第104話 冒険者たち

 ローマンの部下であろう人物に誘導され、俺たちは室内へと入っていく。


 建物の一室、防音の魔術の施された部屋。

 相変わらず豪華な家具で彩られた一室。


 中には既に先客がいた。


 ちらと奥を見ると、壁に寄りかかり腕を組んでいるクラリスの存在が確認できる。


 その手前には、巨大な斧を背中に担いだ高身長の女性。ぼさっとした髪に少し露出の高い服装。すらっとした体形に、むちっとした張りのあるしなやかな筋肉。


 そしてその横。

 ちょこんと椅子に座るその佇まいはまるで人形のようだった。アイリスとはまた違った、現実感のない雰囲気。


 真っ白でまっすぐな髪。まるで透き通るような白い肌。

 その存在そのものが、この部屋の空気を浄化しているかのようなそんな錯覚さえ覚える。白いローブに身を包み、蒼い大きく丸い瞳が入ってきたばかりに俺達の方をちらりと見る。


 これで三人――。

 おそらく、これが今回のパーティメンバーだろう。


 A級のクラリス、S級"聖女"アリス・アーヴェイン、SS級"大斧"ライラ・シーリンス、そして俺とキース。


 人数的にこれで全員揃い踏みだ。


 俺は今回の任務にあたって仮面の防護魔術の効果を極端に弱めてきた。

 今までの仮面だと、その場では認識できたとしても、時間が経つにつれ記憶がおぼろげになる。しかし、今回はある程度の期間一緒に活動をする必要がある。


 この仮面は今や変声の効果と、素顔を隠す程度の力しかない。


 すると、大斧を背負った高身長の女性が俺の方へとやってくる。


「その仮面、"雷帝"かな?」


 少し前かがみに、長身の女性は俺にそう話しかける。

 俺よりも長身でわずかに威圧感があるが、その顔の造形はかなり整っている。


「そうだが」

「ビンゴ! 光栄ね。私はライラ、SS級の冒険者よ」


 差し出されたライラの右手を俺は握り返す。


「よろしく頼む、ライラ・シーリンス。だが、光栄なのはこちらの方だがな。SS級冒険者なんて滅多にお目に掛かれるものじゃない」

「あはは、まあ階級的にはそうかもね。でも、君の功績は聞き及んでいるよ。SS級に至るのもそう遠くないだろうさ」

「さて、それはどうだかな」

「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ、ライラ・シーリンス」


 と、後ろからキースがどや顔で体を前に出す。

 決め顔でにこっと笑みを浮かべる。


 少しの沈黙。


「…………?」


 キースは相変わらずの顔でふっと息を吐く。

 

「なんだ、本物に会えて感激ってか?」

「いや、誰?」

「………?」


 キースはきょとんとした顔で俺を見る。

 俺は肩を竦める。


「こいつのことは忘れてくれ」

「そ、そう。……でも……いい! いいね!」

「何が――」


 瞬間、俺はライラにぎゅっと抱きしめられわずかに持ち上げられる。


「な、ななななな!?」


 声を上げたのは俺ではなく、後ろで余裕な顔をしていたクラリスだった。

 アワアワとした様子で駆け寄ってくる。


「ライラ……何の真似だ……?」

「いやあ、思った以上にいい筋肉だと思って。かなり鍛えてるね。それがうれしくてつい抱きしめてしまったよ、悪いね」


 そう言いながらライラは俺をそっと離す。


「……いや、気にするな」

「ちょ、ちょっとライラさん!?」


 と詰め寄ってくるのはクラリスだ。


「なんだクラリス? ……ってそうか、そういえばファンだったっけ。悪いね、先に抱き着いちゃったよ」

「な、な、何をやってるんですか! め、迷惑ですよ!」


 クラリスは慌てた様子で両手をブンブンと振る。


 それを見て、ライラは俺に言う。


「迷惑だったか?」

「いや、別に気にしない」

「だってさ」

「そういう問題じゃ……」

「えー、じゃあクラリスちゃんもやってもらったら?」

「!」


 その言葉に、クラリスの髪がぶわっと舞い上がる。

 ――がしかし、一瞬顔を曇らせるとくるっと背を向ける。


「い、いいです。私はそんな節操がないわけじゃないので」

「あれえ、クラリスちゃんて雷帝のガチファンじゃなかったっけ?」

「いいんです」

「んん……? そうなの?」

「いいんですって!」


 クラリスの大きな声が響く。


「……そう、まあいいや」


 確かに前会ったときは異常に詰め寄ってきていた。

 今日の態度はそれと比べると確かに違和感がある。

 緊張か?


「ふふ、楽しいパーティになりそうね」


 そう口を開いたのは、白いローブの少女だ。


 年齢はライラと俺の中間くらいだろうか。


「あんたは――」

「私はアリス・アーヴェイン」

「アリス……"聖女"か」

「そう言われているわね」


 アリスはお淑やかに髪をさらっと払う。


「変わり者の聖女様ね」

「変わり者?」

「SS級に推薦されているのにずっとその誘いを蹴ってる変わり者よ」

「なんでまた」

「まあ、いろいろとあるのよ。とにかくよろしくね、みんな」


「ほうほう、既に仲良しこよしとみた。いやあ結構結構。何だかうまくいきそうな気配がしてきたぞ」


 全員が一斉にその声の方を向く。


 そこには、クラフト・ローマンがパチパチと拍手をしながら現れた。

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