第47話 尋問
「うっ……」
「目が覚めたか?」
気絶していた2人が、ほぼ同時に意識を取り戻す。
まだ意識がはっきりしていないのか、ぼーっと俺たちを見回す。
少しして、はっと顔を上げる。
「何だ貴様……――ん、身体が!?」
「縛らせてもらったぜ」
ヌエラスとイディオラは縄をほどこうともがくが、しっかりと縛りつけられ身動きが取れない。
「何の真似だ……!」
「当然の措置だろうが」
「ちっ……!」
すると、アイリスは2人に近寄ると声を張り上げる。
「あなた達の狙いは何!? 私を連れ去って何をするつもりだったの!?」
しかし、その可愛らしい声の恐喝は、イディオラ達に鼻で笑われる。
「はっ、言えねえな。……たとえここで殺されても、仲間は裏切れねえ」
「やれやれ、立派な仲間意識だな」
「うるせえ……そもそも誰だてめえ!」
ヌエラスは何も理解してない様子で俺に啖呵を切る。
「俺の方こそ誰だお前だよ、俺が来る前にアイリスに気絶させられたくせに」
「てめぇ……!!」
すると、隣のイディオラは冷静な表情でいう。
「やめろヌエラス。――くっく、何を言っても無駄だ……我々の仲間が必ず皇女、貴様を連れ帰る。外に出たが最後だったな……。俺たちから情報を聞き出そうというのなら無駄なことだ」
「ッ……!」
アイリスの悲痛に歪む顔が見える。
赤い翼……レジスタンスというからには、こいつらは国を変えたいんだろう。その為に恐らく手を血で染めてきている。何度も。
油断して外に出たアイリスを狙い、それを交渉材料に国と取引する。一国の皇女をとっ捕まえようってんだ、要求はろくなもんじゃねえだろうな。
だがアイリス曰く、帝国の王様はアイリスにそれ程情がないらしい(帝国の騎士の様子から見ても間違いないだろう)。
つまり、この先に残っている未来は、この赤い翼に捕まったアイリスには助けも来ず、彼らの要求も飲まれず、ただいいようにされて殺されて終わり……。
俺は軽くため息をつく。
ったく、嫌だねえ。そんなんばっかりかよ。国の為に公女殺そうとしたり、皇女様連れ去ろうとしたり……。権力があるところにはろくな奴が集まらねえ。
シェーラが王都を嫌いなのはそういうのもあるのかもな。
しかたない……。
「おい、ロン毛」
「誰が――――ングッ!」
俺はイディオラの顔を片手で鷲掴みにする。
ギチギチと締め上げる音が響く。
「てめえらのリーダーの場所、教えろよ」
「な、なんで貴様にそんなことを……!」
「そこに他のメンバーも全員いるんだろ? まとめて潰してやるよ」
「な、何言ってるのよあなた!? 正気!?」
アイリスが、焦って俺の肩を掴みぐいぐいと揺らす。
しかし、俺はそれを無視して続ける。
「またとない機会だろ。俺がアイリスたちを護衛して王宮まで届けたら、お前らが瞬殺されるレベルの俺からアイリスを奪うとか不可能だろ。だったら、全員で俺を倒してアイリスを奪った方が楽じゃねえか? あんたらにとってもいい条件だろ?」
「…………」
ヌエラスとイディオラの二人は顔を見合わせる。
少しして、イディオラはかぶりを振る。
「……い、いや、教えることは出来ん。お前がそこに行く保証もない。そのまま騎士にでもリークされれば"赤い翼"は一網打尽だ。……無論、騎士ごときに遅れをとる俺達ではないが」
「No.3がこのざまで何言ってんだか。赤い翼の底は見えてんだよ」
「一言余計な野郎だな……!」
とは言ったものの……埒が明かねえな。
こいつらが素直に吐いてくれれば楽なんだが……このまま衛兵たちに突き出してもその隙に組織は行方くらませるだろうし……。それじゃあ結局時期を改めてアイリスが狙われかねねえ。
帝国に味方のいないアイリスには酷だ。
すると、アイリスが焦った様子で叫ぶ。
「さっきから何を言ってるのよあなた!! 助けてくれたのは嬉しいけど、わざわざ相手のリーダー……ううん、それどころか全員相手しようなんて!! 無茶にも程があるわよ!」
「落ち着けよアイリス。折角この国に来たんだ、このお祭り騒ぎを楽しみたくて外に出てきたんだろ?」
「そ、そうだけど……」
「だったら、好き勝手遊ぶためにも邪魔だろ、"赤い翼"」
「そんな簡単に……あ、あなたならできるって言うの!?」
「俺は最強だからな」
「…………」
アイリスの呆れたような視線が突き刺さる。
だが、ちょっとこりゃ厳しいかな。こいつらもさすがに国を相手にするだけある。きっと口八丁で聞き出せるほど甘くはねえだろ。
と、不意にアイリスの隣の女が俺に寄る。
「先ほどの話本当ですか?」
「あんたは……」
「アイリス様の侍女、エル・ウェイレーです。アイリス様にこの国での平和な日常をプレゼントしてくれるというのですか?」
「まあな。俺のさっきの戦い見てくれればわかると思うけどな」
すると、エルは少し思案したのち、うんと頷く。
「――わかりました、あなたに賭けてみましょう」
「何か策があるのか?」
「私もただの侍女ではないという事です」
エルは服の内側から札を取り出す。
それぞれの札には魔法陣が刻まれている。魔術を封印した簡易スクロールだ。
「仕事柄、アイリス様に近づく賊と話す機会は多いのです。勿論戦闘能力自体は私にはありませんが……」
エルはゆっくりとヌエラスの方に近づき、スクロールを一枚かざす。
「"開放"」
瞬間、真っ赤な炎がスクロールから吹き上がり、ヌエラスの身体を包む。
「うおおあああああああ!!!」
死なない程度の火力。焼ける苦しさに、ヌエラスの叫び声が上がる。
威力は低いが、正当な炎魔術だ。
ヌエラスはぜえぜえと息を切らし、苦しそうに叫ぶ。
「い……いきなり、何しやがる!!」
「これからあなたの身体に、あなた方の拠点を聞きます。そちらの方は信念がありそうですが、貴方ならすぐ根を上げてくれそうです」
「なっ――」
「スクロールはまだまだあります。耐えられますかね?」
エルは手に持ったスクロールを広げて見せる。
「て、てめええええ!!!」
「エル!?」
俺は駆け寄ろうとするアイリスの顔を手でバッと覆うと距離を離す。
「あんま見ねえほうがいいぞ、汚れ仕事だ」
「……!」
「さあ、"赤い翼"の拠点は?」
「ぐおおおおああああああ!!!」
エルの手元から、熱したガラスのようなものがどろっとたれ、それに触れるとヌエラスは叫び声をあげる。
「さあ……早く白状することをお勧めします。魔術はてんでダメな私です。この魔術の威力がどれほどか理解していないので……うっかり殺すハメになってしまうかも知れません」
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