第63話 不本意
レーデか……功績を語るのは自由だが、実際それに見合うだけの実力があるのかどうか……。あるんだったら、それはそれで面白そうだがな。
一応周りの連中の口ぶりからするとそこそこやるようだが、実際魔術を使うところを見てみないと分からないな。
ただ、長年モンスターと戦いを繰り広げてきた俺がみた限りでは、奴には強者特有の覇気は感じられない。それこそ、まだルーファウスの方がマシだ。それはドマの奴も感じ取っていたみたいだが……。
と、俺がレーデの事をなんとなく考えるていると、当の本人が俺の方へと近づいてくる。そして、ぴたりと俺たちのテーブルの前で立ち止まる。それを追うように、レーデの取り巻き達もぞろぞろと、まるでレーデの信徒のようにぴったりとくっ付いてくる。
「やあ、君がノア?」
「なんかようか?」
やれやれ、承認欲求の塊か?
自分より目立つ奴が許せないみたいだ。いい性格してるぜ。
「ちょっとドマさんとの会話を聞いてね。君は僕のこと知っているかい?」
「はは、あの皇女様を助けた英雄さんだろ? あれだけ輪になってギャーギャー騒いでれば嫌でも耳に入るさ」
俺の嫌味に、一瞬レーデはぴくっとこめかみをピクつかせるが、すぐにいつもの胡散臭い笑顔に戻る。
「……知ってもらえてるとは光栄だな。君もドマさんから目をかけられているみたいだね」
も……? 軽くあしらわれておいてその図太さはさすがだな。ま、でなきゃ他人の手柄を横取りしようなんて豪胆なことは出来ねえか。良くも悪くも肝が座ってやがる。
「あんまりお前は相手にされてなかったみたいだけどな」
「は……はは、ドマ先輩は厳しい方だからね。愛の鞭ということだろうね」
「さあ、どうだかな。あの人にそんな器用な真似出来そうにねえけどな。――まあ、俺はまだあんたほどの者じゃないさ。俺はただキマイラを倒しただけだ。あんたの皇女様救出の方がよっぽど評価されるだろ」
俺は半ば投げやりにレーデを持ち上げる。
「何をいうんだ、ノア。比較することに意味はないよ。お互い誰かの為に行動した結果じゃないか!」
レーデは気持ちよさそうに語る。
と、そこでニーナがバッと立ち上がろうとする。
――が、俺はそっとニーナの腕を握り、押さえつける。
その行動に、ニーナは不満の表情を見せる。
どうせ、俺が本当は助けたとか言うつもりだろうが、俺は公表するつもりはねえ。
「ちょっと、いいのノア君!」
「いいって。放っておけよ」
「でも……」
「そもそも、ニーナにもあれは俺じゃねえって言ってるだろ?」
「でもフレンさんだって、ノア君が可能性高いって」
「いつの間にそんな信頼する仲に……」
しかし、ニーナはブンブンと両手を振る。
「ち、違うよ! 昨日の話! 別にあんな人と仲よくなってないし!」
ニーナはフンと少し怒ったように頬を膨らませる。
「あー、悪かったよ」
「おい、聞いてるのか?」
完全に蚊帳の外にされたレーデはしびれを切らし話に割って入る。
「あぁ、何だっけ? 悪い聞いてなかった」
「…………だから、君と僕で比較する必要はないと――」
「あぁ、はいはい。俺も元からそんなつもりねえよ。好きにしたらいいだろ? 別に俺はお前に絡むつもりなんかねえから安心しろよ」
「は……?」
「はっきり言うけどよ、どうせ俺がドマの野郎にちょっかい掛けられてて気に食わなかったんだろ?」
「だから、僕は――」
俺は少し鼻で笑いながら続ける。
「お前が今日の主役だもんな、あんな軽くあしらわれたらムカつくのもわかるさ。だが、俺はあんな暑苦しい奴は魔術で戦う以外にはあんま関わりたくないんだよ。ドマには俺から構ってもらいに行ってるんじゃないんだ、悪いがどうにもできないぞ」
俺の発言に、レーデの顔がみるみる赤くなっていく。
おっとしまった、ついいつもの癖で煽ってしまった。
「ノア……アクライト……!」
「おいおい、英雄さんが何熱くなってんだよ、落ち着けよ。認めてるって言っただろ? キマイラなんて大したことないさ。さすがだよ、レーデ」
まったく。嘘で塗り固めた功績の癖にプライドは一人前。だが敢えて謙虚に振る舞う当たり、傲慢だったルーファウスより数段たちが悪いな。とうか、めんどくせえ奴だ。
「……ま、まあ僕だって君がどうだろうと気にしないさ。この学年で一番評価されているのはどうやら僕みたいだね。別に本意ではないんだが……男爵なんかの僕がこんなに注目されるなんて、何だか恥ずかしいよ」
「へえ、目立ちたがり野郎かと思ってたけど違うのか」
「……君、僕を何だと思ってるんだ?」
「さあな」
「…………まあいいよ。歓迎祭での楽しみも増えた。君と戦うのも楽しみにしてるよ。皇女様の前だ、カッコいいところを見せないとな」
その言葉に、レーデの周りの生徒たちが興奮気味に声を上げる。
「おいおい、レーデが歓迎祭で見せてくれるらしいぞ!!」
「すごい、とうとう本気が見れるのね!」
「皇女様もくるんだ、こりゃ凄いことになるぞ……!」
「この無礼な平民もレーデがやってくれるさ!」
レーデの打倒俺宣言に、周りは熱気を帯びる。
どうやら、俺が今度は悪者のようだ。
「ちょっと、あなた達ノア君は別に……!」
「なかなか無礼ね、こいつら」
と、不快感を表す二人とは対照的に、俺はニヤリと頬を緩ます。
いいね、どうせなら本気で向かってくる相手を倒して俺が最強だと認めさせた方がいいに決まっている。
俺は立ち上がると、レーデの前に躍り出る。
「はっ、いいねえ。別に実績何てどうだっていいじゃねえか」
「何?」
「皇女を救ったとか、キマイラを倒したとか、そんなもん成績に何も関係ねえ。正々堂々、自分が最強だと認めさせるのは歓迎祭での優勝、それのみだ」
「お、ノアいいこと言うじゃねえか!」
「確かにその通りね。わたしだってその場に居合わせればそれくらい出来た訳だし」
アーサーもクラリスも俺の言葉に乗る。
「うだうだ言ってないだ掛かって来いよ。歓迎祭で見せつけてやるさ」
「…………!」
「俺が最強の魔術師だってな」
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