第78話 予選終了

「ノア君!!」


 席に戻ると、周りからの視線が強いく感じられる。さっきのアイリスとのやり取りが余程効いているようだ。


 ニーナはニッコニコの顔で俺の元に駆け寄る。


「やっぱり私の言った通りだったね! 絶対ノア君だと思ってたよ!」


 そう言い、ニーナは自信満々に誇らしげな表情を浮かべる。

 

「はは、まあ、さすがだよ。あの日ニーナも一緒に居たしな」

「ふふ、でもまさか本当にあのアイリス様を……犯罪組織を壊滅なんて……凄いなあ。分かってはいたけど、実際本当だとわかったら凄すぎて何が何だか」

「凄いなあ……じゃねえよ! そんなことより、何アイリス様といちゃついてんだ!!」


 と、アーサーが勢いよく割って入る。


「おお、アーサーもう体はいいのか?」

「ん? あぁ。さすがレグラスの回復術師だな、この通りピンピンしてるぜ」


 そういってアーサーはニカっと笑みを浮かべる。

 ただ単にこいつが頑丈なだけな気もするが。普通の人間ならこうはすぐに動けないだろう。


「じゃなくてだな、何をアイリス様といちゃいちゃと……羨ましい……!」

「どこがだよ」

「どこがだよ、じゃねえ! 見りゃわかるだろ、アイリス様もお前を応援しに来たみたいだし……ああくそ!! ずるいぞ!!」

「ずるいってなあ……」

「くそお……」


 アーサーはいじけてぷいとそっぽを向く。


「ふふふ、私もやっぱりあなただと睨んでたわよ~」


 と、不意に現れたのはフレン先輩だ。


 周囲が俺に注目の視線を集めて一歩引いている中で、ニコニコとした笑顔を浮かべながら近づいてきた。


「否定してたのにあっさり認めるなんて、やっぱりアイリス様のせい?」

「いや、別に俺の意思っすよ。隠す必要ももともとなかったっすからね」

「ふーん……そう言う事にしておいてあげる。今回は私の勝ちね」


 そう言ってフレンはぎゅっと抱き着こうとしてくるのを、俺は慣れた手つきでいなす。


「さすがの情報網っすね。言われたときは驚きましたよ」

「ふふ、何でも知ってる謎の美人お姉さんで通ってるからね。……で、気付いてる?」

「え?」

「あなたの評価、今一気にうなぎ上り、絶賛大注目。これから忙しくなるかもよ~」

「……覚悟の上ですよ」


 覚悟は決めた。どうせ強さを見せていれば遅かれ早かれこうなってたんだ。逆にレーデに感謝だな。


「私が上手く匿ってあげてもいいわよ?」


 とフレン。ウィンクをし、俺を誘惑するように口角を上げる。


「……やめときます。後が怖いんで」

「あら、残念。まあ、また詳しく聞かせてね」


 そう言ってフレンはその場を後にした。


「あんたが……”赤い翼”を……」


 クラリスは悔しがるようにギリギリと歯ぎしりをする。


「どうした?」

「また抜け駆け!! 私だって……その場にいれば出来たわよ!」

「はは、キマイラの時と一緒だな。ま、お前なら出来たかもな」

「く……! その余裕そうな顔……! 運よ、運! ……いい、明日の本選が本番なんだから! 絶対私と当たるまで負けるんじゃないわよ!」

「はは、こっちのセリフだよ。俺はこのまま優勝するぜ?」

「言ってなさい」


 そうこうしているうちに、本日の予選が終了したことを告げるアナウンスが流れる。


 俺はアイリス様を助けた救世主として完璧に認識されて、終了すると同時に一気に人だかりができる。


 みな、アイリス様が大好きで、助けた張本人が気になるのだ。しかも、偽物を打ち破っての登場。皆興奮していた。


 しかし、ハルカ率いる自警団の連中が警護してくれ、俺達は無事寮へと戻って行った。こういう時は頼もしいな。


 そしてその夜の号外で、あっという間に俺の行ったアイリス救出の報は国全体に広まることとなった。


◇ ◇ ◇


「まあ、ノアの件はいいとして――」


 俺たちはついさっき配られたトーナメント表に視線を落とす。

 明日の本選の予定が書かれていた。


 確かにいろいろあった予選だが、本番は明日の本選だ。ここで優勝してこそ俺の目的に一歩近づける。


「Aクラスが4人、Bクラスが1人、Cクラスが3人……大分偏ったわね」

「そうだね、うちのクラスから4人も!」

「そこに俺が入れなかったのは残念だが……まあ仕方ねえ……」


 アーサーは悔しそうに顔をしかめる。


「……ま、反省することだな」

「ノア君、そんな――」


 俺は眉を八の字にするニーナの言葉を制する。


「正直今回は相手の方が上手だった。誰が見てもな」

「はは、言い返す言葉もねえ」

「だが、お前がこの学校のトップを目指してるのが本気だってのは今日の戦いを見てわかったぜ」

「ノア……」


 俺はアーサーの肩を軽く叩く。


「これからだ、お前は。可能性は秘めてるぜ。……ま、俺が居る限りトップってのは無理だけどな」


 そう言い、俺はニヤッと笑う。


 その挑発とも取れる言葉に、アーサーも笑顔で答える。


「そうこなくっちゃ……! とうとうライバルとして認めてくれたって訳だな! ぜってえ追い抜いてやる!」

「あんたがノアと同レベルな訳ないでしょ、まったく」

「いいんだよ、気持ちの問題だ! まだ学院生活は始まったばかりだぜ!? この先追い抜いてやるさ!」

「でだ。明日のトーナメント予定は……」


 俺たちはもう一度紙に視線を移す。

 何せ、ここにいる俺とクラリス、ニーナは本選出場を果たしたのだから。


「一試合目が私と……ライセル……エンゴット? 誰だろう?」


 知らない名前が聞こえてくる。


「えーっと確か番狂わせで上がってきた人だったかしら? 気付いたらみんな倒れてたって」

「こえ~……何してくるか分からないって訳か」

「油断はできないよね……。全力でいくよ!」

「今日結構消費してたけど魔力はどうだ?」

「寝れば元通り!」


 そう言ってニーナはグッと拳を握る。


「はは、心配なさそうだな」

「で……二試合目はルーファウスとキング・オウギュスタ」

「ルーファウスの野郎、さすがだな」


 最初は口だけだと思っていたが、やはり言うだけはあるらしい。


「ノア君に負けてからかなりやる気みたいだからね」

「はは、気が抜けねえな」

「三試合目がクラリスちゃんと……Cクラスのリオ・ファダラス……!」

「噂の子……だよね」


 ニーナが少し険しそうな顔をする。


「ニーナなんて顔してるのよ。負けないわよ私は」


 そういい、クラリスはニヤリと笑う。


「どうせ優勝するなら全員と当たるもの。魔力が全快のうちに当たれてむしろラッキーだわ」

「さすがクラリスちゃん、言うねえ」

「いいねえ、期待してるぜ。で、最後が――俺とレオか」

「いきなりのトップカード……!! 俺の仇をうってくれ!」


 そう言い、アーサーは俺の手を握る。

 俺はパッとそれを払う。


「仇とかは好きじゃねえが……レオとは戦ってみたいと思ってたからな。早々に戦えるのは願ったり叶ったりだ」

「あの戦いを見てそれを言えるのはお前くらいだよノア……」

「ノア君頑張ってね!」

「お互いにな」

「うん……!」


 とうとう、本戦が始まる。明日には、新入生での一番が決まるのだ。もちろん、俺以外有り得ねえけどな。

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