第64話 決意表明
「へへ、楽しくなってきたな」
少しして、授業へと向かう道中にアーサーは頭の後ろで腕を組みながら笑みを浮かべる。
「何がだよ」
「歓迎祭に決まってるだろ!! 新入生の最強を決めるに相応しいバチバチ感が出てきたと思わねえか!?」
アーサーはニィっと笑みを浮かべる。
「皇女救出の真偽は分からねえけどあのレーデとかいう胡散臭いやろうもノアを目の敵にしてるみたいだし、ルーファウスの奴もきっとノアに死に物狂いで勝ちに来るだろ? これぞ戦いって感じにバチバチしてるじゃねえか! それにうちのクラスにもレオみたいな強者は何人かいるし。なんだかワクワクしてくるだろ?」
「確かにな。少なくとも、歓迎なんていう生ぬるい感じではなさそうだよな」
「だろ!? その中で俺の実力を試せるとか…………なんかこう、うおおお! って燃えてくるよな!?」
「はは、ここ最近アーサーはあんま良いところなかったしな。取り返すにはいいチャンスかもしれないな」
「なっ!?」
アーサーは図星をつかれたと苦い顔をして身体を強張らせる。
「あは、言えてるわね」
「おいおいおい、聞き捨てならねえな!」
「だってそうじゃない。授業でも今の所そんなに目立ってないし、リムバの演習ではそこの男に良いところ全部持っていかれたし」
「お、俺だってなあ……!」
「はは、残念ながらその通りだろアーサー」
「ぐぬ……」
アーサーは悔しそうに顔を歪ませる。
「まあでも、俺はまだお前がその程度の男だと思っちゃいないぜ」
「そ、その通りだぜ!! いいか、俺はこの学院のトップにならなきゃいけねえんだ! 確かに少し出遅れちまったが……ここからは俺の名前が轟くことになるぜ!」
「本気でいってるのあんた?」
「当然よ! 俺の家を復興させなきゃいけねえんだ、こんなところでモブとして消えるつもりはねえ! キマイラを倒しただとか、皇女様助けただとか、確かにすげえけどよ、歓迎祭での優勝するチャンスは平等だ! 俺はお前たちにも負けねえぜ!?」
いつも以上にやる気を見せるアーサー。
やはり、少しは気にしているようだ。入学式のとき、アーサーは俺に共にトップを目指そうと語り掛けてきた。その割にめぼしい活躍は出来ていない。ここらへんで気合を入れなおすという意味合いもあるんだろう。
「言うじゃない。見せて貰おうかしら、あんたの力をさ。このA級冒険者である私を倒せるのかね」
「も、もちろんだぜ! クラリスちゃんにだって負けねえからな!」
それに対し、クラリスは余裕の笑みで返す。
「楽しみね。ぬるま湯に使ってきた貴族や名家連中が、私やノアみたいな本物についてこられるか見ものね」
「……いや、クラリスちゃんは冒険者だからまだわかるけどよ、ノアもなのか?」
「あっ……いや、そのなんというか……」
こいつ、ヴァンの弟子だからって自分と同じ括りにしてやがったな。ぼろ出しやがって……。
「ノ、ノアも私が認めるだけの実力があるってことよ!! それ以上でも以下でもないわ!」
「そ、そうか……まあノアの実力は俺だって認めてるさ」
なんか納得したな。深く考えない奴でよかった。
「――だが、今回ばかりは俺も本気だ! 見てろよ、ぜってええ結果残してやる!!」
「楽しみにしてるぜ、奥の手も残ってるしな」
「なによそれ」
「へへ、まあ見てなって」
アーサーは上機嫌でクラリスに対してにまーっとした笑みを見せる。
クラリスは呆れた顔で俺の方を向く。
「……むかつくんですけど、この人」
「そう言ってやるなよ」
実際、アーサーがどれほど戦えるのかは俺もまだよくわかっていない。奥の手も気になるところだ。
――と、俺は少し後ろで浮かなそうな顔をしているニーナが目に入る。
この手の話に交じることは確かに稀なタイプではあるが、それにしては普段よりその表情は曇っている。
俺は少し歩く速度を落とし、ニーナの横へと移動する。
「どうした、暗い顔してるな」
「えっ、そう!? ごめんね、そんなつもりなかったんだけど」
そう言って、ニーナはあははっと笑う。
「……遠慮する必要はないぜ? どうせ優勝は俺で決まってるんだ、何か歓迎祭で気になることがあるなら言ってみろよ。変に俺に気を使う必要はない」
まあ大体の予想はつくが……。そもそもニーナの入学は公爵家からすればイレギュラーだ。家族関連なのはまちがいないだろう。ニーナのことだ、変に俺達が同情してしまう心配もあるんだろうが、残念ながら俺はそんな理由で自分の強さを曲げる気はない。
「さすがノア君だね。……でも別にそんな大したことじゃないんだよ。ただ……」
「ただ?」
「前に言ったでしょ、私お姉ちゃんがいるんだけど」
「言ってたなそんなこと」
確か何かと姉さんと比べられるだとか、早くお姉ちゃんに追いつかないとだとか言ってたか。余計な問題に首を突っ込むのが面倒だったから敢えて触れてはこなかったが、ニーナから話をしたいのなら話は別だ。聞かない理由もない。
「簡単に言えば二人いてね。上の姉さんと下のお姉ちゃん。……歓迎祭では二人とも来るだろうし……それに、無理言って飛び出してきた私を見にお母さんたちもくるだろうし。最近アーサー君じゃないけど私も活躍出来ているとは思えないからさ」
なるほど、姉たちに対する劣等感と、無理言った親へのプレッシャーか。
「そんな他人の評価なんて気にする必要ねえよ」
「え?」
「まあ他人つっても身内だけどよ。ニーナだって生半可な覚悟で入学してきたわけじゃねえだろ」
「も、もちろんそうだよ!」
「はは、だったら気にすんなよ。俺はニーナの召喚術は認めてるんだぜ? 最強の俺が認めてるんだ、堂々としてれば結果はついてくるさ」
「ノア君……」
ニーナはうるうるとした瞳で俺を見上げる。
少しポカンとした顔だ。まさか俺がそう評価しているとは思っていなかったんだろう。
実際召喚術というのはそれだけ希少なのだ。入学してからの授業を見ていても、やはりニーナは他の生徒より頭一つ抜けて魔術のセンスがあるようにも見える。姉たちが余程出来る魔術師なんだろうか。
「ま、実際戦うのはニーナだし俺にはこれ以上よく知らないニーナの家族のことはハッキリと言えねえけどな」
「……ううん、ありがとう。少し気が楽になったよ!」
「なら良かった」
「うん! さすがノア君だね。……よし、私も頑張るよ!」
ニーナは決意を新たにグッと拳を握る。
その表情は少し明るさを取り戻していた。
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