第4話

 僕は女の子と共に国を片っ端から、ぐちゃぐちゃにしていった。崩壊していくのは、簡単なことだった。何人かを殺せば、誰が殺人をしたと村人が互いに疑心暗鬼になり、殺し合いに発展したためだ。まさか余所者の犯行であるとは、誰も思わないだろう。ただでさえ、戦争が多く行われているのだ。僕はどんどん殺していった。まるで人狼のように。血に塗れた僕を、女の子がどんな目で見ていたのか。その時の僕は考えることもなかった。


 そして一部の人は国による暗殺だと発言した。そのようなことが積み重なり、国にどんどん不信感が募っていく。そんな世間に、僕はほくそ笑んだ。計画は上手くいっている。国の崩壊はもう直ぐだ…。


 国が崩壊したのは自分が予想したよりも、直ぐであった。国民による反乱で、国はめちゃくちゃになり、後には荒野が残った。村と同じ焼け野原。死体の山。王がつけていたと思う血塗れの王冠を蹴り、その荒野で僕は笑った。


 大事な人を失った気持ちはどうだ?人を殺した罪を、死んで償え!


 女の子にこの喜びを伝えようと、女の子のいた位置に目を向ける。しかし目を向けた先に女の子はいなかった。そこにあるのは、人形のみ。僕は焦った。何故いない?僕は女の子のために国を断罪した。女の子を見失う筈がない。何故?いない…?


 この言葉を言った後に気づいた。気づいてしまった。僕が女の子だと思っていたのは、人形であって、


"女の子はあの時に死んでいた"


 だから一言も話さなかった。だから意見も言わなかった。だから目が死んでいた。だから…だからだからだから


 僕は…僕の感情は行き場をなくした。ただただ荒野で人形を抱きながら、叫んだ。泣いた。そして空を見上げ、


「僕の人生はどこでまちがえたのだろうか…」


 国に復讐したところからか。女の子と共にいたことか。孤児院の子たちと遊んだところからか。はたまた生まれたことが間違いだったのか。その問いに答える者はいない。


 答える者はみな、断罪したからだ。


 このことに気づいた瞬間痛みが走った。村を焼かれてからロクに治療も受けていないからだ。暗殺も一筋縄ではいかないところがあった。復讐心と憎悪で気づいていなかったが、今の彼の左腕は無く、顔の半分は焼けただれ、大小様々な傷は炎症をおこし、本来は動ける筈のない姿になっていた。

 

 彼は気づいた。いつのまにか断罪する側から、断罪される側になっていたことを。そして償い方は、痛みながら悶え、死ぬ方がマシなレベルで生きる。自死したくとも体が動かない。まさに生き地獄である。

 彼は薄れゆく意識の中、女の子の顔を思い出し、ゆっくりと目蓋を閉じた。




 隣の国が事後処理のために来たとき、ただ広い荒野の真ん中で人形を抱いた遺体があったそうだ。その遺体の横には、オダマキの花が咲いていた。

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