第133話 やっぱり
なんだこの魔力反応……!?
後方から迫る強大な魔術に、俺は瞬間的に気が付く。
魔女からの不意を狙った一撃。
魔女の攻撃を警戒していないわけではなかった。
いくら魔女がダミーを作り出し魔力を分散させているからと言って、完全に無視できな脅威であることはわかっていた。
”黒き霧”の復活に始まり、アーティファクト、魔神の復活……ここまで用意周到に計画を建ててきた魔女が、この段階で何の策もないはずがない。
それが、この背後から不意を衝く極大の魔術。
普段なら発動の段階で気が付くはずだが、目の前のあまりに強大な魔力に感覚が鈍っていた。
それでも、まだこの距離ならギリギリ避けられる。
——はずだったのだが、まるでタイミングを見計らっていたかのように(そりゃそうだ、あいつが操作できるんだから……!)、”黒き霧”は俺の回避行動を阻害するように襲い掛かる。
一瞬後方に気を取られた隙に、”黒き霧”のブレスが俺を襲う。
完全に挟み撃ちの形だ。
つまり——この直線上に、クラリスたちがいる。
これをよければ、後方のみんなごと吹き飛ぶ……! だが、受け止めれば後方の魔女の魔術と挟み撃ち……!
くそ、どうすれば……――と、その瞬間。
後方から別の魔力反応が発生する。
俺の視界の端に、天高く立ち上がる炎柱が姿を表す。
その瞬間、俺はすべてを察し、俺はすぐさま”黒き霧”のブレスへと意識を全集中させる。
後方で立ち上った炎が、魔女の魔術を一瞬押しとどめる。
小さなよく見慣れた背中がチラりと見える。
到底この規模の魔術に対抗できる状態ではないはずだった。
負傷しているのに気が付いたからこそ結界の中へと誘導したのだ。
それでも、俺は彼女の”ヴァン”への思いを過小評価してしまっていたのかもしれない。
この少女は……クラリスには、命を投げ出してでも俺を助けるという覚悟があった。
「う、うおああああああああ!」
雄たけびが聞こえる。
この隙に――!!
「”黒雷”!!」
溜め掛けていた魔力を解放し、真正面から放つ極大魔術。
それは”黒き霧”の放ったブレスを霧散させ、そしてそのまま”黒き霧”を襲う。
この隙に……!
俺は最高出力で”フラッシュ”を発動し、一気に地面を蹴る。
そして、クラリスの横に降り立つ。
クラリスは苦悶の表情を浮かべ、必死で剣を握っていた。
だが、その威力の差は歴然で、今にも吹き飛びそうになっていた。
「えっ……ヴァ……ヴァン様……!?」
「集中しろ」
俺はクラリスの肩に手を乗せる。
「は、はい……!」
さっきので練りこんでいた魔力は消費してしまった。
今”黒雷”を発動するのは、このわずかな時間では不可能。
だったら……。
「いくぞ、タイミングを合わせろ……!」
クラリスは何が起こるのか疑問を口に出さずただ静かにうなずく。
魔力は外部にためることができない。
それは魔力の性質のようなもので、適合した肉体内でしか存在を保てず、外部へ出ると霧散してしまう。
だが、燃料としてくべる分にはその限りではない。
クラリスを通して俺の魔力を流し込み、クラリスの炎魔術に流し込み威力を底上げする。
本来相手に魔力を流し込むのは難しい。
人それぞれに魔力の性質があり、魔力の経路上で普通は肉体に拒絶されてしまう。
だが、この瞬間、俺とクラリスにだけはそれが可能だという確信があった。
入学から間近で感じてきたクラリスの魔力性質はよくわかっている。
俺の精密な魔力コントロールがあれば魔力を流し魔術へとパスをつなぐことは造作もない。
そして、それを受け入れる側の拒絶。
本来なら他人の魔力など肉体が許容できない。
だが、クラリスにおいては――ヴァンという崇拝の対象からの魔力を、一つの疑いも持たずに受け入れるだけの覚悟があるとわかっていた。
「――! こ、これって……!」
流れ込んでくる俺の魔力に、クラリスは目を見開く。
炎は一気に火力を上げ、その周囲をバチバチと稲妻が走る。
「なに……これは……!? 押し返されている!?」
魔女の顔がゆがむ。
魔術が弾け合い、青い火花が飛び散る。
飛び交う破片が俺の仮面や皮膚を切りつける。
「いけ!!」
「うおおおあああああああ!!!」
クラリスはその巨大な炎の剣を振り下ろし、吹き荒れる熱風が周りの温度を一気に上げる。
灼熱の大剣は魔女の魔術を叩き割るように食い込むと、一刀両断する。
「はあ、はあ、はあ……!」
「良くやったクラリス!」
「は、はい……! ヴァン様のおかげです……!」
苦悶の表情を浮かべつつも、クラリスの顔には笑みがこぼれる。
恐らくこれで魔女の魔力は空……! 今なら――
瞬間、後方からとびかかってくるのは――”黒き霧”。
その矛先は、クラリスへと向いていた。
野生の本能か、それとも魔力を喰うその性質から最も魔力反応の強いところへと引き寄せられるのか。
どちらのにせよ、とにかくその攻撃は今まさにクラリスの喉元を引き裂こうとしていた。
くそっ……!!
雷刀を発動し、フラッシュで間一髪クラリスと”黒き霧”の間へと割って入り、クラリスを後方へ押しのける。
振り下ろされたドラゴンの爪は俺の顔面スレスレを通り過ぎ、バリンと仮面が砕け散る。
俺の眼が露わになり、肉眼でその姿を目に焼き付ける。
それと刺し違える形で、俺の雷刀は”黒き霧”の外殻の隙間に滑り込む。
「グオオオアアアア!」
態勢を立て直すためか、”黒き霧”は後方へと距離を取る。
「っ……!」
ツーっと頬に血が垂れる。
間一髪避けたドラゴンの爪が、俺の頬に傷をつけていたようだ。
だが、なんとかクラリスは守れた。
その瞬間、後方でハッと息をのむ音が聞こえる。
仮面が割れた。つまり、そういうことだ。
「やっぱり…………あなたは……ノアだったの……?」
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