第40話 誘い
夜、寮の休憩室で俺たちは集まり雑談を繰り広げていた。
「でよ、とにかく美少女なのよ!!」
興奮気味にアーサーは俺に熱弁する。
どうやらとある女のことでアーサーは盛り上がっているようだった。どこで聞きかじったか、アーサーはよく知らない情報を仕入れてくる。ある意味情報通というべきなんだろうが……実際まともな情報が俺にもたらされたことは無い。残念ながら。
「はいはい、あんたはどうせどの女にもそう言ってるんでしょ」
クラリスは冷めためでヒラヒラと手を仰ぎ、アーサーを適当にいなす。
ニーナと同じ部屋のクラリスも、いつの間にか俺達と一緒に行動するようになった。意外と律儀というか、二人の前では俺がヴァンの弟子(実際はヴァン本人だが)ということは隠してくれているようだった。
「えー、アーサー君はそんなことないと思うけど?」
ニーナがきょとんと純粋な目でクラリスを見る。
「何言ってるのよニーナ……あんたは純真すぎ。こいつのあんたを見る目、なかなかやばいわよ」
「え……」
ニーナとアーサーの目が合う。
すると、少しニーナは嫌そうに体をくねらせる。
「んなわけねえだろうが!! やめてクラリスちゃん! ニーナちゃんをそんな風に見た事はねえ!」
「はん、どうだか……。あんたのいやらしい視線は私は良く感じてるのよ」
「いやだってお前の場合はその身体が…………」
と、そこまでいってアーサーは言い淀む。これ以上言っては余計話がややこしくなると理解したようだ。おれもそれが正解だと思う。それ以上はやばい。
しかし、いい加減本題に戻らないことに俺は嫌気がさし、話を強引に戻す。
「んで、その"
「そうそう。氷雪の女神と言えば絶世の美女として有名だろ? 雪と美の化身! その女神の名前を付けられるほどの、美少女だぜ!? しかもお淑やかで気品がある皇女様ときた! 一度でいいから見てみたいと思わねえか?」
と、アーサーは目を輝かせて言う。
「いや、そうかあ? 別に俺は特に興味ねえな」
「嘘つけよ~ノア。まったく」
そう言ってアーサーは俺の肩に腕を回す。
「紳士ぶりてえのも分かるが、男なら誰でも興味ある話題だろ!? そういう欲がないなんて絶対嘘だね」
「はあ? いやそりゃ可愛い子に興味はなくはねえが、ニーナもクラリスも普通に可愛いしそいつもどうせそんなに大差ないだろ。見慣れてるって」
と、俺の言葉に一瞬空気がシーンと静まり返る。
「……あれ?」
――俺変なこと言ったか?
俺の発言に、ニーナとクラリスは僅かに顔を赤くする。
「ななななな何言ってるのよ!!」
「そ、そうだよノア君! 言っていい冗談と悪い冗談があってね……!!」
「いや、事実を言うのは問題ねえだろ…………いやまあ嫌なら謝るけど……」
「いやその別に嫌という訳では……」
ニーナはもじもじと両頬を手で抑える。
「べ、別に……私は自分の可愛さわかってたし!? あ、あんたにそう思われてようと別にどうってことなひわよ!」
「何か噛んでるぞ」
「うるさい!」
「何なんだよいったい……。で、そいつがどうしたって?」
「いや、よくこの状況で話し戻せたなお前……逆に尊敬するぞ。……まあいいや。で、そろそろカーディスとの和平の記念日だろ? それで今年は向こうから皇帝がやって来んのよ」
そうだ、言われて思い出した。確か一昨年、俺は冒険者としての任務でこの国の王様を帝国まで護衛したことがあった。
もっともその頃はA級になりたてで、俺は遠距離から様子を見る係だったからそこまでがっつりとした護衛任務ではなかったが。あれは船に乗ったりなんだりで、結構楽しかった記憶がある。
それが今回は皇帝陛下様がこちらにいらっしゃるわけだ。騎士も冒険者も忙しそうだな。
「んで、そこにレヴェルタリアこと、アイリス様が来てるって噂よ!」
「へえ、わざわざねえ」
美少女と噂の娘を引き連れて訪問か……そのアイリスとかいう少女には同情するぜ。めんどくせえ王族の接待やら公務やらで作り笑顔を浮かべてんだろうなあ。
「でも、来ててもどうせ城から出てこねえだろ。見れねえじゃねか」
「そうだけどよ……今同じ国の上に居るんだぜ!? もしかしたら一目観れるかもしれねえじゃねえか! 男なら……男なら一度はみたい!! 絶世の美少女を!」
とアーサーは力強く拳を握る。
すると、混乱状態から復帰したクラリスが鼻で笑う。
「はん、ほんと男ってくだらない。私たちがいるんだからいいでしょ。Aクラスの美少女ツートップよ。ノアもほら……認めたことだし」
「…………はぁ。わかってねえな……」
「何がよ」
「女神様だぜ? 格が違えよ。烏滸がましいにも程がある。謝っとけよ今のうちに」
「あんたねえ……!!」
そう言ってクラリスは立ち上がり、腰に下ろした剣を引き抜く。
「ちょ、待て待て待て!!! それはおかしいだろ!!」
「うるさい!!」
「怖い! この子怖い! そういうタイプ!?」
「ムカつくのよあんたは!!」
「暴力反対! つーか剣は反則だろ!」
二人はバタバタと走りながら談話室を出て行く。
「ったく、ゆったりするってことが出来ねえ奴らだな」
俺はカップに入れた飲み物を啜る。
「ふふ、でも静かよりは楽しいよね」
「……まぁ、そこそこな」
「ねえ、その平和記念の会談の時って王都もすごいお祭り騒ぎなんだよ? 知ってた?」
「へえ、そうなのか知らなかった。俺王都に来たことなかったからな」
「そうそう。だから――」
ニーナは立ち上がるとずいずいと俺の方ににじり寄る。
「どうした?」
「王都の案内………の約束! 私にさせて!」
「はあ? 急になんだよ」
「あーほら、演習の時にさ、王都案内するって約束したじゃない? それに、いつもお世話になっているしたまにはね?」
なるほど、ニーナなりの感謝の印という訳か。
俺も王都に興味がない訳ではない。いい機会ではあるな。いろいろ欲しい物もあるしな。
「案内か……確かに最近落ち着いてきたしそろそろ周りを見てもいいか。――それじゃあ頼むかな。いいところに案内してくれよ」
すると、ニーナの顔がパーっと明るくなる。
「もちろん!」
「はは、はしゃぎすぎだろ。そういうのには慣れてんだろ? 接待とかさ」
「それとは別物だよ! ノア君は友達だからね。楽しみにしてる!」
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