第50話 蹂躙

「じっくり時間をかけてなぶってやれ!!」

「はっ、悪いなタイムリミットがあるんだ。そんな長くは付き合えねえ。手加減なしでさっさと終わらせてもらうぞ」

「調子に乗るなよ……!!」


 俺の身体を、電撃が包む。

 雷魔術、発動――"フラッシュ"。

 身体能力が強化され、一気に加速する。


 まずは雑魚を殲滅して数を減らす……!


 男たちの間を次々と通り抜け、至近距離からの電撃を食らわせていく。


「う、うわあああああああ!!!」

「ちっ……どこだあ!!! 見えねえ!!」


 間を縫うように動き、次々と男達を気絶させていく。意識していたら防げるレベルのスパークでも、見えない角度からの攻撃には耐えられまい。


「ちっ……武器振り回せ!! 見えねえなら向こうからぶつかってもらうま――」

 

 男が喋り終わる前に、俺の電撃が意識を刈り取る。


「くっそ、どうなってやがる!! 雷魔術か!? てめぇ……くそがあああああ!!」


 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。

 数的不利を、機動力と最小限の魔術で切り抜ける。この程度、ゴブリンの群れを1人で壊滅させた時に比べれば温すぎる。


 さあ、さっさと終わらせよう。


 

 数分後――。

 なぎ倒された木々と、焼け焦げ黒く染まった地面。


 俺の目の前で最後まで立っていた赤髪の男は、最後の力を振り絞り喉を鳴らす。


「ばか……な……――」


 そう言い終えると、前のめりに倒れこむ。

 倒れた向こう側には、多くの気絶した人間が積み重なるように倒れている。皆一様に煙を上げ、痺れている。


 申し訳なくなるほどの、一方的な蹂躙。

 その屍の前に平然と佇む俺は傍から見たら魔王そのものだな。


 久しぶりの一対多の戦い。思ってたほどの歯応えは無かったかな。まぁ、No.3の男があのレベルだったことからも分かってたことだけど。


 とりあえずこれで"赤い翼"は壊滅――――と言う程甘くもないだろうな。リーダーってのも、この作戦のリーダーってとこだろう。全員でこの国に特攻しにくるバカな訳がない。といっても、幹部級には違いないだろうが、きっと本隊は帝国のはずだ。


 まあ、この国にいる"赤い翼"を壊滅出来ただけでも十分だな。最低限アイリスとの約束は守れた。


 それにしても……。


 モンスターとの戦いとは違い、殺してはならないという制約がどれだけ繊細な技術がいるかというのを、改めて痛感した。勢いあまって殺してしまっては元も子もない。あまり上位の魔術をボコスカ使う訳にはいかないなこれは。やっぱ相手の力量を見て使い分けていくしかねえか……。歓迎祭で一歩間違おうものなら総バッシングは目に見えてるぜ。


 演習の時の"黒雷くろいかづち"はモンスターだったからこそ出せた魔術だ。人間相手には精々サンダー止まりか……いや、でも工夫すればもっと……。



 それからほどなくして、ガシャガシャと金属の擦れる音を響かせた集団が近づいてくるのを感じ取る。


 事前に通報しておいた騎士達のお出ましだ。

 さっさとずらかることにするか。他国の問題に首を突っ込むと余計なことがないってシェーラが昔いってたしな。俺の制服を見られちゃいるが……俺が誰かまではわからないだろう。


 俺はそう判断すると、騎士達に見つからないようにさっさと森を後にした。


 こうして、俺は気まぐれで立ち寄った路地で助けた皇女の依頼を達成するため、隣国である帝国に反旗を翻すレジスタンス集団"赤の翼"の一部を壊滅させたのだった。


◇ ◇ ◇


「何かアクセサリー欲しいなあ」

「あれとかいいんじゃねえか」


 俺は出店に並ぶ少し安物の指をを指さす。

 特にどうということもなかったが、透明感のあるアイリスに似合うと思った。


 すると、アイリスはしゃがみ込み、その指輪をもう傾いている太陽にかざすと、目を輝かせる。


「ふーん……これがいいの?」

「似合いそうだけどな」

「そ、そう?」


 アイリスは俺を見上げるように首をかしげる。

 垂れる髪を耳にかけ、フードの隙間からこちらをちらと見る。


「でもまあ、ずいぶん庶民的なもんだけどな。アイリスならもっとまともなもん買えるだろ。皇女様はもっと高価なもので身を固めた方がいいんじゃねえか?」

「ちょ、皇女って言わないでよ!」


 すると、アイリスはツンツンと俺の脇腹を小突く。


「悪い悪い。……で、いいのかよそんなので」

「うん……これがいい」


 そう言ってアイリスは少し嬉しそうにその指輪をはめると手のひらを広げうっとりと眺める。


 ま、気に入ったんならいいか。


 "赤い翼"を討伐後、俺はさっさと森を抜け出し、アイリスとエルを迎えに行った。

 さすがに陽が落ちる前に戻らなきゃいけないようだったが、エルが上手くやってくれたらしく、今なら抜け出したのがバレないらしい。


「ねえ、ノア」

「どうした」

「わ、私の……」


 アイリスは言いにくそうにそこで言葉を区切ると、もじもじとし始める。


「私の?」


 アイリスは意を決したように顔を上げると、ビシっと俺を指さし言う。


「私の騎士になりなさい!」

「……どういうこと?」

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