第81話 嫉妬と注目
「がんばれー、ノアー!! 無理言って応援に来たんだから、かっこいい所見せてよー!!」
そう叫ぶのは、またしても侍女エルに座るよう押さえつけられている、隣国の氷雪姫。
美しく透明なブルーの髪を靡かせ、白い肌に日光が反射している。見ている誰もが釘付けになる美しさ。まだ幼いながら、その様子は絶世の美少女――なのだが、なんだか今日は一段と子供らしい。
そしてその原因はみんなわかっていた。
全員の視線が向く先にいる男――そう、俺である。
昨日この場にいた人間に加え、どこよりも早く広めた連中がおり、俺がアイリスを救ったことは既に知れ渡っていた。そのおかげか観客は例年以上の客入りらしい。
そしてもちろん皆人間。
純粋に俺を英雄だと崇める声もあるにはあるが、残りのほとんどはアイリスからダダ漏れの熱い声援を受ける俺への嫉妬である。会場はガヤガヤと騒々しさがある。
「うお、ノア大丈夫か? めちゃくちゃアウェイみたいになってるけど……」
周りの熱気ある喧噪を聞いて、アーサーは怖いものを見たような顔で言う。
「ノア君のことみんな褒めると思ってたら……アイリス様完全にノア君贔屓だからね。嫉妬が……」
「はっ、くだらねえ。俺には関係ねえよ。ただ今日優勝する、それだけだ」
「そうよ。あんたを倒すのは私。こんな空気で萎縮してもらっちゃ困るわ」
そう言い、クラリスはフンと鼻を鳴らす。
「も、もちろん私も負けないよ! アイリス様がライバル――」
「アイリスがライバル?」
「――じゃ、じゃなくて! アイリス様の……ほら、応援があっても私も負けない……的な。あはは」
ニーナは何やらとりつくように苦笑いする。
そして、面倒なこの男。
「アイリス……? 今呼び捨てにしたかノア?」
「ん、そうだけど。悪いか?」
「悪い! くそ、ノアなんか負けちまえ!! モテ男が!!」
アーサーは悔しそうに地団駄を踏む。
「急に敵に回るじゃねえか」
「知らん! ニーナちゃん、クラリスちゃん、絶対こいつ倒せよ!」
「「もちろん!」」
今朝は俺が勝てば歴史に名が残るとかなんとか言ってたくせに……まったく。まぁこれだからアーサーは見てて飽きないが。
そうこうしているうちに、俺たち本戦組は控室へと移される。
アイリスと俺の関係や真実を聞こうと野次馬が集まるが、昨日同様自警団が俺達を誘導してくれる。
その中に、リーダーのハルカの姿もあった。
「君には期待してるよ」
「はぁ……どうも」
別れ際、そんな言葉を投げかけられる。
何かと注目されてるみたいだな。いい傾向だ。
「はは、すごい人気だなノア」
控室で座りながら、レオは俺の隣でそう口を開く。
「今日の半分くらいは君を見に来たんじゃないか?」
「はは、大げさだよ。お前や重力姫を見に来たついでに噂の奴を一目見ようって腹だろ。人気No.2のお前に言われたくねえな」
「人気……? あぁ、あの新入生の中だけでつけたランキングの話か。はは、僕はあれを真に受けてはないさ。みんな見て見ぬふりをしているが、正直言って君の実力は群を抜いてる。野次馬は君の実力ではなく話題性で集まってきてはいるが、実力はそれ以上だと今日知るだろうね」
そういい、レオは光悦の表情を浮かべる。
「……一回戦お前と俺だよな?」
「そうだな」
「にしてはやけに俺を上げるじゃねえか」
「僕は強い魔術の輝きを見たいだけだ。僕より強い人間がより輝くのなら、僕個人の活躍は二の次さ。――もちろん、初めから負けるつもりなどないけどね。僕にもプライドがある。魔剣士としても負けられないしね」
そう言い、レオは不敵に笑う。
人気No.2、実力は折り紙付。家柄も才能も頭一つ抜けている。
それに、相手の力量をしっかりと見抜く冷静さと客観的視点を持ち合わせている、強くなるタイプの魔術師だ。
油断は厳禁、いつも以上に。
俺が最強だと理解しているが、魔術に絶対はない。
「相変わらず不思議なやつだな。……ま、俺も負ける気はねえよ。ここは通過点だからな」
「ふふ、そうこなくっちゃ。楽しみだよ、君と戦うのが」
◇ ◇ ◇
会場は盛り上がりを見せていた。
もちろん、アイリス皇女を救った英雄たちの噂で持ち切りというのもあるが、それだけではもちろんない。
長い歴史を誇る歓迎祭、その本戦ともなれば魔術関係者がこぞって見に来るお祭りだ。昨日の予選では顔を見せなかった大物たちが集まっている。
本戦に出場するメンバーは言わば今年の新入生を代表する魔術師だ。それで今年の豊作具合が全国に伝わる。レグラス魔術学院は大陸一の魔術学院。この中から未来の大魔術師が誕生すると言っても過言ではないのだ。
そして本日の対戦カードは――。
第一試合、クラリス・ラザフォードVSリオ・ファダラス。
第二試合、ルーファウス・アンデスタVSキング・オウギュスタ。
第三試合、ニーナ・フォン・レイモンドVSライセル・エンゴット。
第四試合、ノア・アクライトVSレオ・アルバート。
どの試合も白熱間違いなしだ。殆ど全員が名前が知れ渡る猛者たち。観客たちが盛り上がるのも無理はない。
俺の最初の相手は、レオ・アルバート。正直、俺が見た中では恐らくこの学年で一番強いと思われる男(リオ・ファダラスは見た事ないからわからないが)。
相手にとって不足はない。
貴族にして魔剣士の名家。俺の名を更に広めるには絶好の相手だ。
悪いが、輝きを見たいなんて言ってられる余裕はないぜ、レオ。
――そして、学院長の挨拶も早々に、最初の試合が開始されようとしていた。
とうとう、本戦が始まる。
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