第139話 戦いの後

「改めて君の凄さを認識したよ」


 そう言って、ライラ・シーリンスは俺の手を握り、ブンブンと振る。


 “黒き竜”との戦いから数日が経った。


 ローマンの手腕により事件は早々に沈静化し、魔女についても調査が進められていた。


 俺たちは自分達の依頼を終え、それぞれが自分たちのホームへと帰ろうとしていた。


「あなたも。まさか戦線に復帰できるとは思っていなかったですよ」

「はは! 少し醜態は晒したが、私はリーダーだからな。最後に役に立てて良かった。SS級の面目は保てたかな」


 その後ろから、小柄なアリスがひょこっと顔を見せる。


「私からも。お疲れ様、ヴァン。あなたとの探索は楽しかったわ」

「俺の方こそ」


 俺はアリスの差し出す手に握手を返す。


「メイドバイトも悪くなかったわ」

「ん? メイド?」

「あーっと、それは!! まあ、いろいろとあったんですよ、ねえ!?」

「?」


 俺は慌てて話を遮る。駄目だ、こんな無垢そうな女性をメイドの恰好させた何てバレたら悪評が広まってしまう。


「はは、よくわからないが、こう見ると歳相応だな、君も。もしかして仮面を付けているときは大人ぶっていたのか? あの時は敬語も使っていなかったし」

「いや……そんなつもりは……」


 くそ、仮面が無いと何か素になっちまうんだよな……どうしようもないけど。

 ライラとアリスはニヤニヤとこちらを見つめ笑みを浮かべる。


「ふふ、可愛らしいところもあるのね」

「勘弁してください……」

「君はまだここを発たないのか?」

「ちょっとローマンに呼ばれてて」


 すると、ライラはあぁ、と何かを知っている風に頷く。


「まあ、当然だな。私は歓迎だよ」

「?」

「とにかく、お疲れ様。私達はこれで帰らせてもらうよ。またどこかで一緒に戦えるといいな」

「俺は冒険者は休業中っすけどね」

「らしいな」


 すると、ライラは俺にそっと耳打ちする。


「私の弟子もレグラス魔術学院に通っていてね」

「!?」


 な、ライラの弟子!?


「君の名前は彼から何度か聞いたが、偶然の一致という訳だ」

「黙っていてくれると……

「そこは安心してくれ。ローマンにもそう言われているからね。それじゃあ、私達は行くとしよう。大変だが楽しい任務だった! また会おう!」

「さようなら、また会いましょう。きっと魔術を極めるのなら、何れまた会うわ」

「お元気で」


 そうして、ライラとアリスの二人は一足先に去って行った。

 二人とも多忙な冒険者だ、また依頼が舞い込んでいるのだろう。

 少しして、今度は身支度を整えたキースが現れる。


「おぉ、雷帝」


 キースは俺の近くに立つ。


「仮面がないとなんつーか、やっぱガキだったんだな」

「うるせえ」


 キースはクククと笑う。全く、隠す必要がなくなったとはいえ、下手に見せるもんじゃないな。仮面つけてくればよかったぜ。


「怪我はいいのか?」

「そりゃもう、この通り」


 キースは治った腕をポンポンと叩き、その回復っぷりをアピールする。


「すごい回復力だな」

「伊達に冒険者をやってねえさ。それにしてもまったく、お前に先を越されるとはな」

「何が?」

「この後ローマンに呼ばれてんだろ? つーことは一つしかねえだろ。まったく、上手くやりやがって!」


 そう言って、キースはぐりぐりと俺の頭を小突く。


 まあ、皆何となく察してるよな。

 俺としては受ける意味もないんだが……。


「けど、俺は最後あんたの攻撃で助かった。俺だけの手柄じゃない」

「謙虚なことで。だがいいさ、俺は俺のやり方で追いついてやる」


 そう言って、キースはへへっと笑う。


「結局“黒き霧”の存在も公にせず、秘密裏に処理されちまったしよ。どうせなら盛大に祝って欲しかったがな」

「一人でやってくれ」

「連れねえなあ〜! 全く。それで、これから冒険者はどうするんだ?」

「休業さ。今回みたいな件がなけりゃしばらくはな」


 すると、キースはふむと肩をすくめる。


「やれやれ、張り合いがないっての。まあいいさ、ここ数日は楽しかったぜ。自分の足りないところも見えた。休業してだらだらしてるお前さんを一気に抜かしてやるから覚悟しておきな」

「できるもんならな」

「ったく、生意気なガキだぜ」


 そう言って、キースは荷物を持ち上げる。


「じゃあ、俺は行くわ。またどこかで共に戦おうぜ」

「あぁ。元気でな」


 そう言って、キースは背を向け、手を挙げながら去っていった。


 数日間の戦いだったが、誰かと同じ目的を共有するなんて初めてのことだった。

 ある意味、これも良い経験なのかな。


「やあ、お待たせしたね」


 後方から、聞きなれた声が聞こえる。

 あの歓迎祭の終わりに声を掛けられた時と同じトーンだ。


「おせえぞ、ローマン」

「はは、手厳しいね。それじゃあ、私も忙しくてね。手短に行こう」


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