第11話 道具屋

 翌日、予定通り朝から道具屋へ向かった。

 町に道具屋は何軒かあるようだが、どの店がいいか分からないので、適当に歩いて目についた道具屋に入ってみた。


 まず買うものは地図。

 王国全土が載っている地図や他国の地図も売っているが、とりいそぎ必要なウォルテミス地方だけの地図を探した。


 二人が見つけたのは、一地方だけの地図にしては大きく、町の中まで詳細に書いてあるもの。

 一度に拡げるには無理があるので、使うときは見たい場所が上にくるよう折りたたむ必要がありそうだ。


 旅に地図は必需品だが、冒険者にとってはとくに重要だ。

 未開の地へ出向くときに自身の位置を確認したり、何かを探すクエストをするときに探索スキルを使うことで、地図上に目的地を表すことができる。


「あれ? それ何に使うんだっけ? 真っ白?」

 アルは、レネオが持った何も書いてない地図を不思議に思い聞いた。


「これは白地図ってやつだよ。ダンジョンとか地図に載ってないところに行ったとき、製図スキルがあると地図を作ることができるんだ」

 レネオは地図を開いて何も書いてないことを見せた。


「そうなんだ! でも製図スキルなんて上げてないだろ?」

「うん。製図はスキルレベル上げるの難しいようだからね。これから経験積んで上げてくしかないよ」

 白地図を畳んでポンと叩いた。


「そっか。まだまだよく知らないスキルがあるもんだな」

 アルも目の前にあった白地図を手に持ってみて言った。


「あとは……、薬草類だね」

 レネオは店内を見渡す。

「んー、あれじゃねえ?」

 アルが薬草類が並んでいる棚を見つけ指差した。


 薬草はポーション類に比べると、効果が出るのが遅く効き目も低いが、安価に手に入る。

 回復魔法が使える僧侶がいるパーティならいざ知らず、戦士と魔法使いで頑張ろうとしている二人には、大量に準備する必要があった。


 レネオは一つ一つ値段を確認しながら、棚から薬草類を出していく。

「HP回復と解毒は必須として……、麻痺解除とMP回復はどうしようかな……。アル、どうしよっか?」


「ん? そうだな、薬草類は少しでいいじゃねえか? まだどんなクエストをやっていくか分かんねえし」

 まあ、任せるよ、とアルは他の棚を見ながら返答した。


「たしかにね」

 レネオはアルの意見に納得し、薬草を少し棚に戻しながら呟いた。


 他にどんなものがあるか店内を巡ってみると、こんな郊外の道具屋でも、品数豊富とまではいかないが、いくつかアクセサリーも置いてあった。

 装備すると、基礎パラメータを上げるなどの効果がある魔法具だ。


「アクセサリーって高いんだな」

 アルが金額を見て驚いている様子だ。


「アクセサリーは装備レベルがほとんどないからね。高レベルの冒険者も買うから、値段設定を高くしても売れるみたい」

「ふうん。レベルが上がってもないのに、身に着けるだけで強くなれるってたしかに便利だよな。俺たちには当分関係ないけど」


 アルは不機嫌そうに次の棚に視線を移した。

 レネオもアルが見ていたアクセサリーを見てみると、その高額さに驚いた。


「僕たちが装備できる最高級の武器より高いよ、これ……」

 レネオの解説に、アルはとくに反応はしなかった。


 ポーションの棚に行ってみると、薬草類よりも数も種類も遥かに多く揃えられていた。

 道具屋にとってはメインの販売品にあたる。


「ポーションもそれなりに高えのな」

 アルはポーションの入った瓶を覗き込みながら言った。


「薬草に比べるとね。でもポーションは回復魔法と効果は同じようなもので、飲んだらすぐ効くから。戦闘中でも使えるしすごく役立つよ」

 レネオも瓶を覗き込む。


「戦闘中でも使えるのか! そりゃすげえいいな。戦ってる最中に隠れて薬草の回復待つとか無理そうだし」

 アルは唯一の実戦、コボルドとの戦いを思い出していた。


「だね。この前みたいなコボルドぐらいだったらいいけど、もっと強いモンスターと戦うときは、ポーション持ってないと心配だよ」

 そうは言っても今回は買えないんだよな、と思いながらレネオは言った。


「とりあえずこんなものかな?」

 店内を一通り回るとレネオは買う品物を確認した。


「ああ。レネオがいいなら俺は大丈夫だ」

 買い物に掛かるお金は、全てレネオの両親が準備してくれた銀貨を使うので、アルはとくに意見を言うつもりはなかった。


「あと買う物は、食料品のお店で保存食をある程度買っておこうか」

 道具屋で支払いを済ませ、店を出たところでレネオが言った。


「そうだな。途中で狩りとか釣りばっかやってると、いつまで経っても着かないしな」

「うん。半分ぐらいは川沿いの道らしいから、魚とかは採れるかもしれないけど、次の町まで六日ぐらいかかるみたいだしね」


「六日か……、遠いな……」

 聞いただけでもアルは疲れた顔をした。


「でも、次のバロスビーに行ったら、念願の冒険者登録だからね!」

「あっ! そうだった! 疲れてる場合じゃないぜ、さっさと出発だ!!」

 アルは目を輝かせ、急に元気になった。


「その前に食料ね」

「分かってる分かってる! 食料買ってさっさと出発だぁっ!!」

 二人は食料品店を探しに、道具屋をあとにした。

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