第140話 戻ろう

「律儀に挨拶なんて良いってのによ」

「まあ、二度と関わることもないと思ってな」

「くはっ! 正直な野郎だ。まあ、俺達は裏、お前たちは表。交わることもそうないわな」


 そう言って、ファルバートは豪快に笑う。


「あのクソ魔女野郎に一泡吹かせることは出来なかったが、てめえのお陰で元凶はぶっ殺せた。感謝するぜ」

「あんたが協力してくれたからさ。あんたがいなければ、魔女にはたどり着けなかった」

「どうだかな。まあ、たどり着けたとしても時間切れだった可能性はあるか」


 ファルバートは手に持ったグラスからぐいっと酒をあおる。


「まあ、てめえらのお陰で魔女がつぶれた。奴が来てから作ってたパイプや地下通路を俺達が奪い取ってな。より一層俺達ファルバート一家がこの腐った街で幅を利かせられそうだぜ」

「ほどほどにな」

「わかってるさ、欲に目をくらんだバカがどうなるかはよ~くわかってる。お前の言う通り俺たちはもう会うことはないだろうが、もしまた裏で何か必要だったら、声くらいかけな。一緒に戦ったよしみで多少は協力してやるさ」

「そうか。ありがとう」

「言いってことよ」


 俺たちはグッと握手を交わす。


「そういや、さっきあの炎の嬢ちゃんが来てたぜ」

「クラリスが?」


 あぁ、とファルバートが頷く。


「揃いも揃って律儀な奴らだぜ」


 そう言って、ファルバートは笑う。


「まあいいさ。達者でな、雷帝。願わくば、次も味方だと嬉しいぜ」

「あんたが悪事をしなければな」

「そりゃ無理な相談だ」


 そうして俺はファルバートに別れを告げ、ローマンが手配した馬車に乗り込み、腰を下ろす。


 もうオーキッドに思い残すことはない。

 馬車が動き始め、俺はローマンから受け取った紙を懐から取り出す。


「俺がSS級冒険者ね」


 その紙には、SS級と記されていた。

 ローマンからの話とは、SS級への昇格だった。


 “黒き霧”討伐の実績から、俺をSS級にとギルドから推薦があったようだ。

以前はシェーラの課題に答えるために頑張っていたが、今更休業している俺が昇級してもという気がして当然断ろうとしたのだが、どうしてもといつもの笑みで迫られた。


 SS級とは言え今までと同じように学院に通ってて良いというし、俺にデメリットも特にないと。


 確かに今回も他のSS級を差し置いて俺が呼ばれた訳だし、それなら上がったところで不利益はない。

 対策を進めていたローマンのメンツもあるし、こいつに恩を売っておくことにもなる。


 どうやら六賢者の中でもかなり若いせいか目の敵にされているらしく、自分の陣営を作るためにも協力して欲しいらしい。


 まあ、この国を想うあいつの気持ちを汲んでやってもいいかと、俺は承諾した。


 これでローマンに恩を売ったから、今度何かあったら絶対言う事一つは効かせてやる。


 六賢者に顔が聞くというのも悪くないしな。


 とはいえ、あいつには正体が握られてしまったからな。面倒なことを頼まれないといいが。


 俺は紙から視線を外し、喉かな外の景色を眺める。


 この景色を守ったのは俺達だ。


「……さて、俺も戻ろう」


 魔術学院へ。

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