第92話 牢獄

「いっけえ!!」


 ノームはフワッと宙に浮きユラユラと漂うと、一気に魔術を行使する。


 地面から波状に迫りくる土の壁。


 スパークでは対応できないのは既に確認済み。

 だったら、普通に避けるまでだ。


 俺は"フラッシュ"で一気に加速すると、迫りくる壁を軽々と飛び越えてみせる。


 しかし、壁の向こう側、開けた視界ですぐ目に入ってきたのは、俺目掛けて飛んでくる無数の岩のつぶてだった。


 俺が壁を突破するのを見据えての二段構えの攻撃。

 モンスターが相手だとこういうトラップは用意してこない。これでこそ対人戦だ。


 だが、不意打ちとはいえ"フラッシュ"で加速している俺を捉えることは出来ない。


 俺は飛んでくる岩を軽々と避け、徐々に距離を詰めていく。


 本来なら強力な召喚対象ではなく、召喚術師を狙うのがセオリーなのが対召喚術師と聞くが、もっと簡単な方法がある。それは、召喚対象自体を排除してしまう事だ。


 一度召喚対象が破壊されれば基本的に再召喚までかなりの時間を有するはず。その隙を狙えば、召喚術師を倒すのは楽勝だ。


 一般的にそれを狙わないのは、召喚された精霊やモンスターは魔術師の力量を上回っている可能性が高く、さらに、後だしじゃんけんのように自分にとって不利となる精霊やモンスター(俺を狙い撃ちしたノームのように)を召喚されるため、召喚対象自体への攻撃が難しいからだ。


 召喚対象を破壊するのは相応の実力がないと無理だが、俺ならできる。


 俺のスパークを防げる壁を生成出来るとはいえ、ノーム本体への近距離からの攻撃は避けようがないだろう。あの壁を複数枚展開されれば、他の魔術も防ぎきられる可能性がある。ならば、岩の壁を生成するより早く電撃をぶち込むだけだ。

 

 だが、ニーナも俺が精霊の破壊を狙っているのは承知のようで、岩石の影に紛れて壁を生成し、上手く俺の行動を制限してくる。闘技台の上はさながら迷路のように入り組み始めていた。


 いい加減後手に回り過ぎたな。ニーナのノームを使っての戦い方はわかってきた。

 様子見はもう十分か。さて、そろそろこちらも攻勢に出るか――と思った瞬間、先にニーナが動く。


「今! 閉じ込めて、ノーム!」

「ウゴアアア!!」


 瞬間、俺を中心とした四方から、土の壁がせりあがる。


 それは攻撃をするでも防御をするでもなく、建造物を作るかのようにぴったりと合わさると、俺をすっぽりと覆い尽くす。


 完全に密閉された土の牢獄。


「……へえ、まだこんな魔術が残っていたか」


 なかなかやるな。

 これも俺対策で考えてきた技か。


 地水火風、四属性操れるだけで他の魔術師に対して大きなアドバンテージを取れる。さらに、精霊自身もこれだけの魔術を使えるとなるとニーナの総合力は新入生でもトップクラスなのは間違いない。


 召喚は基本的に術者の魔力を消費する。

 術者をエネルギー源として、精霊は魔術を行使しする。だから、ニーナ自身の魔力量が多くないとそもそも戦闘すら不可能なのだ。


 ニーナは魔力量がかなり多い。入学前、俺と出会った頃は一人と戦闘するだけが限界だったのが、今ではこの歓迎祭を戦い抜くだけの魔力量を手に入れている。


 相手が俺じゃなければ、決勝も夢じゃなかったんだがな。


 悪いが、さっさと終わりにさせてもらうぜ。


「これでノア君の動きは封じた! 今のうちに……!!」


 外からニーナの声が聞こえる。


 俺はお構いなしに、そっと壁に手を付けると一気に魔力を練り上げる。


「――"ライトニング"」


 瞬間、俺の右手の前に現われた魔法陣から飛び出した電撃は、一瞬にしてノームの壁を破壊して飛び出す。


「なっ……!? ノームの壁が!?」


 スパークは威力の低い速攻魔術。

 ライトニングなら行けると踏んだが、俺の見立ては間違ってなかったみたいだ。


 俺は続けて、クイッと右手を上下左右に動かす。


 すると、俺の放った"稲妻"は俺の手の動きに合わせて急激な角度を持って屈折する。


 その稲妻は、不規則な軌道を描き、目にも止まらぬ速さで飛び回るとノームに襲い掛かる。


「ッ!! ノーム!! 壁を――」

「間に合わねえよ」

「ウガアアアア!!!」


 俺の放った"稲妻"は、的確にノームの心臓部を貫く。


 正面切ってこの距離から魔術を放っていたら、複数の壁の生成が間に合い威力を殺され、防がれた可能性は高い。


 だが、自ら俺の周りに生成した壁。それにより俺の行動を読むことが出来なくなった。そして、こんなにも早く俺の魔術がノームの壁を破壊出来るとは想像できていなかったんだろう。"黒雷"なら余裕だろうが、俺が観客の居るこの場でそんな周りを巻き込む可能性のある魔術を使う可能性は低いと判断したんだろう。


 俺を閉じ込めた状態から一気にケリをつける攻撃魔術があったんだろうが……一歩遅かったな。


 ニーナの敗因は、殆ど手の内を見せていない俺の実力を見誤ったこと。スパーク以外なら、こんな壁余裕だぜ?


 つまり、俺は最強だということだ。


 直撃した"稲妻"は、ノームを芯から破壊し、ノームはサァっと砂が風に吹かれていくように消えていく。


「ノーム! くっ……! 再召喚までインターバルが――」


 苦い顔をするニーナに、俺はすぐさま詰め寄る。


 ピタッとニーナの眼前に手を翳し、ニヤリと笑う。


「チェックメイト」

「~~~! ――……はぁ」


 と、ニーナは観念した様子で溜息をつくと、片手を上げる。


「参った、さすがノア君だね…………降参です」

「はは、いい勝負だったぜニーナ」

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