第52話 再会
「……遅くなって悪かったよ」
「ふーん……」
ニーナはじとーっと目を細め、俺を横目で見つめる。
「……いろいろあったんだよ」
「へえ、何があったの?」
「それは言えねえけど」
さすがに皇女様を助けてたなんて言える訳ねえよなあ。完全にお忍びだし、ニーナのことは信頼してるが、ここで漏らせばいつどこで誰が聞いてるか分かったもんじゃない。リスクは極力避ける。下手にアイリス達に迷惑かけたくねえからな。
俺はアイリスたちと別れた後、急いで噴水広場へと走った。
そこには、座って今と同じ目でじーっと俺の方を見るニーナが居たのだった。
具体的な時間を決めていた訳ではないが、爺さんに報告をしに行く程度だったから、それほど時間が掛かる訳でもなかったはず。かなり待たせたのは言うまでもない。
アイリスの一大事だったとはいえ、さすがにニーナとの約束をほっぽってアイリスのエスコートをしたのはまずかったか……一言言っておけばよかったが、そんなこと経験ねえし……頭回らなかったな。
そして合流した俺たちはとりあえず祭りの方へと戻ってきたはいいが、相変わらずのこの態度と言いう訳である。
「言えないんだ、私にも」
ニーナは少し拗ねた様子で頬を膨らませ、口を尖らせる。
「悪い」
「ふーん。私に観光案内してもらうより大事な用だったんだ」
そう言い、ニーナはぷいとそっぽを向く。
「いや、そう言う訳じゃ……。あーなんつうか、それとこれとは別というか……。もちろんニーナの王都案内もすげー楽しみにしてたし楽しんでたぜ? ただ、あれは俺がやらなきゃいけねえことだった。それだけだ」
俺ははっきりとそう言い切る。
仕方ない。もしこれでニーナに嫌われたとしても、あきらめるしかないな。
悪いのは俺だ。
――と、その時、ニーナがくっくっくと笑いだす。
「な、なんだよ急に」
すると、さっきまでの拗ねたような顔はぱっと消え、楽しそうに顔を明るくする。
「あはは! いやあ、ごめんね。ちょっと面倒くさい女だった?」
「いや、何というか俺が悪いというか……」
「ふふ、そんなどうしたらいいかわからないって顔のノア君なんて初めて見たよ」
「うるせえ」
「へへ、冗談冗談別に全然怒ってないよ」
「そうなのか?」
ニーナはくるっと身体を回転させると、俺の顔を覗き込んでくる。
「もちろん。ノア君は変な言い訳するタイプじゃないしね。それにノア君がどれだけ優しいかも知ってるから。理由もなくノア君が私を放っておいたりしないのはわかってるよ」
それはちょっと違う気もするが……。
「そんな信頼されるタイプか? 自分で言うのもなんだが」
「そうかな? 出会った時からノアくんはそういう人だったよ。きっとどこかでまた人助けでもしてたんでしょ? 私の時みたいにさ」
「……」
「ふふ、言わなくていいよ。反応が面白いからちょっとからかってみただけだから」
「おいおい、勘弁してくれよ」
「あはは、珍しい顔も見れたしね。これでチャラ! だからそんな気にしたような顔しないで?」
そう言い、ニーナはニコっと笑う。
さすがに微塵も怒ってないってわけじゃないだろうに。
ここはその優しさに甘えよう。
「はは、さすがニーナだな。ありがとな」
「へへ。それよりほら、残りの時間楽しもうよ! そろそろパレードはじまるよ。大道芸人の人たちが街を練り歩くんだ。ほら、人だかりがあるでしょ?」
ニーナが指をさした先には、人がびっしりと並んでいた。子供を肩車する親子や、近くの商店の店主たち。色んな人々が並んでいる。
その奥の方、大通りからは松明の光がぼうっと灯っており、それが宙を舞ったり、くるくると回転したり、縦横無尽な動きを見せている。
「ささ、見に行こう! 観光はこれで締めようと思ってたから、ちょうどよかった!」
そういってニーナは俺の腕を引っ張ると、ぐいぐいと進んでいく。
人ごみの切れ間を探し、やっと見つけるとニーナは中へと入っていく。
「見て! すごいあの人、身体柔らかい……うわ、凄い……!」
「すげえな。魔術じゃねえんだろ?」
「そう、大道芸なの! だからすごいんだよ! ほら、あの人踊り綺麗~可愛いなあ」
様々な離れ業を放ちながら、大道芸人のパレードはゆっくりと進んでいく。
火を噴き、松明のジャグリングをし、踊り子が舞い、積み重ねられたボールの上を転がる様に人が歩く。
俺たちはそのパレードを存分に楽しんだ。
割れんばかりの歓声と響く歌声。
そのパレードが徐々に離れていき、俺たちの目の前から光が消えていく。パレードの明りが消えると、既に辺りは真っ暗だったことに気付く。
それは、同時にこの王都の案内も終わりが近づいていることを示していた。なんだか今日は本当に濃い一日だった。誰にも言うことのないであろう、隣国の皇女との異文化交流。彼女は歓迎際に来るんだろうか。
そしてニーナに案内してもらった王都。
途中から分かれちまったが、楽しかった。
冒険者の頃は任務から任務へ、シェーラの課題をこなすためにひたすらに戦ってきた。こんな楽しむだけの(まあレジスタンスと一戦交えはしたけど)日なんてほとんどなかった。それも同い年の奴と。これもシェーラの狙いなのか?
――まあこんな一日がたまにあってもいいかな。そう思える一日だった。
「ねえ、今日はどうだった?」
「まあ楽しかったよ。ありがとな」
「ふふ、良かった。また来ようね。次はもっとディープな王都を案内してあげるよ」
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