った。


「そりゃあ戦士だからな!」

 アルは一瞬振り返るが、すぐに前を見た。

 長年一緒に過ごしているレネオには、それだけで疲れてる顔なのが読み取れた。


 いくら戦士だからといって、重い装備のまま歩くのは大変そうである。

 腕の盾はとくに邪魔に見えて、背中に背負えばいいのに、と思いながら後ろ姿を見ていた。


「釣り休憩でもする?」

 レネオはアルに声を掛けた。

 釣りのせいで余分に時間が掛かっているのだが、今となっては釣りをする時間が、ゆっくりできる休憩時間にもなっていた。


「いや、いい」

 アルにしては小さい声だ。


 その後、二人の口数は減り、歩く速度も上がることはなく、六日目もバロスビーへ辿り着くことはできなかった。

 結局到着したのは、七日目の昼前になってしまった。

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