第124話 vs金髪の魔女①
「初めから全力で行かせてもらう。……こいつは俺がぶっ殺す!!」
「やだ、血の気が多いわね」
「はああ……!!」
ドン!! と、風が吹き抜け、一気にファルバートの雰囲気が変わる。
筋肉は肥大し、血管が額に浮かぶ。
「っ! これは……強化魔術……?」
クラリスはその姿から、良く見る強化魔術を連想した。
シンプルなため地味で弱いとみられがちだが、ほぼ同等の力、耐久力を持つ人間同士(魔物に比べ)での戦いにおいては、かなりの有用性を持つ魔術だ。
しかし、ファルバートはその言葉を否定する。
「魔術なんて大層なもんじゃねえ。ただ魔力を操って肉体のリミットを外してるだけだ」
「リミット……!?」
発想が魔術師のそれとは全く違う。
魔術とは加算、乗算の世界だ。目の前の事象に効果を上乗せしたり、変換して効果を膨れ上がらせることを目的とする。
だが、リミットの解除……つまり、それは持っている才能の発露。持てる力を出し切るための補助具ということだ。
それはあまりにもパワー系過ぎるが、それゆえにファルバートには迷いがない。
「俺たちみたいな裏社会の人間だと相手は基本人間だ。室内なんかで戦闘が始まった時に信頼できるのは最後は自分の肉体ってことだ。拳でぶん殴る! それしかねえ」
「そういうこと。なら、心配はないわね」
いいながら、クラリスは細剣を抜く。
鞭のように放たれた炎は、蛇のように剣に絡みつく。
「二人でこの人を倒して、ヴァン様に褒めてもらうとしましょうか」
「ただの小娘じゃないと証明してくれよ、クラリス!」
「当然!」
金髪の魔女――クリスはふっと笑を浮かべる。
「いいわ、おいで。――時間まで相手してあげる」
「こっちのセリフだ……っ!!」
ダンッ! とファルバートが地面を蹴る。
地面は脚の形に割れ、風が物凄い速さでその部屋を駆け抜ける。
音がしたときには、既にファルバートはクラリスの目の前から姿が消えていた。
「は、速い……!」
「おらぁ!!」
上段からの振り下ろし。
まるでハンマーのようなこぶしが振り下ろされる。
しかし、クリスはそれを完璧に防ぎきる。
「俺の速さに着いてくるだと……!?」
ファルバートの攻撃を、木の盾が瞬時に守る。それは、部屋の壁から伸びていた。
木の根がクリスを守るように広がり、ファルバートの攻撃をまるで木の盾のように受け止めたのだ。
「その速さ、お前の意思は介入していないな!?」
「さあ、時間まで楽しみましょう」
魔術の反応。
遅れて、地面から無数の木の枝が伸び、2人を串刺しにしようと襲いかかる。
「おっと、無差別じゃ俺は止められないぜ!」
ファルバートはスピードで回避し、溢れた枝をクラリスが炎で焼く。
「それ、火事にならねえか!?」
「私をなめないで欲しいわね。このくらい、燃焼させる度合まで自在に操れるわよ」
「腐ってもA級ってわけか! いいね! ついてこいよ!」
「言われなくても……!」
ファルバートが前衛となり、限界を超えた脚力で一気にクリスに詰め寄る。
「おらぁ!!」
高速のワンツー。繰り出される最速のラッシュ攻撃。
普通なら回避や防御をする間もないほどの速さだが、ファルバートの推測通りフルオートで木の盾が魔女を守る。
それを援護するように、クラリスの炎が魔女の逃げる隙間を塞ぎ、木の盾を燃やし尽くす。
「炎撃"五月雨"!」
魔法陣より放たれる炎の槍が、次々に魔女の木の盾を燃やしていく。
クラリスの巧みな魔術操作により、この狭い空間でファルバートにダメージが及ばないようにコントロールされている。まさに天才の所業。
「守ってばかりじゃ勝てないぜえ!?」
「そういうあなたは、足元がお留守ね」
「!」
いつの間にか地面を這っていた木の根がファルバートの足へと絡みつくと、そのままぐいっと真上に引き上げられる。
「ぐおっ!? いつの間に!?」
「”フレイム・バースト”!」
剣より瞬時に放つクラリスの炎が、その根をもやし尽くす。
根は中ほどから千切れ、ファルバートはそのまま逆さまに落下する。
しかし、空中でくるっと回転すると、ファルバートは難なく地面に着地する。
その隙に、クラリスは一気にクリスへと接近する。
前衛交代だ。
クラリスは鞭のようにしなる炎を操り、魔女の両脇に二本の炎を打ち込む。
轟轟と燃える炎は、魔女を左右に流さない為の檻だ。
これで、正面からの攻撃を避ける手段はない。
ゼロ距離からの、直接攻撃。
「消し炭にしてあげる。――炎撃”クロスフレア”!!」
十字の形をした炎が、魔女に襲い掛かる。
「ぐ――ぐあああああ!!!」
色気のある甲高い叫び声が上がり、炎が魔女をつつむ。
眩いほど光る炎の中で、黒く人型に燃えがる。
その黒い影は始めは激しく動き回っていたが、すぐさま喉が焼き切れ声は無くなり、そして力尽きるように地面に倒れこむ。
「やったか?」
駆け寄るファルバートと共に、クラリスはその炭を見る。
すると。
「違う……これ、人型に生成された木……!?」
「変わり身か……! ――おいおい、周りを見ろ!」
「!!?」
慌てて周囲を見ると、そこには無数の魔女の形をした木の人形が生成されていた。
まるで地面から生えてくるように、石と石の隙間から伸び、それは完全にクラリスたちを包囲していた。
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