大決戦! ボクは男だ!!!!【4】
過去一番の優しい光がコスチュームを作り出し、真昼の髪を綺麗な銀へと変貌させる。変身の途中、何者かがウィルフェースが作り出す聖域に手を出そうとしたが、弾かれているのを真昼は感じた。ウィルフェースは誰よりも彼の味方だった。
変身が完了した途端、体験したことの無い程の力が体の奥底から湧き上がってきた。拳を何度か開閉するだけでイケると思えるくらいに。
これなら……!
「っ、とんでもない光ですね。まさか私の皮膚をこうも貫通してくるとは」
タテヤマが右手首を左手で掴みながら言う。
見れば指の先が焼けてしまったのか小さく煙が上がっていた。
「ヒーローの変身妨害なんてするからだよ」
「……そういうものですか。覚えておきましょう」
「良いよ、覚えなくて。お前に今後なんてものは無いんだから」
「そういう訳にはいきません。私にはまだやるべきことがあるのです!」
言い終わるなり、タテヤマが突撃してくる。
速い。だが、目で追えない訳じゃない!
右後方から回り込んでからの高速の手刀を寸前で跳躍して回避する。そして無様に驚く不細工な表情を全力で蹴り飛ばした。
「ぐっ!?」
すかしていた顔が酷く歪む。とはいえあまり効いているようには真昼には見えなかった。
信念をどれだけ高めても、ただの打撃では防御力を極限まで高めたタテヤマには通じないらしい。しかし真昼の表情に焦りは無い。それどころか心は何時も以上に冷静になっていた。
「まだまだっ!」
「ぬっ!?」
「リヒタークーゲル!!」
お土産にと踵落としをお見舞いするが見事に防がれる。
でも真昼は怯まない。一連の攻撃によって僅かに出来た隙を利用して、直ちに光の弾を五発作り出した。
「いっけぇぇぇぇええええっ!!」
注視すれば目が眩むほどの光量を保ちながら、蜂のような動きで光弾がタテヤマの周囲を取り囲む。そして、左右上下に動いて敵の攻撃を上手く回避しながら一斉に目標を捉えた。
「ぐっふぅ!」
「まだっ!」
更に続けて光弾を放つ。
操作は続けるが自身による攻撃は忘れない。脳がパンクするほど複雑な思考を気合で乗り越えていく。
「こんな、こんなものでっ!」
「うああああああああああああああああっっっっっっっっっっ!!!!」
付き下ろされた右拳を左手で受け止め、カウンターの右ストレートを叩き込む。ついでとばかりに精力から捻り出した光弾を全て顔面にめり込ませた。
「ぬぅ、ぐぅ!?」
痛みによって暴れる敵から距離を取り呼吸を整える。
思ったよりも連撃による体力の消耗が激しかったのか息切れが激しかった。
軋む肺の痛みと額の汗を振り払い次の行動に備える真昼。強さの元である『思い』は崩していないが、一人で戦うことの辛さや怖さを今になって思い知らされた。
「っ!?」
瞬きを挟んだ瞬間、白煙の中から突如タテヤマが飛び出してくる。反応が僅かに遅れた真昼は咄嗟に腕を交差させるとすぐに訪れるであろう衝撃に備えた。
「あっ、ぐううううっっっっ!!」
「ぬううううっっ!!」
真昼とは比べ物にならない身長と体重を活かしたタックルに腕が大きく軋む。膨大な圧力に堪え切れず、地面を抉りながら後方へと押しやられると、そのまま無機質な外壁へと叩きつけられた。
「がああぁっ!?」
背部に稲妻が走り、内から込み上げて来た胃液が口から零れる。更に腹部を貫く強い衝撃によって一瞬視界がブラックアウトした。
「ぬううううっっっっ!!」
「――こっふぁっ!」
だが、狂人は一度の攻撃で沈むことを許さない。真昼の刹那的な失神を防いだのは誰でもないタテヤマだった。
「うっ!? ぐっ!? げはぁ!?」
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいっっ!!
何度も何度も執拗にタテヤマがタックルを続ける。雑な動きの中には相手を確実に壊そうとする丁寧な熱情がこもっていた。
対して主導権を握られた真昼は己の体液を吐き出すことしか出来ない。最初は透明だった胃液はいつしか赤色が混じり、真昼の表情は苦痛に満ちていた。
「うああっっ!? くぅ、っそおおおおっっっっ!!」
残っていた気力を振り絞って次の突撃を横に回避する。すんでのところで真昼がかわしたことによって狂人は止まることが出来ず壁の中へと吸い込まれていった。
……今の、うちに、態勢を。整え、ないとっ!!
立ち向かう意志を砕かれはしなかったもののダメージは酷く、立ち上がろうとする足はがくがくと揺れていた。
ダメ――じゃない!! まだ、ボクはっ、頑張れるっ!!
一向に収まりそうにない膝を叩き、無理に戦える状態へと持っていく。しかしながら、数度の体当たりによって内臓が損傷しているようで、呼吸をするだけで胸や腹が強く痛んだ。
口を拭いゆっくりと息を吐く。
この状態で持久戦は出来ない。
それなら、次で決めるしか……ない!!
リヒタークーゲルによってタテヤマの皮膚の表面はただれていた。完全に防がれてはいなかったのだ。つまりリヒタークーゲルよりも強い攻撃であれば、あの暴力的な防御力を貫けるはずだ。
自分の考えを信じて、ありったけの精力を精役へと昇華させる。
これで……倒すっ!!
精力を凝縮した光を右拳と両足に宿らせる。右手に持たせるのは相手を貫くためのブリッツネーデル。両足の底には光弾を爆発させることで勢いを確保するためのリヒタークーゲル。真昼が戦闘で使用出来る二つしかない精役の全てを応用して狂人を倒す算段だ。
この仕掛けによって自分も少なからず傷を負うだろう。だが他に方法が無い。自分を削る覚悟で挑まなければタテヤマには決して勝てないと分かっているから。
落ち着け。
落ち着け。
落ち着け……!
チャンスは一瞬だ。落ち着け。
タテヤマの気配がしたらすぐにぶち込む。慌てるな。ボクなら出来る!
高鳴る心臓と痛む頭を気にしながら一度小さく深呼吸をする。視線は前。だが、意識は全方位を気に掛ける。
――!?
左から爆音と共に壁が壊れる。
その瞬間、真昼は抱きつきを回避すると、小さなステップと共に居るであろう敵に右拳を打ち込んだ。
『大事なのはイメージすること』
霜月さんが言っていた。精役を利用する上で大切なのはイメージすることだと。
だからボクは信じる。この光の針を乗せた右拳で最悪の敵を貫く姿を。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
「ぬっぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおっっ!?」
全力で精力を開放し、タテヤマの胸に迫る。
肉薄するがまだ勢いも力も足りない。タテヤマの無敵の壁を突破するには、真昼の貧弱な力をカバーするにはまだ足りない。
今だああああああああああああああああああああっっっっ!!
「――っつああああっっっっ!! ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっっ!!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああっっ!?」
両足底のリヒタークーゲルを順番に爆発させ更に勢いを付ける。足裏に形容し難い痛みが駆け抜けるが知ったこっちゃなかった。
持っていけ精器! ボクの全部を!!
だからこいつを倒せ! ボクの全部を使って!!
「何でこんなああああっっ!! こんなああああああああああああああああっっ!?」
「うああああああああああああああああああああっっっっっっ!!」
胸から溢れる熱が止まらなくなり、右手の感覚が無くなった時――、
真昼は拳を振り抜いていた。
身体の至る所から白色の液体をぶちまけ、大地に沈んでいくタテヤマ。
最強と思われた鉄壁の防御を。
真昼の信念が、強い心がぶち抜いた瞬間だった。
「あ……」
タテヤマは見事に動かなかった。
だがそれを確認するや否や、真昼もまた地面に倒れた。
やった。やったよ、みんな。
指先を動かすどころか肺を動かすことすら難しい。しかし敵を仕留めた達成感によって何とか意識を保っていられた。
まだだ……まだ気絶しちゃだめ、だ!
タテヤマの中にある自分の精器はまだ返ってきていない。だが、そのことについては大して問題に思っていなかった。手ごたえは確かにあったからだ。
それよりも心配なのは仲間のことだ。生きているなら全員重症のはずで、特に夜兎は一刻も早く治療が必要だろう。
「っあ!?」
棒になった腕を動かそうとしてあまりの痛みに悶絶する。筋肉が断裂したと思えるほどの痛みは真昼の思考をより覚醒させたが、動こうとする気力を奪っていった。
「立って、ないっ。くっそ!」
「なら、私が手伝ってあげましょうか」
「――!?」
聞きたくもなかった突然の声に頭が真っ白になる。そして何者かに首を掴まれ無理に体を引き起こされた。
「おま、おま、えっ! なん、で!?」
「私もまさか、貴女にここまで傷を負わされるとは思ってもみませんでしたよぉ! おかげで自慢の肌もこの様ぁ!」
一度放り投げられ、無理やり体を反転させられると再度首を掴まれた。
視界に入るのは大穴が空いたタテヤマの肉体。何故生きているのか分からないが、そこ以外にも激しく損傷しているのが見て取れた。
「今私は貴女を殺してしまいたいほどです。ですが。ですがぁ! 貴女を殺してしまえばぁ! 貴女の精器を失えば私も持たないぃ!」
「だからぁ、何、だって、いうんだぁ!」
「代わりに四肢全部を貰っていくって言ってるんですよ!」
言ってないだろこの馬鹿!
でもヤバい。指一本動かせないのにここから反撃なんて。
っぅ、……諦めるもんかぁ!!
こいつにだけは負けられないんだああああっっ!!
「ぐぁ、あ、ぐ、はあっ!!」
だが現実は非情だ。どれだけやる気を持ったとしても体に活力が無ければ行動出来ない。信念や心の強さでどうにか出来る問題ではないのだ。真昼が暴れようとすればするほど、絶望は真昼から余裕と酸素を奪っていった。
「ほらぁ、苦しいでしょう。もっともっと苦しんでくださいよぉ! 今のうちに! その後ゆっくり切り刻んであげますからぁ、今から楽しみにしておいてくださいよぉ!!」
「うあぁっ……ああ、あ……ぁぁ」
駄目だ、意識が遠のく……。
負けるの……かな、ちくしょ、お――!?
「ぬうぁ!?」
意識が途切れる前に何故か真昼は解放され地面に落ちた。
無意識に空気を求め、懸命に呼吸を繰り返す。そして無理に目線を動かすと、精器が飛び出たタテヤマの衝撃映像に加えて、頭が無くなり綿が飛び出た首なし恐竜のぬいぐるみが地面に転がっていた。
え……?
何が起きたの?
疑問符に脳が支配されていると、力が入らないせいか上半身が前に倒れこもうとする。顔ごと地にダイブすると思った途端、突如柔らかな肉体が真昼を支えた。
「良かった。生きてるよね」
親しみのある声に思わず涙腺が刺激される。
鮮血による化粧を纏っているがまさしく彼女は霜月夕に違いなかった。
「しも……つき、さん? 霜月さん!」
「うん。……うん。危ないところだったね」
『本当だよ。良くやったなー、真昼!!』
突如脳に響く相棒の低い声。たったそれだけでまた涙が零れた。
「アケボノもっ、生きてたんだね!」
『俺も正直驚いた。いやー、精器を破壊されねー限り死なねーのかもな、この体は。でもおかげで役目も果たせたぞ』
恐竜の台詞を聞き終わると、箱のようなものが真昼の中に入ってきた。同時に僅かだが全身に力が戻った。
「うああああああああああああっっっっ!! 返し、なさい! それは、それは私だけの!? 私だけのものなのにぃぃぃぃ!!」
壊れてしまった玩具のように奇声を放ちながらその場で暴れるタテヤマ。むやみやたらに動いているが真昼達が居る位置とは掛け離れている。真昼の精器を失ったことで、どうにか保てていた五感が崩壊したようだった。
「……哀れだな。止めをさしてやろう」
紅髪の少女が虚空から大剣を取り出す。
「待って。ボクにやらせて」
これはボクが決着を付けないといけないんだ。でないと、人知れず散っていったアサミの仲間にも申し訳が立たない。
「……そうか。ならお願いしようかな。本音を言うと、私も少しきつかったんだ」
「うん、ありがとう。」
真昼の意志を汲み取ってくれたのか夕は特に文句は言わなかった。
彼女から剣を受け取り構える。剣を触れたことが無いだけあって不格好だった。
「っ!?」
精力を剣に流し込んだ途端、膝が折れ曲がった。タテヤマが所持していた精器を回収したものの、残った精力はたかが知れていたらしい。
「あはは、まったく。キミらしいな。私の、いや、私の中のキミの精力も使うといい」
言うなりそっと彼女は、真昼の手に自分の手を重ねてきた。
つい強張っていた顔も柔らかくなってしまい、枯れかかっていた力も少しだけ取り戻したような錯覚を覚える。
「ありがとう、霜月さん」
「礼なら全てが終わった後で良いから」
「うん。うん!」
「そうだ。いこう、まひる!!」
二人で精力を注ぎこむと、紅い刀身が生まれ変わったように白く輝いた。真昼達の精力が、元々夕が持っていた精力の特徴を上書きしたようだった。
「こんな、こんな女なんかに!? 私の野望がっ! 目的があぁ! 邪魔されてたまるかああああああああああああああああああああああっっっっ!!」
真昼達の精力に反応したのか急に襲い掛かってくるボロボロの狂人。そこにはもう品性はこれっぽっちも残っていなかった。
対する二人は息を揃えて剣を構える。
優雅ではない。
可憐さもない。
勿論凛々しさも。
だが、未来を掴み取ろうとする精神は溢れ出ていた。
「女なんかにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ボクは、ボクはっ!!!! 男だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
剣を振ると、強大な光の奔流が狂人を飲み込んだ。
そして、三つの世界の全てからタテヤマという存在を消し去った。
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