第48話 バダルカタイ先生 3
丘の上の、バニヤンの巨木に守られるようにひっそりとたたずむ小さな学校は、ダビとトンニという二人の生徒と共に始められた。二人の親たちは、ヒサリが洪水の混乱にもかかわらず息子の安否を尋ねに来た事に感激し、必ず息子をヒサリの学校に通わせる、と約束したのだ。ダビの父親はヒサリの前で体を震わせながら言った。
「あなたのような立派な方がおられるからこそ、カサン帝国は強く偉大なのですなあ!」
この父親の期待を決して裏切るまい、とヒサリは思った。ヒサリ自身、この二人が最初の生徒になったのは自分にとって幸運だと思った。ダビは川向うのシム先生の所で勉強していたので、学ぶ習慣が身についていたし頭も良く、何より意欲的だった。カサン人の同年齢の子に比べてもかなり優秀だという印象を持った。彼のキリッとしたまなざしは常にヒサリの方に向けられており、ヒサリからもっともっと何かを引き出そうと常に身構えている。トンニの方は、ダビの持っているギラつくような情熱は持っておらず、どちらかというとクールで物静かな子だった。彼はダビとは違ってカサン語の勉強はゼロからのスタートだったため、ヒサリは彼にダビとは違う本を渡した。そしてヒサリがダビの勉強を見ている間にトンニにカサン文字の書き取りの練習をさせると、いつまでも一人真面目に課題に取り組んでいるのであった。ダビもトンニも極めて優秀だった。ヒサリは、この二人がこの地域の中でも比較的恵まれたきちんとした家庭の子だからだと思いつつも、自分の信念が裏付けられたようで嬉しかった。その信念とはつまり、「この国で最も虐げられている妖人の子達への教育にこそ情熱を注ぐべし」というものだった。彼らは素晴らしい知恵と技術を持っている。必ずカサン帝国発展に寄与するに違いない。祖父も父も、「妖怪と交わり、妖怪を自在に操る」とされる彼らの不思議な力を高く評価し、度々本の中に記していたではないか。
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