第123話 凶報

「さて、クラリスたちに合流するか」


 魔力探知でクラリスたちを追えばすぐにでも合流できるはずだ。

 早めに合流しないと……向こうが本物の魔女なら、何をしてくるかわからない。


 俺たちを分断したということは、何か狙いはあるんだろう。


 自分に似せたゴーレムを遠隔オート出来るくらいだ、それなりの魔術師なんだろう。


「ヴァン!」


 不意に呼ばれ振り返ると、馬車が猛スピードでこちらに向かってきていた。

 その御者の横には、ローマンの姿が。


 馬車は俺の目の前で止まる。


「ローマン? 何でこんなところに」

「いやあ、ちょうど君たちを迎えに行っていたところだったんだ。……おや、この状況は……」 


 ローマンは散らばっている馬車の残骸を見て顔をしかめる。


「ちょっとな。それよりなにがあった?」

「あぁ、かなりまずい」


 いつになくへらへらとしていないローマンの表情。

 うっすらと笑みを浮かべてはいるが、顔が引きつり、額からは汗が流れている。

 その様子だけで、何かまずいことが起こったことが分かった。


「――竜殺しが瀕死だ」

「キースが……? まさか、黒い霧が?」


 ローマンは頷く。


「まずは見てくれ。重傷だ」


 ローマンに連れられ、馬車の中をのぞく。

 するとそこには、包帯を体中に巻き付け、血がにじんだ男の姿があった。


「キース……」

「…………」


 反応はなく、ただ目をつむり横たわっている。


「死んじゃいない……一応な」


 キースの隣に座るライラが険しい顔でつぶやく。


「森の中で遭遇したのか?」

「あぁ……逃げられたのは奇跡さ」

「詳しく聞かせてくれ」


 ライラは頷くと、何が起こったかをゆっくり語った。


「……魔女の小屋……?」

「中をあらためたが、そう形容するのが正しいだろう。その後、黒い霧と遭遇し、キースは一人、霧の中に……」

「戻ってこれただけでも奇跡だな」


 ライラは頷く。


 仮にもS級のキースがここまでやられるとは。

 しかも、キースの身体にはほとんど魔力が残ってない。


「長期戦だったのか?」

「いや、飲まれて、すぐ抵抗して出てきたらこれさ」

「…………」

「何か気になることが?」

「いや……」


 そんな一瞬でここまで魔力を消費するか?


 確かに巨大な魔術を使えば無理ではないが……キースレベルの魔術師がガス欠になる前まで魔術を放ったとは思えない。


 霧を脱出する時に大技を放ったか? いや、それならライラがそれを認識していないはずはない。


 すると、眠っていたはずのキースの腕がぴくりと動き、俺の腕を掴む。


「キース!? 大丈夫か!?」

「やつは…………子供だ……」

「え?」


 キースは虚な顔で呟く。


「鍵は……そこにある……。俺のライバル……雷帝……お前なら……!」


 腕を掴む力が強くなる。

 俺に何かを託そうとしているのだ。


「ま…………」


 そして、キースの意識はまた途切れる。

 がくりと項垂れ、静寂が戻る。

 

「キース……」

「酷な信頼だな。私はあれを間近で見ただけで震えたよ。雷帝……あんたなら、奴と戦えるのか?」

「やらなきゃこの国は終わりだ、やるしかない」

「……だよな」

「そういえば、魔女の小屋と言ってたな。なんでそう思ったんだ?」


 あぁ、とライラは答える。


「小屋の内装や置かれている薬品や書籍はどれも魔女特有のものだった。古典的なな。あれを魔女の小屋意外に形容する術がないだけさ。実際に魔女が使っていたかはわからない」

「そうか……」

「あと、気になることと言えば、あの小屋に魔本があった。あれはアーティファクトだろうな。オーラが違った」

「アーティファクトだと!?」

「そうだが……」


 魔女が冒険者パーティに収集させたアーティファクトと何か関係が……?

 ――ない訳がない。繋がるのか、ここで。


 するとローマンが口を開く。


「”黒い霧”が動き出したと情報が入った!」

「「!」」

「まだ森から出てはいないが、キースでさえここ有様だ、私は早急に待機の実力者たちを召集し、オーキッドを含めた周辺地域への避難勧告を始める。もう、調査どうこういってられなくなった。タイムリミットだ」

「それがいいわ、あれが外に出たら終わりよ」

「雷帝、君はどうするかな? 何か考えがある顔だが」

「……魔女に心当たりがある。俺たちが追っていた手がかりだ」


 ローマンは待ってましたと言わんばかりに笑う。


「話を聞こうか」

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