第5話 レグラス魔術学院
「いやああああああ!!!!」
雷鳴と共に着陸したのは、巨大な建物――レグラス魔術学院の目の前。
周りの受験生たちは何事かと驚愕した顔でこちらを見ている。
「何だ今の……?」
「……落雷か?」
「だ、大丈夫か!? あの人たち雷直撃したみたいだけど……」
俺は腕に抱えた放心状態のニーナをそっと地面に下ろす。
ニーナはフラフラ身体を揺らし、唖然とした表情でぽけーっと眼前に聳える校舎を見上げる。
「なな……何が……ビリビリってしたと思ったら……――ってここ、レグラス!? レグラス魔術学院!?」
「間に合っただろ? これで気兼ねなく試験を受けられるな」
「そ、そうだけど……今のってまさか、転移魔術……!?」
「まあ
ニーナは理解が及ばないと言った様子で額に手を当てる。
「さ、さすがに規格外すぎて理解が及んでないんだけど……」
「まあ気にするな、俺が最強すぎるだけだ」
俺の反応に、ニーナはぽかんと呆けている。
余程俺の魔術が衝撃的だったようだ。いくら持って生まれた魔術式が強力でも、さすがに転移を可能とするものは殆どないだろう。俺のだって雷を応用した疑似的なものだし、初めて見る――いや、初めて体験したといっても何ら不思議じゃない。
「あのハル爺を一撃で倒したり、転移魔術使ったり……ノア君って一体何者なの……? 私とんでもない人に声かけちゃった……? もしかして名家の――」
「んな訳ないだろ。アクライト家なんて聞いたことあるか?」
「な、ないけど……でも、だったら余計に……」
「まあまあ。入学すりゃあここの学生になるんだ、それで十分だろ?」
「そうだけど……はあ。ノア君みたいなのがゴロゴロいると思うと今から胃が痛いよ……」
そう言ってニーナは胃の辺りを擦る。
「安心しろよ、俺レベルなんてまず居ないからよ」
「あはは……もう笑うしかない……」
「しゃきっとしろよ、合格するんだろ?」
と、俺の言葉に、呆けていたニーナの顔が徐々に生気に溢れてくる。
「――そう、そうよ! こんなことでテンパってる場合じゃないわ! 私だってとっておきがあるもん! 絶対受かってやる!」
「その意気だぜ、さあ行こうぜ。せっかく間に合ったのに遅刻しちまう」
レグラス魔術学院はかなり広大な敷地で、遠くに見える王宮と比べても遜色ないように見える(まあ近くで見りゃあ王宮の方が何倍も立派だろうが)。
歴史がかなりあるようで、建物は所々傷んでおり、それがまた雰囲気を醸し出している。
庭は綺麗に手入れされており、芝生が広がる。その奥には温室が並んでおり、中では植物が栽培されている。遠くに見えるのは何やら怪しげな塔。その手前には四角い建物が並ぶ。訓練場だろうか。
見る物すべてが初めて見る物で、俺は興味深げに辺りをキョロキョロと見回す。
ここで学ぶことになるのか……俺が満足できる相手がいるといいが。
俺達は敷地内を見て回りながら看板に書かれた案内に従い、試験会場へと進む。
周りにはブツブツと何かを呟く受験生や、不安そうに地面をぼーっと見つめている受験生、周りにガン飛ばしながら威圧する受験生など、とにかくピリついた空気が漂っていた。
すでに試験は始まってると言わんばかりだ。
そうしてしばらく歩くと、たどり着いたのはかなりの人数を収容できそうな大講堂。天井が高く、半円形に席が並んでおり、それが段々になっている。
「うわあ、人多いね……」
「毎年かなりの人数が受けるらしいからな」
「倍率毎年50倍近いらしいよ……」
「定員は何人なんだ?」
「大体90人くらいらしいわ」
「90か……」
「受験人数が多すぎるから十日間に分けて試験が行われるからね。私ノア君と同じ日程で良かったよ……」
90人……なんだ、S級冒険者より多いじゃないか。
これなら楽勝かな。
「――あ、あのあたり空いてる。座ろうか」
「おう。やれやれ、間に合ってよかったぜ」
◇ ◇ ◇
「ようこそ、レグラス魔術学院入学試験へ。私は試験監督のレイノルド。よろしく頼む」
そう言って、壇上に立つ黒髪の男は軽くお辞儀をする。
レイノルドはぐるっと俺たちを見て、ウンウンと頷く。
「君たちで四日目の受験生な訳だが……いいね、いい顔つきだ。毎年私が全日程の総監督を務めるが、我が校を受ける受験生はいい顔をしているよ。さすがエリート校と言うべきかな」
総監督……入試の総責任者か。ということは、こいつが最終的な合格不合格を決めていると言う訳だ。
「――だが、我が校に相応しくない、レベルの低い魔術師が多く受験しているのも事実。君たちはどちらかな?」
ピリついていた空気が、より一層引き締まっていくのを感じる。
挑発が上手い奴だ。
「無駄話が過ぎたな。さっさと本題へ移ろう、時間は有限だ。――試験は試験担当魔術師との模擬試合だ。君たちの鍛えてきた魔術を存分に見せて欲しい。もちろん、担当魔術師間でも多少のレベル差はあるが、どのような基準で判断するかはちゃんとしたマニュアルがあるから、安心して欲しい。劣等生が運で優等生を差し置いて合格するなんてことはあり得ない。そこは信頼してくれたまえ。もちろん、君たちがどこの貴族だろうが、どこの名家だろうが関係ない。強い者は受かり、弱い者は落ちる。それだけだ」
不敵に笑い、そう言い切るレイノルドに、会場がざわつき始める。
強い口調に動揺しているのか、あるいは貴族だから受かるだろうと高を括ってきた奴が居るのか……どちらにせよ、俺にとっては好都合。平民だと言うだけで落とされちゃ構わんからな。
「――よし、だらだらしていても時間がもったいない、てきぱき行こう。君たちの高めた集中力を途切れさせても悪いからね。それでは解散だ。各自受験票に書かれた所定の訓練場に向かい、担当魔術師の指示に従って試験を開始してくれ。……この中の殆どがもう私と会うことは無いだろう。先に言っておく。さようならだ。また会えるよう……健闘を祈っているよ」
こうして、レグラス魔術学院の入試が始まったのだった。
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