第137話 VS黒き竜③

「うおおおおお!! ”ノックアップインパクト”!!」


 ライラの振り上げた大斧が、”黒き竜”の下顎を吹き飛ばす。

 片手だけでの大斧を使った渾身の”アッパー”。


 ライラの身体に魔力が駆け巡っているのがわかる。

 肉体を強化し、本来なら人間の限界を超えた威力を秘めた一撃。


 衝撃波が吹き抜け、木々がメキメキと悲鳴を上げる。

 それとほぼ同時に、ライラの肉体も限界を叫ぶ。


「グラアアアアアアアアア!!」


 ”黒き竜”は悲痛な声を上げ、ぐらつくように後方へと後退する。


「はあ、はあ、はあ……ぐっ……硬すぎる……!」


 文字通りの死闘。


 あの災厄にここまで肉薄できるだけで、ライラの能力の高さがうかがえる。

 それでも、”黒き竜”の外殻は破壊される素振りも見られなかった。


 繰り返されるライラたちの攻撃のことごとくを、その鋼鉄のごとき外郭は弾き返していた。


 やはり、致命傷を与えられるのは、体の内部に直接攻撃を入れるしかない。


 瞬間――魔力が充足する。


「「「!!」」」


 その場にいる誰もが、ノアの方を振り返る。


 周囲に広がっていた魔法陣は消え、あふれ出ていた魔力は一点へと集約される。


 右手の手のひらの上に、クリスタルのような魔力エネルギー体が生成されていた。


 それはさながら雷雲のようであり、その内部では常に稲妻が弾けあい、漏れ出したエネルギーが周囲の塵を燃やし火花を散らせる。


「――ッ!」


 ライラの表情が一気に変わる。


 悟ったのだ、この魔術こそ、こいつを倒せる最大の武器だと。


 それは、当然”黒き竜”もだった。


 一瞬にして戦闘態勢へと移ると、羽を広げる。


「「!?」」


 この自身の生命への危機感が、身体の成長を促した。


 他の外殻の生成へと回っていたエネルギーをすべて翼へと回し、一気に羽を作り上げた。


「まずい、飛び立つぞ!!」

「飛ばせるな!! 地面に跪かせ、口を空けさせろ!!」


 近くにいる男たちが慌てて飛び出すが、”黒き竜”のブレスによって近づけない。


「くそ、飛ばせたら終わりだ!! 雷帝、構えておけ!! 私があいつを席に付かせてやる!!」

「頼んだ……!!」


 ”火雷レッドスプライト”は大量の魔力と体力、集中力を使う。


 この状態では、他の魔術を使うことは不可能だった。とにかく、ライラたちを信じて俺は待つしかない。


 ライラは飛び上がると、全力で”黒き竜”の脳天へと斧を振り下ろす。


「うおおおおおおお!!」

「グラア!!」


 ”黒き竜”それをはじき返すが、それでもその威力は凄まじく、“黒き竜”は軍と体を地面へと引き摺り下ろされる。しかし、それと引き換えに弾かれたライラの斧は手を離れ、ぐるぐると回転し後方の大樹に深々と突き刺さる。


「――ッ!」


 満身創痍。


 すでに”黒き竜”はライラなど眼中になく、咆哮と共に再度空へと上がるため羽を羽ばたかせる。


 広げられた翼はところどころ虫食いの様に穴が空いている。

 それでも、”黒き竜”は徐々にその身体を宙へと浮かび上がらせる。


 だめだ、”火雷レッドスプライト”は近距離攻撃、この距離じゃ届かない……!


 ”黒雷”に切り替えるか!? だめだ、ここまで溜めた魔力を無駄にしたら意味がない……!


 どうする……!? どうやってこいつを……ライラが体勢を立て直すのを待っていたら、奴は飛び去ってしまう……!


 どうしたら――――瞬間、俺とライラの間を、黒い影が横切る。


 それは月光を背に飛び上がると、一瞬にして”黒き竜”の高さを超え、その頭上に到達する。


 全身に巻きつけられた包帯が、ひらひらと宙に舞う。


 黒髪の――大剣使い。


「ドラゴンなら……俺の領域だろうがぁ!!」

「――キース……!!」

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