第13話 戦闘
王都へ向かうムーレン街道には、三騎で駆けるエステルたちの姿があった。
レオと二人乗りのエステルと、シェルト、シェルトの
アリアネは使用人たちと共に、後から王都にあるコーレイン家の
フェリシア姫の守護騎士の任命式に合わせて王都に戻るエステルに、シェルトを帯同させたのは父だった。
エステル個人としてではなく、コーレイン家の誉として守護騎士を拝命するために。
エステルは王都の
なのにシェルトと出発する時、見送るアリアネの嫉妬と敵意の眼差しが鬱陶しかった。
いっそレオと二人で王都に行きたかったのだが、母が反対した。病み上がりの女の一人旅など、とんでもないと。
ホランセ川の渓谷の石造りのアーチ橋に差し掛かると、エステルはその上流の方角に目を向けた。
半年程前、フェリシア姫の初陣で負傷した場所だ。
「あれは……」
その遥か上空、シナリー山の上に、無数の黒い影が飛びかっている。
エステルは手綱を引いて馬を止め、視力強化のスキルを発動した。
「ワイバーンか」
この時期になると、シナリー山の山頂付近にはワイバーンが繁殖のために集まり、巣を作る。
「いつもの繁殖期にしては、通年より随分と数が多いですね!」
「王都に着いたら、上に報告しなければならないな。数を減らすために、討伐隊が編成されるだろう」
シェルトも、エステルの傍らに馬を寄せてシナリー山の上空を見つめた。
繁殖期が終わり、春になると卵が孵って子育てのため、ワイバーンの狩りがさらに活発になる。
近隣の村や町、街道を行く人々をワイバーンが襲ってくるような事になるのは、防がなければならない。
「行こう。陽が落ちる前に王都に到着したい」
エステルが馬を促して、再び歩を進めた時。
「待て! こっちに何体か、ワイバーンが近づいて来るぞ!」
見晴らしのいい、溪谷の橋の上にいたエステルたちを、獲物として捉えたワイバーンが空から急降下し始めている。
「せまい橋の上は戦うのに不利だ、急いで渡れ!」
三騎が全力疾走で橋を渡り切った時、ワイバーンも上空から迫っていた!
「シェルト、散開して、ワイバーンを分断するぞ!」
「分かった!」
三人の騎士は肉体強化スキルをすでに発動させ、愛馬にもその力を及ぼしていた。
「ヨハン、
ワイバーンは身をよじって躱そうとしたが、片翼を切り裂かれてバランスを崩し、叫び声を上げながら街道に転がり落ちる。
すかさずそこへ少年が駆け寄って、もんどりを打っているワイバーンを馬上から
一方、エステルたちには二体のワイバーンが、左右から同時に挟み撃ちにするように攻撃を仕掛けて来た。
――左の奴は、僕に任せて。
後ろに乗っているレオから、エステルへ念話が届く。
――レオ、頼む!
右から咆哮を上げながら大口を開けて攻撃して来たワイバーンに、エステルはアダマンタイトの剣を抜き打ちざまに、腕ごと突っ込んだ。
口から長剣を串刺しにされたワイバーンは、血飛沫と臓物をまき散らしながら息絶えた。
レオは、左手をワイバーンに向け、手首に巻き付いて腕輪に擬態しているヨルムンガルドに命じる。
――
小さな渦を巻いた黒い塊がワイバーンの胸に直撃し、即死して撃ち落とされた。
「怪我はないか!」
急ぎ戻ったシェルトが、返り血を浴びたエステルを見て青ざめる。
「ああ、無事だ。ワイバーンの飛膜は、防具などの良い材料になるから持って行く」
エステルとレオは、馬から降りると、解体用のナイフでワイバーンを捌き始めた。
シェルトは安堵のため息をつきながら、首を振った。
「……また他のワイバーンが襲って来るかも知れない。すぐにここを離れよう」
「分かった」
エステルは名残惜しそうに飛膜だけ
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