第70話 気合

「へへ、勝った!」

 

 ニーナは席へ戻ってくると満面の笑顔でニっと白い歯を見せ、Vサインをして見せる。少しだけ息を荒げ頬は紅潮し、前髪が汗でぴったりと額に張り付いてる。


「おう、お疲れニーナ」

「いやあ、すげえよニーナちゃん! 本選出場おめでとう!」

「ありがと! あーよかった、これで少し気持ちが楽になったよ」


 そう言い、ニーナはルンルンで俺の隣に腰を下ろすと、ふうっと息を吐き呼吸を整える。


「また魔力量が上がってたな。近接戦闘も大分上達してたしよ」

「ふふ、頑張って修行したからね。秘密特訓の成果が出て良かったよ」

「ガンズの戦いを参考にしたのか?」

「そう! 場外ありだったらルーちゃんが適任だと思ってね。きっと召喚術師が直接向かってくるなんて考えてないだろうから不意をつけるかなーって」


 興奮が覚めやらないといった様子で、ニーナは少し早口で言う。


 今日までいろいろと考えて特訓を積んできたようだ。その成果は、遺憾なく発揮されたわけだ。


「さすがだな。――ただ、相手がわかっていて準備が出来るのはここまでだからな。こっからが本番だぜ?」

「うん……! 私の持ってる手札で何とか乗り越えてみせるよ。魔力はまだ何とか残ってるし、きっと大丈夫……!」

「まだ魔力残ってんのニーナちゃん!? 無尽蔵かよ……」


 さすがのアーサーも、ニーナのスタミナに度肝を抜かれる。

 召喚は魔力を常時消費し続けるのは周知の事実。しかも、今の試合ずっとシルフに魔術を使わせ続けていた。リムバ演習の時はここまで長時間の召喚は出来なかったはず。何かコツを掴んだか。


「はは、楽しみだな。さて、Bブロックは誰が勝ち上がるのか。そいつと当たる訳だからな」

「ちゃんと見ておかないと……!」


◇ ◇ ◇


 そして、試合は着々と進んでいった。


 Bブロックは前評判通り、リオ・ファダラス――重力姫がうちのクラスの天才肌魔術師であるモニカを破り本選へ進出を果たした。


 まだ全力を見せていないであろう余裕な勝ち上がりだった。


 ピンクの髪を振り乱し、不気味な笑みを浮かべながら圧倒的な力を見せつけた。まるでバーサーカー。


 そりゃ一般的な生徒から見ればキマイラを倒した俺と同格に見ても無理はないだろうという戦いっぷりだった。重力魔術を前に、ほとんどの生徒が成すすべなく降参していった。本選ではあれを本気で使ってくるとなると、かなり厄介な魔術ではありそうだ。


 そしてCブロック。勝ち上がったのはルーファウスだ。

 さすが氷魔術の名家というだけある。俺と戦った時よりも魔力に繊細さが加わったように見える。前は傲慢な態度と同様に魔術も才能にかまけた大味な印象だったが、大分考えながら戦っているようだった。まあ、順当だろう。


 Dブロックは、レオの口から名前の出ていた強化魔術を使う男、ムスタング・オーデュオンを破り、水魔術を使うキングという男が勝ち上がった。


 続いてEブロック。


「私がこんなところで負けるわけないでしょ。ま、見てなさいよ。A級冒険者の力見せてあげるから。ノア、あんたを倒すのは私よ」


 そう言い、意気揚々と自信満々な表情で戦いの舞台へと降り立ったクラリスは、そんな大口叩いて……それ負けフラグじゃねえか! というアーサーの軽口をものともせず、圧倒的な強さで本選出場を果たした。


 続くFブロックでは名前も聞いたことのないライセル・エンゴットという謎の男が、気付いたら一人だけポツンと立っており、誰も何が起きたかよくわからないまま本選へと勝ち進んだ。これがダークホースというやつだろう。レオも、興奮気味に何が起こったかわからなかった……! と目を輝かせていた。


 ――そして、とうとう残り二ブロック。


 俺のHブロックと、その前のGブロック。


 Gブロックのメンバーは……。


「き、来ちまったぜ……おいおいおいおいおい!!」


 アーサーは緊張した面持ちで目をカッと見開いている。


 まあ、無理もない。

 アーサーと同じブロックには、うちのクラスでも上位の活躍を誇るヒューイとレオが居るのだから。


 特にレオは俺から見ても良い魔剣士だ。それに、向上心も野心もある。一筋縄じゃいかないだろう。


「落ち着けよ、アーサー。予選で当たった方が有利だとか言ってたのはどこのどいつだよ」

「お、俺だけどよ……なんかあれお前に乗せられて言っちゃったような気がするんだが!?」

「んなことねえよ」


 ないことはないが。


「確かに二人とも強敵だけどな。ただ、他のメンバーはパッとみじゃあ名前の聞いたことがある奴はいねえし……まあさっきみたいにダークホースで勝ち上がってくる奴もいるかもしれないけどわ」

「うぅ……」

「まあがんばれよ。それがお前になるかもしれねえんだぜ? 別に俺はアーサーだって弱いとは思ってねえ」

「ノアぁ……。もちろんノアは俺を応援してくれるよな!?」

「当然だろ。俺は本選でお前とも戦ってみたいぜ? 勝ち残れば俺とだからな」

「!」


 その言葉に、アーサーの目つきが変わる。


「そういやそうだったな。ここで勝てば本選一回戦はノアとだ……! 今ので腹くくったぜ……待ってろノア! お前は絶対本選に行くだろう。だったら!! 親友の俺が行かなくてどうするって言うんだ!!」


 アーサーはバチンと自分の頬を叩く。

 少し赤くなった頬で、アーサーはいつものようにニカっと笑う。


「見とけよノア! それにニーナちゃんもクラリスちゃんも! 俺も続いてやるからな!!」

「がんばって、アーサー君!」

「せいぜいがんばんなさい。Aクラスからもう私とニーナが勝ち進んでるし、ノアも絶対勝ち進む。ここまで来たら本選の半分をAクラスで埋めるわよ」


 そう言い、クラリスはニヤリと笑う。


「おう……! 行ってくるぜ!」


 アーサーは、ローブを颯爽と翻し、しっかりとした足取りで闘技場へと向かっていった。 

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