第108話 情報の対価
食事を終え、俺達はメインストリートを歩く。
比較的平和な地区とは言え、やはりどこか物々しい雰囲気がある。
出店などがいくつも出ているが、どの店主も戦おうと思えば叩けそうな風体をしている。
町全体が悪党の巣窟……それを相手にした商売をする人間もまたその道に通じているという訳か。
そのせいか、すれ違う人々もみなかなりの武装をしている。
そんな中でも、クラリスは臆することなくずいずいと街を歩く。
いつも強気な態度だが、任務中もしっかりとそれを貫いているようだ。
そうして、俺達はまた別の酒場を訪れる。
情報と言えば酒場だ。
メインストリートにある酒場はそこそこの大きさがあり、店内は既に多くの客が酒をのみガヤガヤと賑わいを見せている。
「まったく、昼間からお酒とか酷い有様ね」
「まあ飲みたくなる日もあるんだろう。俺には分からんが」
「ですよね。さあ、さっさと聞いてみましょうか」
クラリスはずいずいと中へ入っていく。
カウンター席の方へと向かっていくと、丁度二人分開いた席に座る。
「いらっしゃい」
少し不愛想な背の高い店主が、低い声で言う。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
「…………」
「ねえ!」
と、クラリスは少し不機嫌そうに頬を膨らませる。
やれやれ。と俺は懐から貨幣を取り出す。
「果実水2つ。それと、聞きたいことある」
「……なんでしょう」
ようやく、店主は俺達を客と認め話を聞く態勢となる。
「ヴェールの森についてなんだが――」
俺たちは一通り話を聞く。
酒場の店主ならきっと小耳にはさむことも多いはずだ。
すると、店主はんーっと顎に手を当てながら、何かを思い出す。
「そういや、何か月か前に来ていた冒険者のパーティみたいな奴らが、そんなような話をしていた気がするな」
「「!」」
ビンゴだ。
やっと一つ、尻尾を掴んだ。
「聞かせてもらえるか」
「そうだなあ……」
店主はうーんと顎に手を当てて考える。
お金を要求される可能性もあるな。まあ、それだけ情報には価値がある。
そこをケチる必要はない。
「いくらだ?」
「うーん……」
店主は、じーっと店内――ではなく、俺の横に立つクラリスを見つめる。
「な、なによ」
クラリスは視線に嫌なものを感じたのか、僅かに身体をよじらせる。
店主はじーっとクラリスを頭の上から足先まで見つめると、よしと声を上げる。
「じゃあこれはどうだ? そっちの娘、なかなか上玉だ。一週間、ウェイトレスとして家で働くってのは」
「はあ!? 嫌よ、そんなの」
「いいぞ」
「なんでですか!?」
クラリスは頬を赤らめながら俺を僅かに睨む。
「情報は大切だ。仕事を手伝うだけで貰えるならこれに越したことはない」
「そ、そうですけど……」
ただウェイトレスをするだけなのに何か嫌そうな雰囲気を放つクラリス。
その視線の先には、既に働いているウェイトレスが居る。
その制服はまるでメイド服のような感じで、体のラインが強調されるものだ。
なるほど、あれをあまり着たくないのか。
「……わかった。一週間は少し長い。三日でどうだ」
「いや、それじゃあ無理だね。うちにうまみが無さ過ぎる。二人ならいいが、お嬢ちゃん一人じゃ少し弱い」
「二人か。それじゃあ――」
「いいわよ」
アリスと合流し、ウェイトレスについて話すと、予想外にも即答だった。
「アリスさんまさかのノリノリですか……」
「面白そうじゃない。お金を払わないで経験だけをさせて貰って情報が得られるならお得ですし」
「ま、まあ確かに……そうですね」
クラリスは渋い顔をしながらも、アリスの理解に納得していた。
「いいね、こっちの子も合格だ。じゃあ三日間ウェイトレスをしてくれれば、報酬にその冒険者パーティについて情報を話そう」
「はい、お願いします」
こうして、クラリスとアリスは、二人でこの酒場のウェイトレスの仕事に受持することとなった。
◇ ◇ ◇
「う……なんか胸が出過ぎているような……スカートも短めだし……」
「可愛いじゃないですか。似合っていますよ」
クラリスは胸の辺りを抑えながら、恥ずかしそうにもじもじとする。
一方で、アリスは髪をポニーテールに結び、少し楽しそうにくるっと回る。
「アリスさんは……すらっとしてて可愛らしいですね」
「そうかな?」
一番小さいサイズの制服を着て楽しそうにするアリス。
クラリスと同じ制服を着ているとは思えないような清楚な印象を抱かせる。これが聖女か。
「さあ、二人とも頼むよ。三日間よろしくね」
「は、はい!」
「がんばってこいよ」
クラリスは恥ずかしそうにしながらも俺の方を振り返り、コクリと頷く。
「仕事なら完璧にこなして見せようじゃない……!!」
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