第7話 出発

 出発当日の早朝、アルは待ち合わせ場所にした、村の南口近くにある大きな木へ向かいながら、今後の予定を思い返していた。

 昨日、最後の挨拶がてら、レネオと一緒にブライアンの家を訪ね、三人で相談をして決めていた。


 目的地は王国第二の都市ウォルテミス。

 ザレア村からは歩いて十日ほどかかり、途中で二つの町を通ることになる。


 まずは南にある隣町モーブルを目指す。


 そこはアルもレネオも何度か訪れたことがある。

 あまり大きな町ではなく冒険者ギルドはないが、お店は一通りあるので、地図など事前に準備できなかった品物を買い揃える。


 二つ目の町はバロスビー。王国内では中規模の町になる。

 そこには冒険者ギルドがあるので、ここで登録を済ませる予定だ。

 なお、ブライアンには、登録ついでに必ず一つクエストを受諾するよう言われた。


 あとはウォルテミスを拠点に冒険者生活をするだけだ。


「くぅぅぅっ、ワクワクしてきたぁ!!」

 アルは思わず一人で声を出した。


 レネオのように他の町へ行く機会が少なく、どちらかといえばアルが村を出るときは、狩りや採取目的で裏山に行くことぐらいだった。

 隣町モーブルに行くだけでも楽しみにしていたのに、その先の町へ向かうことを想像しただけで、気持ちが高ぶった。



 アルが待ち合わせ場所に着くと、先にレネオが待っていた。

 いつものように袖にだけ白い柄のついた黒ローブを羽織って、魔法使いが使う杖を持っている。いつもと違うのは、男にしては華奢きゃしゃなレネオには不似合いの大きめのバックパックを背負っている。


「アルー!」

 レネオが大きく手を振ると、

「おう、レネオ!」

 アルも手を上げて答え、レネオに駆け寄った。


「どう? 準備してきた?」

 レネオが尋ねると、アルはバックパックを降ろし中身を確認した。


「もちろんだ。ロープだろ、水袋、ナイフ、手ぬぐい、マント、釣り具に今日の昼飯。あとはお金が少々。レネオは?」


「僕も一通り同じかな。念のため火を起こすためのほくち箱も。MPが切れて火の魔法が使えないときのためにね。それから、親からこれを」


 レネオはバックパックを置いて、母から受け取った布袋を取り出しアルへ見せた。


「おばさんから? お金?」

「うん。銀貨が30枚入ってた」

「30枚も!?」


 村ではお金の使わない生活をしているため、それがどのくらいの価値があるのか理解してはいないが、アルは聞いたことがない量に驚いた。

 少なくとも、自分が五年かけて貯めたのは、銀貨三枚と銅貨が数十枚だけだったので、それなりのものだと感じた。


「すげえな。レネオのおじさんとおばさんに感謝しないとな」

「無駄遣いはできないけど、これならモーブルで必要なもの買っても、ちょっと余裕がありそうだね」


「ああ、ホントにありがたい」

 アルは少し真面目な顔をして、

「ま、冒険者になればそのうち稼げるようになる。いつか何倍にもして返しに戻ろうぜ!」

 と付け足した。


「うん、そうだね」

 レネオは幼馴染の言葉に、強い意志を現した。


 準備は整った。

 生まれてから十五年以上過ごした、ザレア村とも一旦お別れだ。

 次に戻るのがいつになるか分からないが、一年や二年なんてことはないだろう。


 アルとレネオは村へ振り返った。

 まだ日も昇ったばかりで、人影は見当たらない。


「じゃあなー、みんなー!」

 アルは誰もいないが、手を振りながら叫んだ。


 それを見ていたレネオも、

「行ってきまーす!」

 と続いた。


 そして、アルは拳をレネオへ突き出した。

「さあ、冒険に行こうぜ!」


「うん、行こう!」

 レネオも拳を合わせた。


 アルとレネオはバックパックを背負い、ザレア村から旅立っていった。

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