第122話 魔女との遭遇

 一方その頃、クラリスサイド――。


「地下通路……こんなものがこの街の下に張り巡らされていたのね」


 クラリスは感慨深げに周りの石造りの壁や床を見回す。

 等間隔に灯された火が揺れ、長い影を落とす。


 しっかりと整備された地下通路だった。


 ファルバートは渋い顔で頷く。


「……俺達のアジトへの裏ルート以外にこんなことしてる奴がいるとは気が付かなかったぜ。しかも、俺達より上等と来た。何もんだ、あの女?」

「これが魔女……ということかしらね」


 二人は魔女という得体のしれない存在を追っているのだと、改めて実感する。

 とはいえ、それでもファルバートの魔女への怒りは消えることはなかった。


「これだけの物を用意できる力がある……なのにこいつは俺の家族を道具みたいに使い捨てやがった……! ぜってえ許せねえ……許せねえよなあ!?」

「し、静かに! 尾行がバレるでしょ!」


 クラリスは慌ててファルバートを静止する。

 しかし。


「何言ってんだ、もうバレてるだろうが。俺達は誘われてるんだよ」

「…………」


 そう、表で分身が現れた時点で、魔女はクラリスたちの存在に気が付いていた。

 本来ならあそこで撒かれるか接触してきてもおかしくなかったが、こうして何の動きもなく、変わらずクラリスたちに後を付けさせているといことは、魔女の狙いはそれ自体にあるということだ。


「……この先になにがあるのかしら」


 薄暗い地下道の奥を見つめる。

 コツコツと、先行する魔女の足音が聞こえる。


「さあな。だが、そんな単純な物じゃねえだろうな」

「こういう任務は初めてよ……」

「安心しろ、俺達が戻らなければ上に居るアリスが外に知らせるはずだ。今はとにかく追うしかねえ」


 クラリスは静かに頷く。


 二人はそれから無言で先へと進む。

 魔女の姿はもはや見えないが、一本道のこの先に居ることは間違いない。


 しばらく歩くと、急に扉が現れる。


 地下通路の終わりだ。


「この先か」

「待ち伏せかも知れないわ、ヴァン様とも合流して一旦体制を立て直した方が……」

「かもな。だがここまで来て引き下がれねえ。あいつは試してるのさ、俺達を。だったら、正面からぶっ飛ばすしかねえだろうが……!」

「ちょっ――!」


 瞬間、ファルバートはドアノブに手を――かけず、思い切り蹴り飛ばし、扉ごと吹き飛ばす。


 完全なる宣戦布告だ。


「何やってるのよおおおお!?」


 ドカーン! と大きな物音を立て、扉は壁に叩き付けられる。


「あらあら、元気がいいこと」


 その光景に、妖艶な声が響く。


「てめえは……」


 そこはまるで貴族の執務室のような豪華な部屋だった。

 中央には巨大な謎の四角に区切られた空間があり、その周りをソファが取り囲む。


 そしてその中央の空間に立つのは、すらっとした体に、赤いコートまとった金髪の女性――魔女だ。


「追い詰めたぜ、魔女」

「クリスティーナ」

「あぁ?」

「それか、クリスって呼んでね」

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