第136話 VS黒き竜②
ローマンの後ろには、ローマンが集めた他の魔術師や冒険者、実力者たちが控えていた。全員満身創痍で、万全とは言えないがまだ戦えるという意思をその目に宿していた。
「助かったぜ……!」
「当然さ。私が君たちだけに戦わせるとでも?」
ローマンはいつもの胡散臭い笑みを浮かべる。
「てっきりそうかと」
「はは、手厳しいな。もう少し君との小気味良い会話を続けたいところだが……時間がないから手短に。私たちは君の”火雷”の為の時間を稼ぐ」
「!」
なんでそれをこいつが……?
すると、俺の疑問を察してかローマンはうなずく。
「私の情報網を甘く見ないことだ。ありがとう、ウノ」
そういうと、上空を飛んでいた小鳥がローマンの肩へと降り立つ。
「まさか……これがあんたの”目”か?」
「そういうことさ。私は戦えないが、代わりに情報でサポートできる。君が最大級魔術を放とうとしているのも既に分かっている。私たちはそれに賭ける」
何度か小鳥が飛び交うのが目に入っていたが、まさかローマンのだったとは……。
つまり、ローマンには国中に目があるということだ。侮れない男だぜ。
ローマンは続ける。
「君の準備時間をライラ君を先頭とした彼らで稼ぐ。アリス君の結界があれば良かったんだが、事前の予想通り土地の聖霊は”黒き竜”が成体となった時点で、この土地を放棄した。結界で魔術発動準備中の君を守ることは出来ない」
「やっぱりそうか」
薄々は感づいてはいたが……あの”黒き竜”を俺意外に抑えていられるのか……?
「心配するな。私が集めたメンバーだ」
ローマンは自信満々の顔で言う。
「……」
不安は残る。だが、今はもうそれしか方法がない。
ローマンの連れてきた連中に正規のS級以上の冒険者はいなさそうだった。ローマンといえど俺たちを秘密裏に集めるので精一杯だったようだ。
だが、それでもローマンの人脈とその人を見る目によって集められた在野の実力者たち。時間がたてば”黒き竜”は完全に成体となり時間切れとなってしまうこの状況においては、かなりの戦力であることは間違いない。
時間がない。今ある戦力で最善手を打つしかないのだ。
「……任せたぜ、ローマン。時間を稼いでくれ、俺が……あいつを倒す」
「いやあ、実に嬉しい言葉を聞けたよ。君の花道は私たちで飾ろう。おっとそうだ。一応、箝口令も敷いてあるから安心したまえ」
「箝口令?」
すると、隣でライラが斧を担ぎ上げ、ニヤッと笑い顔を指さす。
「なかなか憎たらしい顔じゃないか、雷帝! 仮面がなければもっと人気が出そうだな」
「!」
そうだった、仮面が割れてるんだった……!
この場に居る人間には、素顔を完全にさらけ出してしまっていた。
月があるとはいえ辺りは薄暗い。それほどはっきり見えるものではない。
とはいえ、仮面があるとないとじゃ段違いではある。
「気が利くな」
「これでも六賢人の一人でね」
すると、不意にドシンドシンと足音が聞こえてくる。
「おっと、私の全力の一撃でもダメージ一つなく普通に動き出したか」
「あいつの防御力はとにかくやばい。並みのドラゴンとは比較にならない、気を付けてくれ」
とはいえ、斧の一撃で不意打ちとはいえ軽く数十メートルあの巨体を吹き飛ばした膂力……さすがはSS級といったところか。
「おあつらえ向きだな。私は意外とドラゴンには縁がなくてね。初陣が災厄級とはツイている!」
ライラは不敵な笑みを浮かべる。
「雷帝の為の時間稼ぎ……ふふ、SS級の”大斧”がお膳立てしてやるんだ、必ず仕留めろよ」
そういって、ライラはポンと俺の胸に拳を当てる。
「当然だ、任せてくれ」
ライラは斧を構え直すと、ローマンの集めた猛者たちの前に立つ。
「ローマンの集めた馬鹿野郎ども、魔女のダミーやら手下の魔術師やらで暴れ足りていないだろう! ここですべてをぶちかませ!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
ドラゴンの咆哮にも劣らぬ叫び声が響く。
満身創痍だが、それでもその顔にはやる気が満ちている。
ローマンはライラに向かって叫ぶ。
「ライラ君! おそらく雷帝の火力でもあの装甲をぶち破るのは骨がいる! 口だ! 二分後に口を開けさせろ!」
「簡単に言ってくれる! まあいい、託したぞ雷帝……!」
俺はライラの目を見てうなずき返す。
そして、ライラは”黒き竜”へと突撃していく。
それに続き、ローマンの集めた連中も流れていく。
俺の為に時間を稼ぐ戦いが始まる。
俺は回避速度が速いから無傷でいられるが……誰も欠けないで時間稼ぎなんて無理だろう。それでも、彼らが血肉を削り稼いでくれる時間だ。無駄にはしない。
「君は君の仕事に集中したまえ。彼らも命を懸けるだけの理由を持っている。君が失敗すれば無駄死にさ」
「わかってるさ」
今までソロで様々な任務を攻略してきたからこそ、誰かの力を借りて、思いを乗せた戦うということにわずかに重圧を感じる。
それでも、やるしかない。
確実に一撃で仕留めてやる……!
「さあ、雷帝。見せてくれよ、最強の魔術師の力を」
◇ ◇ ◇
剣が風を切る音。
叫び声にも似た雄たけび。
魔術のほとばしる光。
そんな意識の外の現象が、まるで水の中にいるかのようにぼんやりと輪郭を失っていく。
俺は地面に跪き、魔力を練り上げる。
足元に金色に輝く魔法陣が浮かび上がり、高速で魔力が循環していく。
身体の周囲には、漏れ出した稲妻がバチバチと迸る。
この魔術を最後に使ったのは、三年ほど前だったか。
『これを実際に習得したのは君が初めてよ、ノア。ノアは本当に私の想像を超えてくるわね』
珍しく魔術を習得したことについて嬉しそうに語るシェーラを見て、俺も嬉しくなったのを思い出す。
シェーラからいろいろと雷魔術を教わったが、使いどころを考えろと言われたのはこの魔術だけだった。
この魔術はあまりに強力すぎた。
発動すれば丸一日は動けなくなるほどの体への負荷。
放たれた周囲は跡形もなく消し飛び、高電圧にさらされた空気やチリは燃え上がり、周囲を火の海にする。
魔物の強さや脅威度と天秤にかけても、この魔術を使うという判断はついぞ実戦では訪れなかった。
魔術学校へと通い対人戦を学んでいる今となっては、確実に使うことはないであろう魔術の極致。
だが、この相手にならぶつけられる。
「ぐおっ……!!」
「ライラの姉御!!」
吹き飛ばされたライラが、近くの木に激突する。
既に倒れている者も大勢いる。全員が満身創痍。
立ちはだかるのは、漆黒の肉体を持った太古の黒竜。
その前に立っていられるだけで、本来は相当な実力者なのだ。
ライラは斧を杖の様に支えにし、立ち上がる。
「後一分……! しのぎ切ってやるさ……!」
ライラは片腕をダランと垂らしながらも、片手で斧を担いで戦線へと復帰していく。
SS級のライラでさえ正面から受ければあのダメージだ。
他の者が耐えられるわけがない。それでも、俺へとバトンをつなぐために、血を流し、涙を流しながら踏ん張り続ける。
それでも無慈悲に猛者たちは倒れていく。
それを助けに行けるでも、はっきりと認識できるでもない。
歯がゆい気持ちが湧くが、今はただ彼らを信じてバトンを受け取るだけだ。
その場に立って攻撃をいなし続けるのは片腕を骨折したライラと、3名の魔術師、そしてがむしゃらに剣を振るう数名の剣士のみ。
徐々に充足していく魔力を感じながら、俺は精神を研ぎ澄ませていく。
あと――三十秒……!!
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