#1 Epilogue 『燈、星海町を歩く』

 あれから一週間ほど経ったある日。

 わたしを少しでも励まそうと気を遣ってくれた準さんの計らいで、今日は二人で街に出て遊ぼうということになった。

 準さんは身体の、わたしは心の傷が癒えきらないままだったけれど、それでもあの人の気遣いが嬉しかったので喜んで受けた。

 事務所を出て、準さんが戦っていた路地を抜けると商店街通りに出る。ここには老舗の個人商店も人気のチェーン店もある。商店街なんて呼び名じゃ収まらないようなところだけど、地元の人達の影響で此処はいつまでも"商店街"みたい。

 まず初めに向かったのは、学園の生徒にも人気の服屋さん。安くてデザインも良いのが揃ってる、とは悠さんの談。…悠さんの私服ってわたし、部屋着の下着にパンツみたいな際どいのしか見たことないんですけど…きっと休日はお洒落してお出掛けするんですよね。…ね?

 さて悠さんの私服事情はさておき。わたしよく考えたら着替えなんて持ってきてなかったからずっと着てる一式しか持ってないんですよね。アパートに入ってからは準さんのを借りたり、あとは悠さんがお下がりくれたりしたんですがそろそろ新しいものが欲しくなるところ。そういう面では準さんの気遣いは本当にありがたかった。言われるまで自分も忘れてたなんてそんなことは決してありません。

 セール品に出迎えられて店内に入ると、視界いっぱいに綺麗な洋服が広がった。どれもわたしの知らない服ばかりで、自然と表情が晴れるのが分かった。

「好きなの探して来いよ、最初ぐらいは全部払ってやるからさ」

 準さんはそう言って籠をひとつ取ると、「これで足りるかな」と苦笑した。

「あの…一緒に選んでくれませんか?」

「俺? 別にいいけど、女の子の服の選び方なんて…」

 其処まで言うと、一瞬だけ準さんの表情が翳った気がした。けれどすぐに続けて、

「…まあ、分かんないもんな。良いぜ、一緒に探そう」

 わたしは準さんの空いていた左手を取って、足を進めた。


「三三四〇〇円になります」

 準さんは「マジかよ」とでも言いたげな顔をしたのち、財布からお金を取り出した。わたしはパーカーの替えと上下一式に下着も合わせてかなりの数買ったのに対し、準さんはこれからの時期に備えて数着買い足しただけという。誕生日にはわたしも奮発しますね。

 わたしがあれも欲しいこれも欲しいとやっていた所為で時刻は既に正午を回っていた。適度な空腹を感じていると準さんも同じ様にお腹を空かせていた様で、「昼飯にしようぜ」と言ってくれた。

「何か行ってみたい店とかあったか?」

 行ってみたい店と言われても多すぎてわたしには何がなんだか分からなかった。チーズたっぷりのハンバーグとか、生卵の乗った牛丼とか、そういうのはまだ想像がついたらしく空腹感が増した。ただわたしが本気で訳が分からなかったのは、丸いパンに肉や野菜を挟んだあのハンバーガー?という食べ物だった。

「あそことか…駄目ですか?」

 赤や黄色の強い、目立つ外装のお店。

 準さんは強ち意外でも無いらしく、笑って「やっぱ其処か」と連れていってくれた。

「実はさ、俺がこっちに来て初めて外食したのもあの店なんだよ。因果なもんだよな」

 事務所では隠しているのに、わたしと話している時だけ準さんは時折遠い何かを想う様な顔をする。

「さ、行こうぜ」

 今日は楽しもう。それだけ考えていればいい。


 お昼時だけあって店内は混んでいた。座れる席も無かったので注文したものを受け取ると外に出て座れる場所を探した。とは言え此処は通りの一角、早々座れるようなところも無いと思っていたら準さんが路地の隙間を指して「いい処があるんだ」と進んで行った。

 細い路地を暫く進むと、木に囲まれた小さな公園に出た。

「こんなところが…!」

 ベンチに座ってるのは数人だけで、わたしたちも余裕で座ることが出来そうだった。

「特に目立ったもんもねえけど結構気に入ってんだ、ここ」

 風に合わせて木の葉がさらさらと音を立てる。小さな噴水が中央にあるだけで遊具などは一つも無い、至ってただの広場だったけれど、人の多い処ばかりだったので一息つくには最適だった。

「準さんはよく此処に来るんですか?」

「部屋借りる前なんかは結構此処で寝泊まりもしてたからな。思い入れも少なくないぜ」

「ほ、ホームレス…!?」

「ホームレスっつーか、移住生活? 『マジックテント』なるものがあってな。普段は小型化してて、こんな風に魔法で起動すんのよ」

 準さんが手元に小さな三角錐を精製したと思ったら、次の瞬間には目の前に小さなテントが張られていた。外見は至って普通の黄色いテントで、入り口は人が一人やっと入れる程度か。

「こう見えて中すげーんだぜ、見てみろよ」

 云われるままに中を覗いてみると、其処には外側からは想像できない一部屋分の空間が広がっていた。

アパートの部屋ほどでは無いけれど、男の人が一人寝泊まりする分にはまるで問題ない広さだった。ただ、どう考えてもテントの形状と内装の釣り合いが合わない。そもそも面積がおかしいし、中の空間の形もテントと云うより普通に箱型の部屋だ。

「どうやら空間魔法の一種らしいぜ。予め設定されてるから魔力だけ与えてやると勝手に形になってくれるんだと」

「これ…何処で手に入れたんですか?」

「雑貨屋の掘り出し物市で買った。まあ…流石に暫く金欠になったが暖かい布団は大事だぜ。さて、こんなもんにして飯にしよう。あ、買ったもんはこん中入れとけよ。一緒に小型化して持ち運べるんだ」

 便利なものもあるんだ、と思いながら買った服をテントの中に仕舞い込むと、快適空間の入り口は再び小さな三角錐に戻った。

 ベンチに座り、ハンバーガーを頬張りながらわたしは訊く。

「…あの、準さんはいつこの町に来たんですか?」

「三年…そうか、三年も前になるのか。因みにその前は隣の月見市に住んでた。燈ちゃんの屋敷もあれ月見だったよな?」

「そうですね、ちょっと街中からは外れてましたけど」

「いやーテント貰うまでが地獄だったぜ…。こっち来た時丁度冬だったからマジいつ死ぬかって感じだったさ。まあ、皆の後追えると思うと死んでもいいかって考えそうになる事も実際多々あった」

「でも、こうして生きてます」

「ああ。そりゃまあ、皆の見れなかった分まで生きなきゃいけないと思うし」

 普段割とふざけてはいるけど、この人はこう言う面では意外と真面目だ。ただ軽いだけの人じゃない様に感じられて、何と言うか…この人で良かったな、と思う。

「そう…ですね」

 …食べる手が止まる。

 先の戦いで、わたしは家族を失った。それも妹の手によって。血は繋がっていなかったが、それでも私はあの子の事を妹だと思っていた。少なくとも、曲がりなりにも守ると言う選択肢が浮かぶくらいには。お父様に至ってはわたし以上にあの子を愛していた筈。それでも好意や愛情というものは、一方通行では成り立たない。いずれ…必ずどこかで、崩れるときが来る。

「……まあ、あの時の事はしょうがねえよ、もう」

 準さんはもうポテトを摘まんでいて、複雑そうな顔で二、三本ずつ口に放り込んでいる。

 どうしようもない処まで崩れ切ってしまった以上、もう戻ってくることは無い。わたしも、先に進まないと。

「…これからは、準さんが一緒に居てくれますか?」

 ちょっときょとんとした様子の準さん。でも、すぐに答えは帰ってきた。

「ああ、任せろ。俺も燈ちゃんとなら楽しくやれそうな気がするよ」

 準さんはにっと笑ってくれた。その笑顔がすごく眩しくて、頼もしかった。

「…良かった」

 自然と表情が綻ぶ。尤も、断られたらどうしようかとも思ったけれど。


 昼食を終えたわたし達はまた商店街へと戻った。今度は何処へいこう。

 そう言えばあの戦いの寸前、二人でゲームセンターに行こうって話をしていた。

「あの、準さん。ゲームセンター…行ってみませんか?」

「お、良いな。そうしようか!」

 遠目に見てもよく分かる、自己主張の激しい建物。この前通ったときとは似ても似つかない様子で、ズンズンという低い音と人々の歓声が聞こえ……歓声?そういう施設なんですか?

「随分賑やかだな…まーたあいつか?」

「あいつ?」

 準さんは何か知っているようだった。あいつ…って、知り合いでも居るんだろうか。

「行けば分かるさ」

「うん…?」


 店内は随分と混んでいた。

 わたしは入ってすぐ目に入ったぬいぐるみに少し…いや、かなり惹かれたのだけど大きいし何やらガラスの向こうだしで手に入ることは無いのかも、と少し残念な気持ちになった。

でもちょっと話を聞こうと思って準さんを見ると人混みの後ろの方に紛れ込んでいて、まあ後でも良いかとただついていくことにした。

 皆が見ているのは何やらテレビのようなものを囲んでばちばちと音を立てている二人。

「あの、準さん。あの人達…何やってるんですか?」

「格ゲーさ。あー、格闘ゲーム。ゲーム自体はお前も知ってるだろ?」

「瞬さんや準さんがやってるのは見ましたが…」

「あれの一種でさ、まあ二人で戦うゲームだよ。ある種スポーツみたいなもんでもあるな。電子スポーツって感じ」

「ふうん…?」

 片方は余裕そうな、ぼさぼさした黒髪で青い着物を着た…顔は若いけど何か、お年寄り臭い格好のお兄さん。足あれ下駄ですよね…? 唯一若そうな要素があるとすれば、羽織にパーカーの様なフードがついていることくらいか。

 一方その相手と思しき人は彼よりも少し年上そうで、体つきもかなり屈強なタンクトップの…おじさん。ただ表情はかなり切迫していて、やっとのことで戦っているような、そんな印象。

「こッ、こいつ…化け物かよ!?」

 相手のおじさんがうなだれている。

「すげぇ! またイヅナさんがパーフェクト取った!」

「流石"星海の蒼い鴉"だ!」

「イヅナさん! 次俺とやってくれよ!」

「俺の番だろ!?」

 観衆の人たちが口々に叫ぶ。イヅナ…それがあの人の名前らしい。

「おいおい…何連戦してると思ってんだよ…」

 髪をくしゃくしゃと掻きながらイヅナさんはごちた。

「連勝だからクレ掛かってねえだろー!?」

「そりゃそうだけどよー…ああ分かったよ! 来な!」

 白い歯を剥き出しにして笑った。どう見ても疲れていたが、それを吹き飛ばす様な顔だった。

 ……暫くすると挑戦者達も皆倒されていき、段々挑む人も居なくなっていった。

「おう…終わったか…? これで全部かい…?」

 と、思ったら。

「んじゃ、ラストに俺とやろうぜ!」

 さっきまで隣にいたあの紅コートが、イヅナさんの向かいにスタンバイしていた。…準さん…幾らなんでも酷すぎないですか…?

「はぁぁぁ!? 手前見てたんならさっさと来いや!!」

 イヅナさんは軽く絶望の表情を浮かべていた。瞬さんと互角で弥生さん以下の腕前はそんなに凄いものだったのだろうか。

「ほらほら日頃の恨みを…あっいや、皆の仇を取ってやるぜ!」

「やっちまえ準ー!」

「お前だけが頼りだ!!」

 観衆の声が再び盛り上がった。準さんあなた此処の常連なんですか。

「あーもう分かったよ!! これで最後だからな!?」

 屈んで休憩していたイヅナさんも立ち上がる。

 準さんがコインを入れるとお互いにキャラクターを選択し、試合が始まる。

 …と、観衆を見ると皆が目を見開いている。

「やべえよ…イヅナさんあれ持ってきやがった…」

「俺達には一回も使わなかったのに…!」

 えーと…所謂本気モード、ってことでしょうか。持ちキャラってやつですか。

 準さんが選んだのは刀を構えた軽装で銀髪の女の子。

 対するイヅナさんは黒い羽を羽ばたかせる天狗の女の子。

 両方どういうキャラなのかは知らないけれど、銀髪の子が上位なのに対して天狗の子は中堅どころらしい…が、イヅナさんはその腕前で並の強キャラも無傷で薙ぎ倒すとか。

 …もうよくわかりません、わたし。

 二人は画面を凝視し、物凄い勢いでレバーを弾きボタンを叩いている。まるで互いに相手の反応速度を越えようとするような―――

 と、積み重なった疲労からかイヅナさんの反応が一瞬鈍る!

「流石に疲れてんな!」

 すかさず準さんのレバーが不可思議な軌道を描き、ボタンを幾つか同時に押した!

 キャラクターのカットインが入り、見事な演出にわたしだけでなく皆が息を飲み、またある人は声にならない歓声を上げた。

 銀髪の子の一閃が天狗の子に触れる…その瞬間!

「こいつは…負けねえよ!!」

 カットインも何もない、普通の技だったのだろう。

 天狗の子が、瞬時に銀髪の背後に翔んだ―――!

「おい…あれ無敵幾つだっけ…」

「三フレームじゃなかったか…?」

「殆どジャストで抜けやがった…!」

 中空で団扇から放たれた風が技を空振りに終えた銀髪の背中に当たり、その身体が壁に跳ね返る。

 其処に今度はイヅナさんが入力し―――いや、銀髪が浮いた時点ではもう入力し終えていた―――天狗の子の躍動感溢れるカットインが表示される。

 彼女自身が竜巻を纏い、一直線に銀髪の子に激突!物凄い威力に、四割近く残っていた準さんのゲージが一瞬で爆散した…。

「うわ……マジ?」

 多分、準さんがあの技を決めていたら勝ってたんだろう。

「俺の嫁がお前に負ける訳ねえだろ」

 イヅナさんはふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべている。

 ……まあ、なんでしょう。

 二人とも…楽しそうでした。


 お互いに健闘を称え合い、準さんのお金でジュースを飲むわたし達とイヅナさん。

「何だよ準、お前遂にこんないたいけな女の子に手を出すようになっちまったか」

「人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ。正式に俺が引き取ったんだ」

「へぇ…? そりゃあお前さっきは情けねえとこ見せちまったなぁ」

「あっ、あれは…!」

 二人のやり取りを見て、自然と笑っていた。

「ふふっ。イヅナさん、さっきはかっこよかったですよ!」

「はは、ありがとな。どれ、君みたいないい子にはお兄さんちょっと頑張っちゃおうかな」

 そう言うとイヅナさんはクレーンゲームの台まで来て、わたしの方を向いた。

「燈ちゃんだったか。さっきこのぬいぐるみ見てたろ?」

 さっき…と言っても、まだイヅナさん対戦中でわたしの方を見る余裕も、ましてやそれを察する必要も無い筈なのに…?

「見ない女の子が入ってきたのはすぐ分かったからな。綺麗な金髪だったもんでつい余所見しちまってた、はは」

 余所見しながら勝っていたと言うのか。

「でも…良いんですか?」

「ん? ああ気にするな、別に俺は連中の相手する為だけに此処に入り浸ってる訳じゃないさ。ゲームは苦手だけどどうしても景品がほしい…そんな娘の手助けをしてあげるのも趣味のひとつなのさ」

 こんな良い人に出会えて、わたし幸せです。

「手前こそ色目使ってんじゃねえボケ」

 …準さん、なんだか拗ねてます?

「別に取りゃしねえよ、この間"同類"の知り合いも出来たしな」

「え、マジかよ。珍しいなんてレベルじゃねえぞ…?」

「同感さ。おっと、この話題は燈ちゃん置いてきぼりになっちゃうな。さて、それじゃゲーセン廃の本領発揮といきますか!」

 ちゃりん、ちゃりんとコイン投入。

 イヅナさんは迷いなくクレーンを操作し、僅かな隙間からするりと掬い上げる…が、やや安定していない。今にも落ちてしまいそうだった。

「あっ…」

 ゴール寸前で滑り落ちるも、イヅナさんは不敵に笑い。

「勝ち確だ」

 唯一外界に繋がる穴、その縁に当たってこちら側へと転がり落ちる。

「凄い…ありがとうございます!」

 ペンギンのぬいぐるみを抱きしめる。わたしがこんなものを貰えたのは、一体何時振りだっただろうか。

「このくらい安いもんさ」

「…燈ちゃん、それちゃんと大事に持ってろよ」

 不意に準さんが、声音を落としてそう告げた。

「? は、はいっ」

 準さんの目こんな場所でする様な目つきでは無く、それこそいつもの―――

「おい待ちなよ、準。俺にもちゃんと聞こえてる」

 軽妙な口調のまま止めたのはイヅナさんだ。聞こえてる…?

 耳を澄まさずとも、視界に入る距離で数人の男の人達が揉めている様だった。

「手前の手はゲームする為に取っとけ。此処はプロの出番だ」

「なーにがプロだよかっこつけやがってぇ。お前こそ、こんな休日くらい休めよ。さっきの試合で分かったさ…お前、またひでえ怪我したんだろ?」

「…気付いてやがったか、クソ天狗め」

「ヘヘ、一フレームを視るこの目を騙せると思うなよ? つー訳で、まあ見てな。ぱぱっと片付けて来るからさ」

 ひらひらと手を振って、イヅナさんは仲裁に向かう。

「あーあと準」

「何だよ」

「そうやってすぐ牙剥く癖、直した方が良いと思うな。クールじゃないぜ?」

「…良いから早く行けよ」

 …確かに準さんは、ちょっとだけ好戦的過ぎると思う時がある。けどそれは…大体わたしや他の人を守る為だってことも、知っている。

 決して快楽で人に刃を向ける様な人じゃない。……わたしと違って。

「あいつも行っちまったし俺らも……燈ちゃん?」

「…あっ。い、いえ、何でもありません…」

「やっぱり、まだ馴染み切れないとこはある?」

「そんな事ないですよ! そういうのじゃないんです…えっと、もうちょっと遊んでいきませんか! わたしあれ遊んでみたいです!」

 ネガティブな自分語りなんて流行らない。そんな部分、態々晒け出すものじゃない。


 クレーンゲームで千円近く食われ、クイズゲームにも五百円ほど飲み込まれ、さっき準さん達のやっていた格闘ゲームに二千円溶かした辺りで正気に戻り、流石にそろそろ出ようという結論に至った。

 昼過ぎに入った筈が気付けばもう夕方。楽しい一日ってあっという間なんですね。

「ねえ、準さん」

 歩きながら、わたしは心から思ったことを告げる。

「ん?」

「また…一緒に来ましょうね」

「ああ、勿論さ。その為にももっと稼がねえとなあ…」

 現状、お金はわたしがある程度持っているので暫くは生きていけるけど…それもいつかは底をつく。

「わたしも頑張りますから」

「いい子だな、燈ちゃんは」

「これも共同生活の一環でしょう? 家族として、一緒に過ごす人の為に頑張るんです!」

「家族…か」

「…気が早すぎましたか?」

「んや、そんな事はないよ。…因みにあくまで参考として聞かせて欲しいんだけど…」

「何です?」

「燈ちゃん的に俺って…どんな役? その、お兄さんとか…」

「うーん…?」

 可愛らしい質問。と言っても…わたしも準さんからどう見られているのか聞いてみたかった。

ううん…わたしから見た準さん…。

 わたし達二人きりで家族って言ってる辺りで…ちょっと察して欲しいんですけどね…。

 でも…そうか。一時的に引き取って貰って、良くしてくれて。結果的にそのまま一緒に暮らす事になっただけで…ううん、やっぱり其処までの感情を持つ方がおかしいんでしょうか…。

「やっぱり…お兄さん辺りじゃないですか?」

「やっぱそうなるか」

「逆にわたしからも同じこと聞いていいですか?」

「俺から見た燈ちゃん? …まあ、妹と歳一緒だからなあ…どうしてもそんな風に見えちまうよ」

 予想は…していた。

 …きっとこれは勘違いなんだ。やっと寄り掛かれる人が出来て嬉しい、それだけなのに…勝手に一人で舞い上がってるだけなんだ。

 でもわたしの為にあれほどボロボロになってくれる様な人に、わたしもこの身全てで返したいと思うんです。

「じゃあそれらしく甘えちゃっても良いですか、お兄さん♪」

「燈ちゃんが妹だったらきっと凄く可愛がってたよ」

 優しい笑み。それは"妹"ではなく、"わたし"を見ていたように思う。

「…か、可愛がってくれて良いんですよ…?」

「そりゃ当たり前だろ。粗末にゃ扱わないぜ」

 そう言って準さんはぽんとわたしの頭を撫でる。

 その後は夕飯の献立を話し合ったり、他愛ない話をしてわたし達の部屋に帰った。


 …今はまだ、独りになった二人が集まって出来た歪な兄妹だけど。

 いつかこの関係が、もっと深い感情で繋がったものになったら良いなと、思うのでした。


#1 Epilogue『燈、星海町を歩く』 End.

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