第121話 分身

 とびのった馬車はものすごいスピードで進み、ぐんぐんと街から離れていく。


 分身の魔術……ここまできれいな分身だともはや直接叩かないと本物の見分けがつかない。


 まあ、1と3で分かれたわけだし、仮に向こうが正解だったとしても何とかしてもらうしかない。


 馬車のルートは北……街道を使わずにどこへ向かう気だ?

 俺が飛び乗ったのは音でわかっているだろうし、人気のないところで振り落として放置か?


 馬車の中は静かで、奴が飛び出してくる気配はない。

 ――と、その瞬間。


 一瞬の魔術反応。


「っ!」


 俺は咄嗟に上半身をひねる。すると、馬車の天井を突き破り、槍が俺の眉間を狙って飛び出してくる。


 槍!? ……いや違う、これは木!

 鋭く尖らせた木の根……自由自在ってか!


 俺はすぐさま雷刀を発動すると、足元から迫るそれを切り裂いていく。


 だが次の瞬間、その攻撃は俺ではなく馬車全体へと及ぶ。


 馬車の窓や扉から勢いよく木は飛び出し、馬車を粉々に破壊していく。


「やることが豪快だな……!」


 咄嗟に脇にジャンプし、俺はゴロゴロと転がりながら地面に着地する。


 木によって潰された馬車は数メートル先で車輪が外れ、地面に降参するように崩れ落ちる。馬は悲鳴を上げ、どこかへと走り去っていく。


 何もない……訳はない。

 この中に奴がいる。だが、この感じ……はずれを引いたかな。


 クラリスの方に本物が行ってしまったか。まずいな。


 仮に俺を引き離すのが狙いだとしたら……。

 向こうが危ないが、一応ファルバートがいるか。あいつは少しはやりそうだ、少しの間任せるしかない。


 すると、がたがたと馬車の残骸が動く。

 中から何かが出てくる。


 さあ、何が来るか……。


 馬車から現れたのは、人だった。

 ――いや、正確には人のよ形をしたものだった。


 木製の像。あの魔女の姿を模して造られた、木の像だった。


 あのプロポーションを再現された美しい曲線を持った木の像は、じろりとこちらを見る(目がないがそのように感じた)。


「ウッドゴーレム……か。なるほど、それが分身の正体ということか」

「…………」


 口はないのだからしゃべることはできない。

 だが、目や口のようなパーツはないが問題なく動いている。さっきの攻撃からしても、ほぼフルオートで動くゴーレムか。なかなか高等なことをしてくれる。


 だが……。


「ゴーレムで俺を足止めしようなんて、発想が貧困だな。いいぜ、すぐ壊してあいつらに合流する」


 ――”スパーク”!


 俺の手から放たれた電撃が、ウッドゴーレムを襲う。


 しかし、その攻撃はあっけなく弾かれる。


「! 完全に乾燥した木か……絶縁されるな。相性悪いな」

「…………」


 そこから、ウッドゴーレムは自身の腕や足をしなやかな鞭のようにして攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを雷刀で切断していく。


 そして、少しずつ距離を詰め、一瞬の隙を見て一気に”フラッシュ”で接近する。


「!」

「よっ」


 俺はウッドゴーレムの腕をつかみ、うち足を払うようにしてそのままウッドゴーレムを押し倒し、地面へと押さえつける。


「まあ、俺の火力には関係ないけどな」

「?」


 俺は手をウッドゴーレムの顔面にかざす。


「”黒雷”」

「――――ッッ!!!」


 ピカッ!!! と雷鳴がとどろく。

 絶縁体だというのなら、それを上回る電力で焼き切るだけだ。


 高電力により絶縁が破壊され、抵抗から一気にウッドゴーレムの顔面が燃え上がる。


「~~~~~!!!!」


 火だるまとなったウッドゴーレムが、悶えるように暴れまわる。

 

「俺の電撃をなめるなよ、魔女め」


 しばらくして、ウッドゴーレムはそのまま地面にうなだれるように倒れると、燃え尽きて灰となった。

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