第41話 再会 4
その時だった。ついに視線の先に、母ちゃんの姿を見たのだ! 驚いたことに、母ちゃんは今までのボロではなく、まるで光線で織ったかのような、キラキラ光る白い布に体を包んでいた。けれどもその後ろ姿や歩き方は絶対に母ちゃんだ。間違い無い! そして、母ちゃんはオムー兄ちゃんではなく、もっと年上らしい背の高い青年に手を取られて歩いていた。
「母ちゃーん!」
しかし、その声は母ちゃんの耳には届かないらしく、二人は全く足を止めなかった。
「待って! 待ってよー!」
マルは必死になって二人の後を追った。足のイボが潰れて血が流れてるのが分かったけど、止まるわけにはいかない。こんなに、こんなに待ったんだから! その間、何度も転び、立ち上がり、追いすがろうとした。どれだけ長いこと進んだだろう。やがて、母ちゃんはマルの声に気付いたのか、ふと足を止めた。そしてマルがたどりつくのを待つかのようにその場にじっとしていた。ついにマルは追いついた! ハアハアと息を吐きながら、二人の前に回り込んだ。
「母ちゃん、病気だなんて嘘だったんだね! どうして迎えに来てくれなかったの!?」
マルは母ちゃんの顔を見上げて驚いた。母ちゃんは、着物だけではなく顔までもがキラキラとした光に包まれているように見えた。そして、母ちゃんの隣に立っている青年は、普通の赤褐色の肌に黒い髪をしていたが、その目は妖しい宝石のような緑色をしていた。マルはハッとした。
(母ちゃんと同じ色…)
まるで吸い込まれるように彼の目を見詰めていると、青年はマルに向かって優しく微笑み、こう言った。
「この子がマルだね。おらのかわいい弟」
(おらの兄ちゃん……?)
青年は、マルに向かって手を差し出した。マルがその手を掴もうとしたその時だった。
「ダメだよ!」
母ちゃんがピシャリと言った。
「この子の手を取っちゃいけない。この子はこれから先ずっと長く生きるんだからね」
青年はサッと手を引き、それから首を振った。そのまま二人は歩き出した。
「ああ、待って! 母ちゃん待って! 行かないで!」
さらに追いかけようとしたその時、マルの足がその場で止まった。目の前は、茶色く濁った激しい川の水の流れだった。それなのに母ちゃんと母ちゃんの手を引く青年は、まるでそこに橋がかかっているかのようにスイスイと進んで行く。マルはあっけに取られてその姿を見つめていた。やがて、二人が川の向こうの大きな光の中に消えた。
その瞬間、マルは、これまでずっと恐れていた事、うっすらと予感しつつも、決して受け入れたくないと思っていたことをはっきりと悟った。
(母ちゃんは、死んだんだ!)
ずっと昔に死んだ一番上の兄ちゃんに手を引かれて、川の向こうの世界に行ってしまった…。
マルは、全身を支えていた力が全て消え去ったかのようにガクガクと地面に崩れた。
(母ちゃんは死んだ……母ちゃんは死んだ……母ちゃんは死んだ……)
マルは、自分をいつも抱いてくれていた人の空しく求めるかのように大地に伏せ、激しく泥をかきむしった。しかしすぐに力は尽き、死んだように、泥の中に沈み行くように、その場に伸びた。涙は出なかった。泣く力すら、マルには残っていなかった。
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