第84話 ルーファウスの成長
第一試合が終了し、クラリスは医務室へと運ばれていく。
意識はあるが、負傷を治療するために念のため連れていかれた。敗者となったクラリスの顔はこちらから見ることは出来ない。
恐らくクラリスとしても悔しい戦いだっただろう。上手く重力魔術から逃げることは出来ていたが、結局終始逃げに徹した戦いとなってしまっていた。力を存分に出し切ったとは言えない結末だろう。
クラリスに油断があったのか、以前言っていたように冒険者以外を下に見ていたことで足元を掬われたのか、そこら辺は直接聞いてみないと分からないな。
勝者となったリオ・ファダラスは、その長いツインテールを振り乱しながら観客たちに元気よく手を振っている。まだ力は有り余っているようだ。
改めてリオ・ファダラス――重力姫の魔術を見たが、なかなかやるな。あれだけ連発しても魔力切れを起こさないあたり魔力の総量もかなりのものがありそうだ。ニーナと同等かそれ以上といったところか。全員が奴のことを優勝候補に挙げるだけのことはある。
「ビビったか、平民」
次の試合の準備に立ち上がったがルーファウスが、俺の方を見てにやけ顔を見せる。
「なんでだ?」
「お前の所のお仲間だろう、あの元冒険者は」
「関係ねえさ。クラリスは戦いで負けた、それだけだ。あいつならここから這い上がるだろうしな。実力は申し分ないんだ、きっかけがあればリオ・ファダラスにも勝てるようになると思ってるぜ」
「……相変わらずつまらない野郎だ」
「そんなことより、次はお前だろ? 相手は誰だったか」
「キング・オウギュスタ。水魔術を使う名家の男だよ」
そう、レオが割って入る。
「ムスタングを破ってきた実力は相当なものだろう。結構やるはずだ」
「――だそうだ。行けるのかよ?」
「はっ、愚問だ。俺様を誰だと思っている? アンデスタ侯爵家が次男、ルーファウス様だぞ? そして……氷魔術を極めし者エリートだ。プライドにかけて負ける訳にはいかん」
「言うねえ。楽しみにしてるぜ、てきとうにがんばれよ」
「貴様に言われるまでもない。俺は決勝へ行く。せいぜい一回戦で負けないようにがんばるんだな」
そう言い、ルーファウスは会場の方へと向かっていく。
まだそれほど時間は立っていないが、平民だなんだと言っていた頃と比べると大分ルーファウスも変わったような気がする。訓練をしているという話もよく聞いたし、なにより俺へ突っかかることも少なくなった。魔術へ熱心に打ち込んでいるんだろうな。
「ま、俺と戦いたかったら決勝までくるんだな」
「……黙れ、不愉快だ」
そうして、一回戦第二試合が始まった。
氷VS水。
魔術の戦いは相性も大きく左右される。今回で言えば、圧倒的に有利なのは氷魔術を使うルーファウスだ。
試合は予想通りの展開で進む。
キングの水魔術を悉く凍らせ、無力化していく。
ルーファウスの氷魔術は、俺と戦ったときと比べ範囲も威力も随分上がっている。相当訓練を積んだんだろう。余程俺に負けたのが悔しかったらしい。
そして、勝負はあっという間に決着がついた。
事前の優勝予想では四位のキングに対して六位のルーファウスだったが、魔術の相性とここ最近の伸びがこの結果をもたらしたのだろう。
第二試合勝者、ルーファウス・アンデスタ。
ルーファウスは勝ち誇った表情で腕を組み、得意げに笑みを浮かべる。
順調な勝利に、会場中から歓声が上がる。氷魔術の名家だけあり、ルーファウスを本命だと思っている観客も少なくはないようだ。
そして、次の試合は――。
「だ、大丈夫。私ならやれる……!」
「おいおい、緊張してるのか?」
「してない! ……とは言えないかな……あはは」
そう言い、ニーナは少し不安そうに笑う。
クラリスが負け、多少なりとも動揺しているようだ。
「相手はライセル・エンゴット……どう勝ち残ったのかもよくわかっていない生徒だったか」
「うん……精神に作用するタイプの魔術を使うんだと思うんだけど……私そう言う人相手にしたことないから」
それが自信のなさか。
確かに、属性系の魔術と違って精神に作用するタイプの魔術は厄介だ。
ライセルがどう戦ったかが分かっていないことからも、奴が精神に何らかの作用を及ぼす魔術を使ってくることは間違いないだろう。対人経験の殆どない俺にはどうアドバイスをしたらいいかはわからないが……似たような能力を使うモンスターとなら幾度かやり合ったことがある。
「まず認識を疑う事だ」
「認識?」
「あぁ。普段と違うと感じたら違和感を持て。相手が見えない、身体が上手く動かない、魔力が思うように練れない。どれを感じても自分の緊張から来るものだと思ったら負けだ。その時点で術中にはまっている」
「うう、難しい……」
まあ人間の使う魔術だとどれほどの力を発揮するかは未知数だが、基本はモンスターと対処は一緒だろう。
「そういう時はまず落ち着け。深呼吸だ。魔力を意識して、自分をしっかりと保て。そして、できれば召喚した者に自分を攻撃させろ。外部からの痛みで脳は覚醒しやすい」
「な、なるほど……」
「まあ、俺が言えるのはこれくらいだな。あとは、実際どんな魔術を使ってくるのか戦うまでわからない」
そう、それこそが本来の魔術師の戦い。シェーラの言う対人戦だろう。
ニーナが羨ましいぜ。俺も未知の相手と戦って見たかった。
ニーナは俺の言葉に、みるみる活力を取り戻していく。
「うん……うん! なんだかやれそうな気がしてきたよ!」
「はは、そのいきだぜ。ここで勝てば次の試合は俺とだからな。俺はお前とも戦ってみたいぜ?」
「ノア君……!」
「がんばってこいよ。見せるんだろ、親に」
「うん。きっと見に来てるからね」
『それでは、次の生徒の入場です!』
と、第三試合の呼び込みが始まる。
「そろそろだ……。行ってくるね、ノア君! 見てて、絶対勝ってくるから!」
「はは、絶対か。期待してるぜ」
ニーナは腰の本を大事そうに撫でると、キッと視線を鋭くし、会場へと向かっていく。
第三試合が始まる。
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