第93話 戦いの前
長く続いた歓迎祭も、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。これを終えれば、俺は晴れて新入生の中でトップだ。俺の目的に一歩近づける。
俺はニーナとの戦いを終え、決勝までの空いた時間で俺は観客席へと戻っていた。ニーナは念のため治療を受けている。
「とうとう来たなあ……! ノアならぜってえ行くと思ってたけどよ!!」
アーサーは興奮気味に身を乗り出し、グッと強く拳を握る。
その姿にはもちろん俺への期待もあるだろうが、負けてしまったことへの悔しさも滲み出ているようだった。
「何言ってるのよ、自分以外の決勝なんて興味ないわ」
と、アーサーの言葉を聞き相変わらずクラリスはぶっきらぼうに吐き捨てる。
すると、アーサーはニヤッと笑う。
「その割にはよ、随分とソワソワしてるじゃねえか。そんなこといってクラリスちゃんも楽しみなんだろ?」
「うるさいわね! 私以外が優勝するとしたらノアしかいないってだけよ! 別に楽しみにしてないわよ!」
クラリスは腕を組みふんと顔を逸らす。
「本当かよ〜」
「本当よ」
「どうだかなあ」
「しつこい!」
クラリスのチョップが、にやけ顔のアーサーに襲いかかる。
「いてて……ま、まぁいいじゃねえか。最後だしよ、楽しもうぜ」
「はぁ。そんなことは言われなくてもわかってるわよ。――せいぜい退屈な試合しないでよねノア」
「はは、任せとけよ。お前らが負けた分まできっちりかましてくるさ」
◇ ◇ ◇
準決勝までもたしかにかなりの人だったが、この決勝が始まるというタイミングで、観客席に押し寄せる人の数は明らかに膨れ上がっていた。
会場を包み込む熱気。
高揚する観客。
注がれる熱い眼差し。
これがレグラス魔術学院の注目度……さすがエリート魔術学校と言われるだけはある。
新入生といえど、そのトップともなればいろんな方面から注目を浴びるわけだ。
と、そんなことを考えながらぼんやりとしていると俺の真後ろにプレッシャーを感じる振り返る。
「その通りだ!」
「……は?」
立っていたのはドマだった。
仁王立ちし、どっしりと構えるそれはほんの少し年上なだけとは思えない風体。
その通りだ……ってなんだ? 独り言か?
「この熱気……レグラス魔術学院だからこそと言えるだろう。観客に呆気に取られるのも無理はない」
心読んだんですかねこの人は。
「……そうっすか」
「俺の時もそうだった」
そう言いながら、ドマは俺の横に立つ。
「魔術師にとって年齢はさほど関係ない。受け継がれた魔術、才能、センス……悲しいことに、これらはみな同じところに集まる。そうして生み出されるのは傑出した怪物……それは年齢に関係なく幼い頃から頭角を表す。今回のリオ・ファダラスがいい例だな」
いつになく真面目トーンなドマの言葉に、俺は耳を傾ける。
「だが、お前は別だ、ノア・アクライト。突如として現れた新星。この俺に認めさせる魔術の実力。魔術一つ一つに垣間見える積まれた研鑽と深い歴史。こんな存在が、学院に入学するまで無名とは面白いこともあるものだ」
そう言い、ドマはニヤッと笑い俺の肩に手を乗せる。
「だがそれも今日までだろう。お前の名は魔術界に広く知れ渡ることになる。少し残念だがな。相手は神童、相手にとって不足はない――そうだろ?」
ドマはニヤリと口角を上げる。
「そんなこと言いに来たんですか、ドマ先輩」
「がっはっは! 俺の時の歓迎祭を思い出してな。これは俺からのエールというやつだ。ただ強いというのはそれだけでは意味を為さん。勝利という強烈な光によってそれは初めて意味を持つ。――楽しみにしているぞノア・アクライト! お前は俺が倒すべき相手だ」
そういい、ドマは高笑いしながら去っていく。
それに合わせるように、少し離れていた周りの観客たちが戻ってくる。
勝利によって意味を持つ……か。
たしかに、その心は大切かもな。
「――仕方ない、期待に応えるとするか」
まぁ、もとよりそのつもりだ。俺はこの学院で暴れるために来たのだ。まずはここで俺という存在を世に知らしめてやろう。
ただ少しだけ。
期待してくれる奴らの分くらいは、上乗せしてやるかと。そんな気持ちでいた。アイリス、アーサー、ニーナ、クラリス、ドマ……。
自分のためだけじゃない戦い。
最強だと思いつつも、誰かの期待を背負う。
その悪くない重みに、俺は俄然やる気を増す。
――さあ、名もなき学生は今日で終わりだ。
◇ ◇ ◇
「ノア~~~!!! がんばれえええ!! ノアなら勝てるわよ!! 見せつけちゃいなさ――」
「ア、アイリス様! はしたないから身を乗り出すのをおやめください!!」
普段のアイリスからは想像のつかないはしゃぎように周りの関係者達は困惑しつつも、どこか微笑ましそうにそれを見守っている。
初めて見る年相応の姿なのだろう。
少し静かになったアイリスは、じっと俺の方を見つめる。
俺はそれに応えるように、静かに片手をあげる。
「キシシ、お熱だねえ皇女様。これは倒しがいがある」
目の前の少女――リオ・ファダラスは楽しそうに口角を釣り上げる。
「君の戦いは見てたよ」
「そりゃどうも」
「いい雷魔術だね。他の雑魚じゃ勝てないのも無理ないよ」
「ま、最強だからな俺は」
リオの顔が、僅かににやける。
「最強……? 強者であっても、最をつけるのは違うんじゃないかなあ、ノア・アクライト! 最強は一番強い人に与えられるんだよ」
「はは、じゃあ誰に相応しいって?」
「キシシ……! か弱い女の子は仮の姿!」
誰もか弱いとは思って無さそうだが……黙っておくか。
「本当の僕は何を隠そう魔術の申し子! ――つまり、最強はこの僕だ……!」
興奮気味に、リオ・ファダラスは言葉をこぼす。
どうやら、アドレナリン全開らしい。
「ま、勝った方が最強なのは違いねえな」
「その通り。どっちみち君は僕が認めた男だ」
「それは光栄だね」
「僕の魔術は重力魔術だ」
「知ってるけど」
俺のツッコミもお構いなしにリオは続ける。
「これは一歩間違えれば相手を簡単に殺せる魔術でね。僕も随分加減を強いられたよ」
「なるほどな。てことは」
リオは楽しそうにパチンと指を鳴らす。
「その通り! 君なら、僕の全力に応えてくれるんだろノア・アクライト! 僕のフルパワーでも、簡単に壊れないでしょ? キシシシシ……今からうずうずしてるよ。この力を全力で解放できる日が来るなんて!!」
リオはツインテールを振り乱し、今にも飛びかかってきそうになりながら必死に自分を抑えている。その目は、戦いに飢えていた。
「はは、いいねえ……! お前の全力とやらを見せてみろよ。俺はそれを完璧に叩き潰した上で、新入生の頂点に立つ。勝利ってやつを味わってやるさ」
「死んでも文句は聞かないからね……! ノア・アクライト……!」
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