第49話 拠点襲撃

 激しい雷鳴と、木々の揺れる音。

 その衝撃に、その場にいた全員が一斉に声を上げる。


「雷鳴……?」

「おいおいおい……何だ今の雷は!?」

「違う……魔術だ……――誰だ?」


 立ち昇る煙越しに、大量の人影が揺らいでいるのが見える。


 珍しい。ぴったり着地出来たみたいだ。探す手間が省けて助かる。


 煙が消えると、そこには十数人の男たちがこちらを見つめていた。まさに虚を突かれたと言った様子で、陣形もあったものではない。


「えーっと、あんたらが"赤い翼"?」

「……なんだこのガキ、急に現れやがって。どんな魔術だ?」

「俺たちが"赤い翼"だったらどうだってんだ」


 さすがレジスタンスというべきか、油断はあまりない。警戒心が強いな。


「ようは"赤い翼"な訳ね。皇女様ならもうお前らには手出しできねえぜ」

「皇女だと……?」


 集団は僅かにざわつきだす。


「――イディオラさんとヌエラスが向かってる、そんな訳があるか!」

「あー、あの二人なら路地裏でのされてるぜ」

「「なっ!?」」


 さっきよりも大きくどよどよとした声が漏れる。

 そりゃいきなり目の前に現れてもう手出しできないと言われれば何が何だかって感じだよな。当然の反応だ。


「そいつらは今頃騎士に捕まって尋問でもされてるかもしれねえな。悪いな」

「おいおい、ガキが。正気か? その服……レグラスの学生か。ホラ吹いて何が狙いだ?」

「イディオラさんは俺達のNo.3だぞ! 誰にやられるってんだ!」

「俺だけど」


 瞬間、ぽかーんと場が白けると、少しして赤い翼は一斉に笑いだす。


「だっはっはっは!! 冗談が上手いぜ!」

「なるほど、さては入団希望者か!? 手土産に皇女様持ってきてくれりゃあ一発だってのによ」


 張り詰めていた空気が一気に崩壊し、場がなごみだす。

 どうやら余程想定していない事態のようだ。思った通り、あれでNo.3という程度の組織か。


「はは、思ったよりウケたようでなによりだ。――でも、事実だぜ? ちなみに、ここにいる奴も全員同じ運命を辿ってもらう。既にここの場所は騎士団には通報した。俺がお前らを倒した頃には追いつくだろ」

「……さすがにそれ以上は侮辱と取るぜ、小僧」

「随分と舐められてるみたいだな」


 なごんでいた空気が、もう一度ピリつき始める。


「どけお前ら…………冗談にしちゃ笑えねえな」


 そう言い、人ごみを掻き分け前に出てきたのは金髪の大男だった。

 周りのメンバー達が場所を空けるあたり幹部といったところか。


 男は冷静な面持ちで口を開く。


「……イディオラは俺に次いでNo.3を務める偉大な男だ。疾風の名は伊達ではない」

「疾風? あぁ、疾風の如く速攻で俺にやられてたぜ? 序列考え直した方がいいんじゃねえか?」


 しかし俺の挑発には乗らず、大男は続ける。


「確かにあいつらからの定時連絡はない…………冗談だとしても、本当だとしても、その言葉は万死に値するぞ」


 大男は、上半身の服を脱ぎ上裸で俺に歩み寄ってくる。

 肉体派か……無数の傷があるな。武器もない。肉弾戦が得意なタイプか。


「No.3より強いといいけどな」

「ふん、舐めた口をきく」

「――一旦落ち着けよ、ジッキス」


 その声は、大男のさらに後ろ、少し高い岩の上から聞こえてきた。

 長い赤髪をオールバックにした、雰囲気のある男。


「レイジさん……!」

「リーダ―!」


 リーダー……こいつが。

 男は座ったまま余裕の表情で俺に話しかける。


「やけに自信ありげだな、少年。これでもジッキスはうちのNo2だ。不満かな?」

「……あんたがリーダーか」


 リーダーの男は短くため息を吐き肩を竦める。


「――あぁ、いかにも。イディオラをやったって? やるじゃないか」

「そりゃどうも」

「で、何しに来た。わざわざ報告しに来たわけじゃないんだろ? 大層な音を立てて現れたしな」

「もちろん。このままじゃアイリスが祭りを楽しめないんでな。おたくらの組織ごと潰すことにした」


 すると、リーダーのレイジはくっくっくと笑いだす。

 それにつられ、周りのメンバーも声を出して笑う。


「ははは、俺達はレジスタンス組織"赤の翼"。そんなクソみたいな理由で、ガキ一人がどうにかできるとでも思ってんのかい? 俺たちは帝国をひっくり返す存在だぜ?」

「悪いけど、その野望はここで潰えてくれ。恨みはねえけど、アイリスの依頼なんでな」

「ほう、なるほど。皇女殿下のお雇いになった騎士という訳か」

「あーまあそうなんのかな……」


 レイジはゆっくりと立ち上がると、大男の横に並ぶ。


「あの皇女様も人を特攻させるとは趣味が悪い。それならまずこのNo.2、ジッキスを――――」


 瞬間、雷鳴が轟く。


 俺の手から放たれた雷がジッキスを直撃し、煙を上げながらドシーン! っと大きな音を響かせ仰向けに倒れる。


 誰一人、俺の雷撃の速さに反応できることはなかった。


「…………は?」


 リーダーの男は、唖然とした表情で倒れたジッキスを見る。


「おっと、スパークで十分だったか? ――まぁいいや。ハッ、まずは誰からとか面倒くさいこと言ってんなよ。全員まとめてかかってこい」

「餓鬼が……!」


 さっきまで余裕の表情を浮かべていたリーダーは、青筋を額に浮かべ叫ぶ。


「全員武器を持て!! ぶっ殺すぞ! 乗り込んできたことを後悔させてやれ!」

「「うおおおおおおお!!!!」」


 怒りに打ち震えた男達は、俺を殺さんと声高々に叫び一斉に襲いかかった。

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