第109話 人選の意図

 一方その頃、ヴェールの森周辺。


 キースとライラは、周辺の村の狩人の案内で、ヴェールの森の浅い部分を探索していた。


「おいおい、結構な被害ありそうだなこりゃ」


 キースはヴェールの森内部のとある場所で、地面に落ちた鎧を見ながら言う。


「鎧に剣、鞄……。一人分じゃあねえな」


 キースは鞄を持ち上げ、じーっと観察する。


「死体はないが、身に着けていたものだけ落ちているということか。これをどう見る?」


 ライラは後ろに立つ、近くの村の狩人――マロンに問いかける。


「これだけではわからないな。近頃この森には無法者が多く入っている。確かに“黒い霧”の一件以来、この森に近づく者は減ったが、逆に以前よりもそう言った連中を招きやすくなっている」

「ということは、そいつら同士の抗争か何かの可能性もあるということか」


 あぁ、とマロンは頷く。


「まったく、命知らずが多いねえ。だったら、冒険者にでもなれば人の役にも立てるというのに、理解に苦しむね」

「そりゃあよう、そう言う連中はスリルを求めてるのさ。感謝される快感ではなく、法をモラルを犯している快感だな。言って聞くような連中じゃあない」

「ほう、知ったような口をきくな。もしかして、経験者か?」


 とんでもない! とキースは両手を上げる。


「ただまあ、出がスラムなもんでね。そういった連中をよく見てきたってだけさ。最初は生活の為、何て言っているが次第に取りつかれていくのよ。この鎧の持ち主も、自分の死よりもスリルを求めたんだろうさ」

「なるほどね。そしてお前は、竜との戦いにスリルを求めていると」

「ご明察」


 キースはパチンとウィンクする。


「にしても……人選、どう思うよライラさん」

「どうとは?」


 ライラは腕を組み、訝し気にキースを見る。


「雷帝にあんた、それにアリス……なんともまあ、まとまりがなくねえか?」

「ふむ。まあ、言わんとしていることは分かる。私と雷帝に関しては実績があるが……」

「だろう? “聖女”に“竜殺し”……俺たちはどちらかと言えばエキスパートの部類だ」


 ライラは言われて、ふむと肩を竦める。


「確かに万能ではなく専門家の類だな」

「だろう? 決して万能じゃねえ。“聖女”は聖属性を極めた魔術師だ、普通の戦闘で役に立つとは思えない。そして俺は“竜殺し”……竜を殺せる時点で戦力外とは思ってないが、単純な戦力なら他にも宛はあるだろ?」

「この人選自体が、ローマンの予想という訳か」

「あぁ」


 ローマンはライラでさえいまだに良く分からない人物だった。


 魔術的な能力は高くはないと自分では言っている。

 であれば、一体なにがローマンを今の地位につかせたのか。


 その力の一端ともいうべきものが、多くを巻き込む力や、直感、情報整理の卓越さなのかもしれない。


 そう考えれば、この人選も決して無作為にということはないだろう。


 飄々としているように見えて、あれは相当考えて動くタイプだ。


「単純に考えれば、“聖女”……アンデッドや呪いの類」

「黒い霧がアンデッド系統、あるいはこの土地に根付いた呪いという解釈か。無くはなさそうだが……」

「二つ目、“竜殺し”。これはまあ、単純に黒い霧が竜のパターンだろうな」

「竜か……だとすると、少し行動パターンが不可解だ。それに、霧というのも引っ掛かる」

「俺も、今まで結構な数の竜を屠ってきたが、こんなタイプは聞いたこともねえよ」


 二人はうーんと頭を突き合わせる。


 S級とSS級冒険者。

 その強者たちでさえ姿の掴めない脅威が、この森に眠っている。


「とりあえず、もう少し見てみよう。荒くれ者たちの方は雷帝たちが何とかしてくれるだろうさ」

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