第126話 円卓の魔女
「う……」
クラリスは両腕が縛られた状態で目を覚ます。
何が起きたのか、一瞬記憶が混濁する。
「あれ……確か、魔女を追って地下を……」
そこで、魔女との戦闘があったことを思い出す。
徐々に思考がクリアになり、ようやく目の前の事態を飲み込み始める。
「ここは……森!?」
「転移魔術ってことなのか……? おいおい、聞いたことないぞ」
クラリスはこの森がどこだかすぐに分かった。あの状況から飛ぶ先など、一つしかない。
「ヴェールの森……」
「ご名答。賢いわね、30点あげる」
声は、目の前の小屋の中から聞こえてきた。そして、遅れて金髪の魔女クラスが姿を現す。
その手には、禍々しい黒い石板が抱きかかえられていた。
それを見て、ファルバートはゴクリと唾を飲み込む。
「そりゃあ……生半可な石板じゃねえな」
「あらあら、あなたも勘が鋭いのね、40点」
そういって、金髪の魔女クリスは石板を掲げる。
「あなたの配下たちが頑張って手に入れてきてくれたアーティファクトよ。慎重に扱わないとね」
「! 貴様……!」
ギギギギっとファルバートの体が筋肉が肥大する音が聞こえるが、縛られた縄が頑丈すぎてびくともしない。
「あまり暴れないで、あなたたちは貴重な資源なんだから」
「あぁ……?」
クリスはふふっと笑う。
「私たち魔女はね、この世界を滅ぼす競争をしているの。宗教、戦争、犯罪、災厄、教育……手段は様々」
「あぁ? 何を言ってやがる……?」
「あんたみたいな魔女が、複数いるっていうの?」
金髪の魔女は笑う。
「もう何人かとは会ったことがあるかもしれないわね。気付いていないのはあなた達だけ。魔女は常に準備している。あなたたちの行動が、周り回って世界の破滅に加担している……なんてね」
妖艶な声で、妖艶な顔で。
魔女は笑う。
「そして私は……災厄。"災厄の魔女"クリスティーナ。伝承上の魔物を呼び覚まし、その力をもって世界を破壊する! 終末の大掃除ってわけ」
「ばかげたことを。そんなの無理に決まってる」
しかし、クリスは嗤う。
「どうかしらね。このアーティファクトと、あなたたち。そしてこの森に潜む魔物が合わされば……さらなる災厄を目覚めさせられる」
「さらなる……!? まさか、黒き霧の上を行く魔物が……?!」
クリスは唇に指をあて、しーっとクラリスに微笑む。
「魔物だなんて失礼ね。あれは神……私は神降ろしを行う。知っている? 魔力って太古に比べるとかなり薄くなっているの」
「授業なんざ受ける気分じゃねえんだが」
「まあ聞きなさいよ。悪だくみって、種明かしが一番楽しいでしょう?」
そういってクリスは続ける。
「だからね、神の復活には現在じゃ考えられないほどの魔力が必要なの。それも、一人の人間じゃどうにもできないほど膨大な。現代の技術では魔力を保管できないわ。だから、どうあがいても神を降ろすだけの魔力を用意することはできない……魔力は霧散するものだから、複数の人から集めても意味がない。そこで私はひらめいたの」
言いながら、今度は本を取り出す。
それは禍々しいオーラを放っていた。
そこの表紙には黒い霧状の絵がえがかれている。
「”黒き霧”――これはね、仮想外郭と呼ばれる霧状の外郭を捕食器官として魔力を吸い上げるの。幼体から目覚めるための
「まさか……!」
「わかったかしら? いいわね、100点。そう、私はこの黒き霧を疑似的な魔力保管装置として活用し、この石板のアーティファクトへの膨大な魔力供給をもって神を降ろす! そして、この世界に破滅をプレゼントしてあげるわ」
「狂ってる……何がしたいのよ!」
クラリスは叫ぶ。
「何がしたい? 単純よ。私は世界が終わるのを見たいの。殺も愛も友も犯も性も……すべてを経験してきた。私たちは魔女。悠久を生きる魔術師。円卓の誰かが世界を滅ぼし、そうしてみんなで眠りにつくの」
「けっ、盛大な自殺に巻き込もうってわけか、一人でやってろ」
「言い得て妙ね。けれど、一人じゃつまらないでしょ? 何事も誰かとやってこそ真に楽しいんだから。あなたたちにも絶望をプレゼントしてあげるわ、特等席でね」
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