第105話 ブリーフィング①

「いやあ、集まってくれてありがとう諸君。私の呼びかけに応じてくれてなによりだ」


 と、ローマンは薄っぺらな笑みを浮かべながら俺達を見る。


「クラリス君にキース君、アリス君にライラ君……そしてヴァン君。うんうん、まあ悪くない布陣だ」


 そう言ってローマンは近くの椅子に腰かける。


「ローマン、一人で来たのか?」


 ライラ・シーリンスは呆れた様子で言う。


「まあね。護衛って邪魔だろう? 私は出来るだけ一人で動きたいタイプでね。この場所も君たちにしか教えていない」

「相変わらずだな」

「ははは、だからみんなから嫌われているんだけどね。私程扱いずらい上司もいないだろう」


 自分で言うのかこいつ……。

 仕事はきっちりこなすから誰も文句言えないって訳か。


「えーっと、ライラ君はこの間の"鯨"以来かな?」

「そうだな、あの時もえらい目にあわされたのは忘れないよ」


 ライラの目が僅かに鋭く光る。


「いやいや、君だから信頼したのさ。実際大きく成長できただろ? だから今回も参加してくれた」

「はっ、勘違いしないでもらおう。私はお前から呼ばれたから参加を承諾した訳じゃない」

「はは、そうだったね。――それと、アリス君も久しぶりかな?」


 アリスはペコリと頭を下げる。


「SS級昇格の件は――」

「お断りします」


 アリスはニッコリとした顔でハッキリと答える。


「そこを――」

「嫌ですわ」

「なんと――」

「申し訳ありません」

「か――」

「またの機会に」


 おぉ、凄い応酬だ。きっと会うたびにあんなうるさい勧誘を受けているんだろうな。

 けど、SS級を断るって言うのはどういった事情だろうか。何か理由はあるんだろうが……。まあS級に上がった途端冒険者業を休業するような奴がいるくらいだ、皆それぞれ事情があるんだろう。


 連続の断られに、さすがのローマンも眉を下げてしょぼんと肩を落とす。


「やれやれ、相変わらず取り付く島もないな」

「それほどでも」


 アリスのニッコリとした笑顔は消える気配はない。


「だが、君の魔術は貴重だ。滅多にお目に掛かれるものじゃない。期待はしているよ」

「ありがとうございます。私が呼ばれたということは、そういうことなのでしょう」

「あくまで、予測の一つにすぎないけどね。さて、後は……」


 キースの方に視線が動き、キースはさっと身体をただし、きざな笑みを浮かべる。


「俺――」

「クラリス君だ」


 思わぬスルーに、キースがガクッと体勢を崩す。


「ぐぬ……あ、相変わらずだなローマン氏」


 なんだかこいつは不憫だな。アーサーの奴が成長したらこうなりそうだ。


「よ、よろしくお願いするわ」


 クラリスは緊張しながらも、自分のペースを崩すまいと虚勢をはって挨拶する。


「あぁ、よろしくねクラリス君」

「は、はい! この度は選んでいただいて感謝するわ。必ず役に立って――」

「あはは、別にそんな気を張る必要はないよ」

「え……?」

「まあまあ、気楽に。君はまだA級だ、死なないことを優先してくれればいいさ」

「は、はあ……」


 と、クラリスは肩透かしをくらったように困惑している。


「A級を呼ぶなんてあんたらしくないな」

「そうかい?」

「何でその子は呼ばれた? 何が出来る」


 ライラは鋭いまなざしでローマンとクラリスを見る。


「私はここにいる全員の命を預かる立場だ」

「もうリーダー気取りかい? まだ決めたつもりはないんだが」

「SS級の私以外だれがリーダーなど出来る!? そして何より私はリーダーとして適任だ! 冷静な判断、強い力、皆をまとめるカリスマ! 私以上に相応しいリーダーなどいまいよ」

「あはは、相変わらずプライドが高いねえ。今回はアリス君もヴァン君もいるっていうのに」

「ふっ、彼らはリーダー向きではない。それは見ていればわかる」

「まあそこら辺は決めてないからね、君たちの中で好きにするといいよ。ただ喧嘩だけは辞めてくれよ、達成率が大幅に下がる」

「それには及ばない。――で、はぐらかされたが、その子はなんだ?」


 ライラがもう一度クラリスを見る。


「えっと、私は……」

「秘密兵器さ」

「何?」

「えっ?」

「まあ君たちに足りないものを補う存在だと思ってくれていい。そこらへんは私からの依頼を進めていくうちにわかるさ。言葉じゃ伝わらないものもある」

「……何か言いくるめようとしてないか?」


 確かにフワッとしている。煙にまこうしている感じだ。


「とんでもない。これは"この国の命運"を掛けた任務だ。私も成功することを願っている一人だよ」


 クラリスの役割……恐らく俺をこの場に留めることだろう。

 クラリスには可哀想だが、まだ俺達S級以上のレベルにあるとは思えない。ただ、ローマンが何を考えているかはそれこそ本当にわからないところだ。


 俺はヴァンとして依頼をこなすが、同時にノアとしてクラリスを守り通す。それだけだ。


「――さて、そろそろ依頼の本題に入りたいんだが、いいかな?」

「ちょっと待てい! 俺は!?」


 とキースが勢いよく声を張り上げる。


「あーキース君だ。竜殺しに定評がある。さて、本題に入ろう」

「おいおいおい!」

「まったく、うるさいなあ。彼もアリス君と一緒だ。可能性の一つ。皆と仲良くしてくれよ」


 明らかにローマンからの扱いが悪い……。

 しかもライラからも知られていなかったし、もしかしてこいつ……嫌われている?


「さて、本題だが。まず今回のターゲットだ」


 そう言ってローマンは一枚の紙を貼る。

 

「"黒い霧"。君たちを勧誘した際にも言ったと思うが、今回のターゲットはこいつだ」

「黒い霧……。魔物なのか?」

「今のところはそれが有力だと考えているよ。自然現象……何らかの魔術とも考えられるが、伝承から察するに魔物の類である可能性が高い。まあそこも含めて調査さからさ。なあに、これだけのメンバーが揃ったんだ。君たちならやってくれるさ」

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