第102話 誘導
「何でそこでクラリスが出てくるんすか……」
「彼女はA級冒険者だ、別に不思議じゃないだろう?」
「不思議っすよ。S級の俺を連れ出すような任務に、あんたが声かける訳ないじゃないですか」
「はは、勘違いしないでくれ。だから言ってるじゃないか、志願してきたと。別に私が誘ったわけじゃない」
そう言って、クラフト・ローマンはやれやれと肩を竦める。
「……だとしても、メンバーに選出したのはあんたでしょ。SS級の災厄ですよ? クラリスが戦えるわけないじゃないっすか」
クラリスはA級とはいえまだ経験が浅い。歓迎祭の戦いを見ても、まだA級のベテランと肩を並べられるような実力じゃない。
それがいきなりSS級となんて、荷が重すぎる。
「まあまあ、後進の冒険者を育てるのも私の役目でね。志願してくるような意欲のある人間は積極的に重宝していきたいのさ。ただでさえ、A級以上というのはレアな存在だからね。それにあの若さでA級は君に次ぐわけだ。相当な実力差だよ」
と、もっともらしいことを言っているが……。
もし俺が行かないと言ったらどうするつもりだったんだ? クラリス一人でこの依頼を受けたとしたら、たとえ他のS級が居たとしても絶対に安全とは言えない。そんな中、クラリス一人を行かせるなんて俺には出来ない。
……ということは。
「俺の優しさにって……クラリスを守るためなら俺が協力すると思ってたって訳ですか」
「さあね。まあ、実際のところは君は"黒い霧"の脅威だけで動いてくれたんだ、別に今更そこはどうでもいいだろ?」
「クラリスを巻き込んだんだ、どうでもいいとは言わせねえ」
「おや、聞こえなかったかな? 彼女は自ら志願してきたんだ。理由を聞きたいなら、彼女に直接聞いて欲しいな」
と、どこまでもローマンは俺の問いをはぐらかしてくる。
実際の所、どうやったか知らないが確実にローマンは何らかの方法でクラリスをこの依頼に誘導した。でなきゃ、あのクラリスが率先してこんな任務に手を上げる訳がない。こんな危険な任務に。
……いや、どうだろうな。怪しくなってきた。クラリスなら行きたいと言いそうな気も……。
「こうこうこう言う依頼があってね」
「私はそんなの興味ないわ」
「逃げるの?」
「やってやろうじゃない!!」
……容易に想像できるな。
うーむ、クラフト・ローマンの野郎が誘導したっぽい気はするが…………こればっかりはクラリスに聞くしかねえか。
クラリスも巻き込んだこいつのことはムカつくが、とりあえず俺がクラリスを見てればいい。
「まあいいっすよ、俺が守ればいい話だ」
「そりゃかっこいい」
「うるせえローマン」
「おや、呼び捨てかい?」
「敬う気が失せた」
「あははいいね、この歳、この役職になってから私に媚びへつらい下手にでる人間ばかりでね。久しぶりにそういう態度も嬉しいものさ」
「うぜえ……」
だめだこいつ、何言っても響かん……。
相手にしてたらこっちまで落ちてくやつだな、もう諦めよう……。
すると、ローマンは身を乗り出すとこちらを見る。
「――でだ。私の権限で編成したパーティだが、メンバーは君を含め五名」
五名か。悪くないバランスだ。
「A級からクラリス・ラザフォード、S級から"雷帝"ヴァン、"竜殺し"キース・ロイジャー、"聖女"アリス・アーヴァイン。SS級から"大斧"ライラ・シーリンス。この五名が私が選抜した冒険者パーティだ」
S級三人にSS級一人……確かに戦力としては申し分ないか。
少なくとも現状では俺より格上の階級であるSS級(まあ冒険者してればすぐ追い越せる階級だけど)が居るのはローマンの本気の表れか。
「加えて、冒険者以外の実力者も何人か選出して待機メンバーとして控えている」
「へえ、バックアップ要員って訳か」
「まあ彼らが出向くことは無いだろうけどね、念のためさ。基本的に命を張るのは冒険者の仕事だ」
「まあそれは任せておけよ、そいつらの出番はねえ」
「頼もしいね。メンバーの顔合わせは後日だ。何分、S級以上の冒険者たちはかなり忙しくてね、申し訳ないが少し待ってくれ」
「いいけどよ、そんな悠長にしてていいのかよ。"黒い霧"ってのは待ってくれるのか?」
「そこは安心してくれ。主力メンバーはさっき上げたメンバーだが、A級以下で数名信頼できるものを"黒い霧"の監視に向かわせている。異変があればすぐ知らせてくれるよ」
「A級以下に監視? 危険じゃねえのかよ」
「優しいね君は。安心してくれ、彼らもプロの冒険者だ。監視の役目くらい果たせるさ。それに、言った通り"黒い霧"はヴェールの森を出ていない。彼らには森の外から監視して貰っているから、万が一異変があっても近隣の村に警告して避難するよう言ってある。彼らは戦わないさ」
そう言って、ローマンはハハハと笑う。
「そうか。……まあいい、で、メンバーの集合はいつなんだ?」
「明後日の夜には全員集合する予定だよ。悪いが、それまで適当に時間を潰しておいてくれるかな?」
「わかったよ。この依頼は貸しだからな」
「わかっているさ。休業中に引っ張り出したんだ、借りは返すよ」
そうして俺はローマンと別れ、宿を後にする。
まさかクラリスも参加するとは……。絶対に死なせられねえ。
何かうまいことローマンに誘導されたような気もするが、どのみち"黒い霧"とやらは放置できねえ。今は大人しく使われてやる。
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