第57話 遠慮なく
「新入生九十名。歓迎祭は、名目上は新入生のお披露目会。魔術関係者やレグラス魔術学院というエリート校の関係者に、今年も最高峰の魔術師の子たちが入学したと知らしめるための物よ。もちろん、あなた達の歓迎をするという目的もちゃんとあるけどね」
歓迎祭……俺が当初から最初に暴れるならここだと決めていた催しだ。
正面から、正攻法で俺の実力を見せつけることができる。これ以上ない機会。
相手は新入生だけだが、俺のポテンシャルは見せつけることができるだろう。
「あなた達も分かっていると思うけど、ここで力を発揮することは今後の人生においても重要な役割を担うわよ。魔術関係者の目に留まれば、目をかけて貰うことだって可能だし、その場でなんらかのオファーを受けることだってあるかもしれない。過去、この歓迎祭の優勝者は皆大物になっているわ。もちろん、在学中に花開くことだってあるから、優勝できなくてもそこまで悲観する必要はないけれど、この歓迎祭が努力するきっかけになったという人も少なくないわよ。――ようは、ここで現実を知るの。今まで名家だ貴族だと囃し立てられてきた者、あるいは地元では神童だと言われて育ってきた者、すでに冒険者として実績を残してきた者……交わることのなかった才能が激突する。楽しみでしょ? 今の自分を試したいでしょ?」
少し挑発的に言って見せるエリスに、クラス中はやる気に満ちた目を見せる。
誰一人として、どうでもいいと思っている奴はいない。
――それでこそだ。全力を出してきたこいつらを倒して、シェーラとの課題の第一歩を踏み出す。対人戦、極めてやるさ。
「いいねえ、俺の求めていた闘いだぜ、先生ぇ! 怖ぇ奴は今のうちに対戦相手に言っておくんだな。俺はこの闘いで手を抜くつもりはねえ」
そう言い、ヒューイはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「いいね、ヒューイ。君とも是非全力で戦ってみたかったんだ。君も僕のリストに居る人間のうちの一人だからね」
「あぁ? くっくっ、気味悪いこと言ってんじゃねえよ、レオ。誰が相手だろうが俺が負ける訳ねえ」
「あいつ、ノアに付けて貰ったくせに調子いいこと言ってるぜ」
アーサーはケッと気に入らなそうに顔をしかめる。
「あはは……でもそんなこと言うのは良くないよアーサー君。ヒューイ君だってあれから大分まじめになったし、ノア君に恩義だって感じてるみたいなんだから」
「そ、そうだけどよ……」
「はは、まあでもあれも本心なんだろ。モンスターと人間は別だって思ってんのさ」
「そういうもんかあ?」
「事実、対人とモンスター相手とじゃ使う技術に差があるからな。それだけ自信があるのは悪いことじゃないさ。今度こそ自分の独壇場だと思ってるんだろ」
そう、相手は人間……モンスターと違い、考え、欺き、策を弄するんだ。
油断も慢心もしてはいけない。魔術は相性だってある。冷静に分析して、最短ルートで戦闘不能にする。対人戦に慣れている奴ほど、実力を覆す術に長けているのは想像に難くない。
だが……。
「――ま、優勝するのは俺に決まっているけどな」
「あはは、さすがノア君だね。そう言うと思ったよ」
「おいおい、俺を忘れてねえか? 俺だって入学式の時にトップを取ると誓った仲間だぜ?」
アーサーも自信満々に自分を指さす。
「はは、期待してるぜ」
「おうよ! 誰からも名前が出ないから拗ねてたとかじゃねえからな!?」
「わかってるって。奥の手もあるんだろ?」
「へへ、まあみてな」
「歓迎祭の交流戦は、予選と本選に分かれているわ。一日目が予選、二日目が本選。予選は11~12名での同時に行われる勝ち残り戦よ。それが全部で8ブロック。そして、それぞれのブロックの勝ち残り者が、8名で本選トーナメントを戦うの。関係者に名を売ったり、名を轟かせたかったら、何が何でも予選を勝ち抜くことね」
ということは、メインは二日目……。二日目の観客はすごいことになりそうだな。大抵の客のお目当てはこっちだろうからな。となると一日目はほとんど学院関係者だけか。
「皆既に努力はしているでしょうが、今までの成績なんて関係ないわよ。このために力を隠していた生徒だっているだろうしね。死ぬ気で頑張りなさい。私達魔術師は、魔術の力でしか己を証明できない生き物よ。一緒にがんばりましょう」
こうして、しばらく歓迎祭についての説明が続き、エリスからの話は終わった。
伝統的な行事であり、一年の中でもかなり重要なイベント。今年は観戦を希望している人が多いらしいし、かなりの大物も観戦に来ると言っているらしい。一体誰が目当てなのやら。
このクラスのことは大体わかってきた。ニーナやレオ、ヒューイ、モニカにナタリー……あと一応アーサー。少なくともこいつらはなかなか強い。
だが他のクラスについてはほとんど接する機会はなかった。おそらくこのクラスに負けず劣らずの魔術師が眠っているのだろう。
対人戦……今まで何回か戦ってきていろんな意味でその難しさは理解してきたつもりだ。いろんな魔術も見れて、実際に戦える。――これはなかなか悪くない。
何より、シェーラからの課題だ。成し遂げないとな。俺がこの学院で暴れる……つまり有名になることになんの意味があるのかはわからないが、冒険者の時と同じことだ。やるなら頂点を目指す。半端はない。
――そろそろ、遠慮なく雷帝の力を見せてやるさ。
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