第62話 注目
「レーデがそんなにできる奴とはねえ。たしかに強いとは思ってたけど」
「はは、そんなでもないよ」
「あのキマイラを倒したとかいうAクラスのノアなんとかとか、公爵令嬢なんて目じゃないんじゃない? 後ほら、あの偉そうなルーファウスとか……」
目を輝かせる、もはやレーデの信徒たちは俺たちの名前を引き合いにだす。
しかし、レーデはあくまで謙遜するような素振りで肩を竦める。
「わからないけど…………でも確かに、あの皇女様を助けた時に比べればそんな大したことないとは思うよ。やってみないとわからないけどね」
「さっすが……! じゃあ皇女様がくる歓迎祭もレーデが余裕で勝ちか……!」
「皇女様の前で優勝なんてかっこ良すぎるよ! そこで正体明かそうよ!」
「おいおい、そんなことしたらパニックになるだろう?」
「また謙遜してー。あーあ、レーデが何か遠くに行っちゃった気がするな」
そう言って、レーデの周りは皇女を救ったことと、歓迎祭で優勝するだろうというお目出度い話で大盛り上がりだった。
それはBクラスだけではなく、他のクラスも巻き込んでの大盛り上がり。流石に皇女ともなれば、上級生も聞き耳を立てている。今回の件で、レーデの名前は一躍有名になったと言っても過言ではないだろう。
所詮、空っぽの名声だけどな。
とその時、食堂の入口が巨大な音を立てて勢いよく開かれる。
「噂を確かめに来たぞ、新入生ええええ!!」
その余りの声の大きさに、食堂に居る全生徒が一瞬静まり返り、そちらの方を振り返る。
このどこかで聞いた大声と勢いは……。
「ドマ……か」
と、次々と周りの人間も声を上げる。
「ドマ先輩……!」
「ベンジャミン・ドマ先輩だ……」
「まさか、レーデを見に?」
「上級生もレーデが気になってるんだ!」
ドマの登場に、一気に騒めき出す。
ドマはニヤニヤしながらゆっくりと輪の方――レーデ達の方へと歩いていく。
その巨体に、自然と道が開かれていく。
そして、レーデの前で立ち止まると、顎のあたりをすりすりとしながら、片眉を上げる。
「お前が、皇女を救ったとか言う男か?」
レーデは嬉しさを隠せないながらも、何とか顔を繕い笑みを浮かべ答える。
「そんな大層なことをしたつもりもありませんが……一応そうなりますね」
「ふうん……? 本当にお前がか?」
ドマの圧が強くなる。
「そ、そうですが?」
「ふむ……」
ドマはじっくりとレーデを見て、ひとりでうんうんと頷きながら何かを思考する。
と、さっきまで薄っすらと浮かんでいた笑みが消え、顔が険しくなってくる。
そしてしばらくたったところで、ガバッとからだを起き上がらせると、腰に手を当て仁王立ちで声を発する。
「――――記憶にない!!」
「は、はあ……?」
ドマの大声に、レーデはびくっと身体を震わす。
「お前のような男は俺のチャレンジタイムでまともに戦った記憶がない!!」
「な、何のことを――」
ドマはビシっとレーデを指さす。
「お前は取るに足らんと言う事だ。邪魔したな。お前らも楽にしていいぞ」
「ちょ、ちょっと! レーデはあの皇女様を救ったのよ! なんですかその言い方は!」
「知らん、興味なくした。お前らで好きに騒げ」
そう言って、ドマはズカズカと食堂を後にしようとする。
「な、何今の……」
「さあ……何かが気に食わなかったみたいだけど……」
「くっ……僕の何が駄目だって言うんだ……!」
離れていくドマに、レーデはそう口を零す。
――と、帰り際のドマが俺に気付いたのか、少し顔を明るくし、Uターンしてこちらへと向かってくる。
「おうおうおう、久しぶりだな、ノア・アクライト!! 新入生ええ!! 皇女の件はお前という噂を聞いてきたのに、なんだあいつは!」
「相変わらず暑苦しいっすね」
「がっはっは! 生意気な!」
「悪いっすけど、俺じゃないっすよ」
「そうなのか?」
ドマはじーっと俺の目を見る。
俺は、その一見考えなしに見えて、いろいろと考えているその瞳をじっと見返す。
「――わからん。お前は深すぎて判断に困る」
「何言ってるんですか」
「気にするな、こっちの話だ。まあいい。皇女を救ったのが誰だろうとな。あいつだろうがどうでもいいことだ。やっぱり、俺にはお前と戦いたいという欲の方が強いようだ。また腕を上げたか?」
ドマはにやっと笑う。
「まだそんなレベルの上がる授業はないっすよ。進級した時が楽しみだよ」
すると、ドマは身体を仰け反らせて大笑いする。
「ガッハッハ! やはり強者はそうでなくてはな! 歓迎祭、楽しみにしてるぞ! 変な小石に躓くなよ!」
そう言って、ドマは楽し気に笑いながら食堂を去っていく。
まるで嵐の後の静けさの様にシーンと食堂が静まり返り、少ししてざわざわと活気を取り戻し始める。
「かー相変わらず圧のすげえ先輩だな」
アーサーは苦手意識があるのか、顔を引きつらせてやっと声を発する。
「そうだね……でも、やっぱりドマ先輩はノア君に期待してるんだよ!
!」
ニーナは目を輝かせて俺を見る。
やっぱり私の目に狂いはないとでも言いたげだ。
「はいはい。俺からすりゃ暑苦しいだけだけどな」
まあ、対人経験を積むにはもってこいな相手ではあるだろうが……。
戦う機会はきっとあるだろう。俺も楽しみではある。
「本当、あんたって変な奴に気に入られるわね」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味よ」
「どうなってるんだ?」
「レーデを無視して、ノアと……?」
「ドマさんはノアの方を認めてるのか?」
「なんだ、ドマさん尊敬してたけどその程度か」
とざわざわと、さっきとは少し違った会話が広がる。
そして当の本人、レーデ・ヴァルドは、さっきまでの余裕ある態度はどこへやら、俺の方を睨みつけるようにして歯を食いしばっている。
「何であの野郎が……この僕より……!!」
逆恨みは勘弁してくれよ、まったく。
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