第80話 優勝予想
翌日。
とうとう、本戦が始まる朝。
俺達のクラスからは、俺、ニーナ、クラリス、レオという半分を占める四人のメンバーが本戦出場を果たした。
俺とニーナとクラリスは、本戦に出場することもあって朝早く起き一緒に食堂へと足を運んでいた。ちらほらと既に起きて朝食をとっている生徒もいるが普段よりはまだ少ない。
歓迎祭という一大イベント。本戦に残るのは名誉なことだと皆が口をそろえて言う。早起きしている生徒たちから羨望の眼差しがヒシヒシと伝わってくる。勿論それだけじゃない。昨日のレーデの一件。アイリスと俺との繋がり、俺が本物の"赤い翼"潰しの英雄だとバレたことによって余計に注目されているのだ。
そしてその件と無関係とはいえないレーデは、一度夜に目を覚ましたらしいがそれからまた深い眠りに落ち、まだ目が覚めていないらしい。俺の攻撃はそれほど深いダメージを残すものではなかったはずだが、何かあったのだろうか。殺しちまったとかはねえよな……? 念のため本戦が終わったら見舞いにでも行くか。
「よう、お三方!」
アーサーは俺達が座って朝食を食べているところへ颯爽と現れると、カラッとした笑顔でそう言う。
クラリスはジトーッとした目をし、笑みを浮かべながら弄るように言う。
「あんたねえ、予選落ちしたってのに随分元気じゃない」
「あはは、いやーまあそれは悔しいけどよ。……俺の実力不足ってやつだ」
そう言いながら、アーサーは俺の横に腰を下ろす。
「アーサー君――」
「おっと、ニーナちゃん。別に憐れむ必要ねえぜ? ぜってえ今回のことをただの失敗で終わらせねえって昨日一人誓ったからな! 今回は駄目だったが、まだまだトップの座を狙うチャンスはあるんだ! それまでにもっともっと強くなってやるぜ」
そう言い、アーサーはニカっと笑う。
「ったく、さすがだな。お前なら、いずれは強くなるさ」
「おいおい、ノア、いずれはってなあ……」
こうして俺たちは談笑をしつつ、朝の時間を過ごす。
予選前はみんなピリピリとしていたが、本戦に残ったメンバーはたったの八人。ほとんどの新入生は悔しい気持ちはあれど吹っ切れており、今日の試合を楽しく観戦するムードへと移行していた。
「でだ、知りてえか?」
「何がよ」
「何なに?」
「お前たちの人気投票だよ」
「えっ、どういうこと?」
ニーナは不思議そうに首をかしげる。
「本選出場者が決まっただろ? それでBクラスの奴が新入生の奴らにアンケートを取ってな。誰が優勝するか投票したんだ」
「へえ、興味深いじゃない。で、どうなってるのよ?」
クラリスがノリノリで身を乗り出す。
「もちろん私が一位よね?」
「あーいや……」
詰め寄るクラリスに、アーサーはたじたじで顔を逸らす。
「はは、どうなんだよアーサー」
「えーっと、一位は――……リ、リオ・ファダラス」
「はあ!? 私じゃないの!?」
クラリスは声を張り上げる。
「だーうるせえ! 順番に言ってくからな! 別に俺が勝手に決めたんじゃねえぞ! 二位がレオ! 三位クラリス、四位キング、五位ニーナ、六位ルーファウス、七位ノア、八位ライセル――だ!」
アーサーは一息に捲し立てると、ハアハアと息を切らす。
と同時に、クラリスの悲鳴に近い声が響く。
「私が三位ぃ!?」
「わー私五位なんだ、ノア君より上ってなんかプレッシャー……」
二人とも想像通りの反応だ。
俺が七位か、まあ妥当だろうな。平民で最下位予想じゃないだけでも上出来な方だろう。
「ノアは正直昨日の予選の影響でもっと上に行くと思ったんだけどよ、他の奴らのネームバリューがさすがに凄すぎた。リオとレオは僅差で、少し離れてクラリス。キング、ニーナ、ルーファウスも僅差だな。そっからちょっと落ちてノア……で、ライセルは正直ほぼ票が入ってない」
「入ってない?」
「あぁ。なんせみんなこいつが上がってくるなんて想像もしてなかったからな。しかも、勝ったところもいまいちハッキリと見れてない。正直なんでこんなところに居るんだって感じだよ」
そう言い、アーサーは肩を竦める。
「まあでも……一番人気のリオ・ファダラス、魔剣士のレオ、元冒険者のクラリスちゃん、公爵令嬢のニーナちゃん、氷魔術の名家のルーファウス、強化魔術を極めたムスタングを倒したキング……こいつらを抑えてノアが優勝なんてことになったら――」
アーサーはニヤッと笑う。
「とんでもないジャイアントキリングだぜ? きっとこの学院始まって以来の大騒ぎさ」
「そんなもんか?」
「そんなもんだ! 魔術なんてただでさえ名家・貴族で占められてんだ。その上、血統による才能ってのは確実にある。その中で、平民で無名の少年がそいつらを差し置いて優勝……めちゃくちゃ燃えるだろ? 長い歴史の中で平民が歓迎祭で優勝した記録はねえ。歴史に名が残るぜ!」
興奮気味にアーサーは俺の肩を揺らす。
「私達を負かしたいみたいね、アーサーの馬鹿は」
「ク、クラリスちゃん……いや、だがここは言わせてもらう! 俺は没落名家だ、ノアみたいな無名の生徒に勝ってもらいてえ! いわば俺達の希望なんだよ!」
希望か。確かに、こいつら有名どころを倒して優勝するのはさぞ気持ちよさそうだ。俺の目的……シェーラの課題の達成にとって最短ルートなのは間違いない。
「ニーナ、クラリス」
俺は二人の方を見る。
「悪いが、今日は俺が優勝させてもらうぜ」
「ふん、望むところよ。私もあんたとは個人的に戦って見たかったし。師匠絡みでね」
「私も負けないよノア君! この学院に入れて貰った恩は、結果で返すよ!」
「はは、楽しみだぜ」
こうして、本戦の時間は刻一刻と近づいていった。
いよいよ、新入生で一番の生徒が決まる。
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